隣をチラ見した。
優希は少しだけ瞳を潤ませていた。

考えてみればコイツもよくまだ、この件に付き合っているのはものだ。

俺は気づかないふりをしていった。

「そいつはしんどそうだな。」

「悠と優希がなにか調べごとのためでも、毎日こうして顔をだしてくれるのは、なんだかうれしかった。とはいえ、あぶれ手帳の話をするつもりはないんだがな。おれもまだこの街でもうしばらく生き延びたいからな。」

ガンさんはそういうと豪快に笑って、まだ冷えているスイカにかぶりついた。
優希も笑って、そろそろ季節の終わる水菓子をほお張る。

なあ、誰かと一緒にスイカをくうのって、なかなか楽しいもんだよな。

それはたとえ歩道橋のしただろうが、相手がホームレスだろうがかわらないよろこびだ。

だが、やつらがそんなささいなおたのしみを見逃すはずがなかったのだ。

そいつは俺のミス。






つぎの日、庭の菜園をいじっていると俺の携帯が鳴った。

ヨウスケからだ。

「はい、こちら、悠。別にそっちに報告するような新しい進展はないよ。あぶれ手帳でなにかわかったのか？」

だいたい自分のほうに材料がないと、人間は攻撃的になるよな。

もどってきた絆代表の声は切羽詰まっていた。

『そんなことよりガンさんが襲われた。左腕を折られたみたいだ』

俺は手にしていた収穫ばさみを放り投げた。
携帯の送話口を押さえて、台所の真桜に声を張る。

「まお、ちょっと急用ができた。収穫の残り頼む。」

真桜の怒鳴り声が飛んできたが、俺は気にしなかった。
歩道へ走り出しながら、ヨウスケにきいた。

「ガンさんは今どこだ」

『池袋病院。うちのスタッフが入院させた。すぐに悠さんもいけるかな』

「ああ、もう走ってる」

池袋病院は東口だ。
首都高速のわきにある中規模の総合病院である。

『ぼくもこれからすぐにむかうから、病室で落ち合おう』

「わかった。」

走りながら携帯をきった。
ウイロードを駆け抜け、三越わきの昼でも有珠ぐらい道を走り、病院まで、電車の移動時間を除けばほぼ五分で到着した。

俺の足は鈍っていないようだった。
なにせいつおれだって襲撃されるかはわからないのだ。

逃げ足はとても重要。

ガンさんの病室は四人部屋だった。
はいってすぐの右側のベッドで、ごま塩ひげのホームレスは上半身を起こしていた。

顔には殴られた跡がある。片方の目は内出血を起こし、白目が赤く濁っていた。

左腕は包帯を巻かれ、首から三角巾でつられている。