ー特別編ー家なき者たちのパレード
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「あの三人組は最初は仲間思いのいいやつの振りをしていたんだ。ホームレスの暮らしにも意外に金がかかってな。病気になったり、仕事にあぶれたりしたときに、困っているやつらにほんの二、三千円の小金を貸しつけたのよ。いつ返してくれても構わないなんていいながら。」
あとはだいたい想像がついた。
池袋には灰色から真っ黒の街金が山のようにある。
「人間は弱いもんでな、そんな甘いことをいわれると二回三回と借金が増えていく。あっという間に借金は何万円かのまとまった額になっちまう。普通の勤労者なら、別になんでもない金額だろうが、ホームレスにとっては大金だ。」
どの世界にも悪知恵の働くやつがいるものだ。
おれはいった。
「それである日突然金を返せといい始める」
ガンさんは首を縦に振った。
「そうだ。しかも金利はシュウイチでな」
トイチは十日で一割、シュウイチなら週ごとに一割だ。
雪ダルマ式に借金は増えて、すぐにとても返せる額ではなくなる。
裏はわかったが、おれの声ははずまなかった。
「そこで借金のかたにあぶれ手帳をとりあげた。奥村と三人組には金がいくらでもつくれる魔法の手帳だ」
「そうだ。城用建設で架空の仕事をでっちあげ、一日働いたことにして手帳に印紙を張る。二ヶ月後には印紙保険料の何十倍もの失業保険が入ってくる。しかも、やつらはハローワークへの受け取りに当人をいかせた。その場で金をとりあげ、千円札二、三枚の駄賃をやって、それでおしまいだ。」
おれはメモ帳を閉じていった。
「だったら話しは簡単だ。ガンさんが警察に届け出て、今の話をするだけで、城用建設も三人組もアウトだ。失業保険の詐欺でも悪質なら実刑になる。それでこの街のホームレスにも平和がもどってくるだろう」
俺がそういうと、ガンさんとヨウスケの顔が暗くなった。
秋の空には雲ひとつないのに、おかしな話。
「やっぱり悠はわかってねえな。健全な市民は警察が怖くないだろうが、おれたちは違うんだよ。うちらの仲間のなかには、まだ手配がかかっているものがいるかもしれないし、警察とは誰も関わりたくないんだ。しかも、今回は形のうえだけだが、失業保険詐欺の片棒を担いでいるようなもんだろ。おれだって、サツでこんなには歌えねえよ。」
確かにそのとおりだった。おれは白いシーツの壁を眺めた。
布が一枚あるだけで、むこうの世界がまるで見えなくなる。
俺たちが住んでいる社会のようだ。
ヨウスケがいった。
「ぼくは事件が解決したあとのほうが心配です。役所と警察が協力して、街の正常化を押し進めるかもしれない。そうなるとこの街のホームレスは、さらに生きづらさを増していくでしょう」
俺は日射しを浴びてあたたかくなった病院の屋上に倒れ込んだ。
空は青く高い。
秋になって透明度があがったようだ。
あそこから見たら、空気の底に生きている人間など、ホームレスでもそうでなくても塵みたいなものだろう。
あとはだいたい想像がついた。
池袋には灰色から真っ黒の街金が山のようにある。
「人間は弱いもんでな、そんな甘いことをいわれると二回三回と借金が増えていく。あっという間に借金は何万円かのまとまった額になっちまう。普通の勤労者なら、別になんでもない金額だろうが、ホームレスにとっては大金だ。」
どの世界にも悪知恵の働くやつがいるものだ。
おれはいった。
「それである日突然金を返せといい始める」
ガンさんは首を縦に振った。
「そうだ。しかも金利はシュウイチでな」
トイチは十日で一割、シュウイチなら週ごとに一割だ。
雪ダルマ式に借金は増えて、すぐにとても返せる額ではなくなる。
裏はわかったが、おれの声ははずまなかった。
「そこで借金のかたにあぶれ手帳をとりあげた。奥村と三人組には金がいくらでもつくれる魔法の手帳だ」
「そうだ。城用建設で架空の仕事をでっちあげ、一日働いたことにして手帳に印紙を張る。二ヶ月後には印紙保険料の何十倍もの失業保険が入ってくる。しかも、やつらはハローワークへの受け取りに当人をいかせた。その場で金をとりあげ、千円札二、三枚の駄賃をやって、それでおしまいだ。」
おれはメモ帳を閉じていった。
「だったら話しは簡単だ。ガンさんが警察に届け出て、今の話をするだけで、城用建設も三人組もアウトだ。失業保険の詐欺でも悪質なら実刑になる。それでこの街のホームレスにも平和がもどってくるだろう」
俺がそういうと、ガンさんとヨウスケの顔が暗くなった。
秋の空には雲ひとつないのに、おかしな話。
「やっぱり悠はわかってねえな。健全な市民は警察が怖くないだろうが、おれたちは違うんだよ。うちらの仲間のなかには、まだ手配がかかっているものがいるかもしれないし、警察とは誰も関わりたくないんだ。しかも、今回は形のうえだけだが、失業保険詐欺の片棒を担いでいるようなもんだろ。おれだって、サツでこんなには歌えねえよ。」
確かにそのとおりだった。おれは白いシーツの壁を眺めた。
布が一枚あるだけで、むこうの世界がまるで見えなくなる。
俺たちが住んでいる社会のようだ。
ヨウスケがいった。
「ぼくは事件が解決したあとのほうが心配です。役所と警察が協力して、街の正常化を押し進めるかもしれない。そうなるとこの街のホームレスは、さらに生きづらさを増していくでしょう」
俺は日射しを浴びてあたたかくなった病院の屋上に倒れ込んだ。
空は青く高い。
秋になって透明度があがったようだ。
あそこから見たら、空気の底に生きている人間など、ホームレスでもそうでなくても塵みたいなものだろう。