ー特別編ー家なき者たちのパレード
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南池袋の歩道橋したのガンさん、鬼子母神参道のスンさん、池袋大橋したのイーさん、びっくりガードのジャモさん。
誰ひとり俺たちとは口をきいてくれなかった。
ただのひと言もである。
ダンボールハウスから顔さえのぞかせてくれない。
ジャモさんの家がきれいに修復されていたのが、せめてもの慰めだった。
どうやら一日あれば、ああした簡易ハウスは簡単につくれるようだ。
建築基準法などなければ、人はいくらでも自由に住めるものだ。
半日足を棒にして歩きまわったが、収穫はゼロ。
俺はふらふらに疲れて、豪雨のなか家に戻った。
びしょびしょに濡れるのがこんなに憂鬱なのは久々だった。
成果のない労働は、心と身体にこたえる。
その日はブラームスの名曲のグールドによる名演もさっぱり胸にしみなかった。
さて、どうしたらいいんだろう。
トラブルシューター、困難に直面す。
そうはいっても、俺には一枚のリスト以外に頼るものはなかった。
つぎの日も、またつぎの日も、バカになってホームレス訪問を続けるしかできることはない。
どんな人間でも毎日会っていると、だんだんと親しみがわいてくるものだ。
口を開かせるには、北風より太陽に頼るほうがいい。
さすがにこのころになるとコンビニでおにぎりを買うのも面倒になった。
リッカの果物屋の売れ残りのデラウェアやスイカ四分の一なんかを持っていく。
誰も相手にしてくれないなか、五日目にようやく口をきいてくれたのは、歩道橋の階段したに住むガンさんだった。
俺たちは西日のあたる明治通りのむかい側のビルを眺めながら、地面に座りスイカをくっていた。
種は白いポリ袋の中に吐く(俺は種も食ってるけど)。あたりを不潔にしておくと、住民に通報されてその場所で住めなくなるのだ。
清潔第一。
「なあ、悠、優希はこの事件が終わったら、もうこっちには顔をださなくなるのか?」
俺と優希は顔を見合わせた。
そういうことになるのかもしれない。
だが、捜査上そんなことはいえなかった。
「いや、たまには顔をだすよ。」
ガンさんは半分白くなったあごひげを撫でながら、ちらりと俺のほうを見た。
なんでもお見通しという顔つき。
「こういう暮らしをしていて、なにが一番つらいかわかるか、悠」
冬の寒さ、夏の暑さ、日々のくいものの確保だろうか。
俺の頭には月並みな答えしか浮かばない。
「わかんない」
ガンさんはなにかを吐くように笑っていった。
「そいつはな、毎日ひとりで誰にも話しかけることができないってことなんだ。雨が降ったら、雨だねといい、暑かったら今日も暑いなという。それだけの会話さえ、誰ともできない。ここは公園と違って、ほかの仲間はいないからな」
ひとり切りで、都心でホームレスとして生きる。
なんらかの事情があって、こういう生活の方法を選ばなければならなかったのだろうが、代償は大きかった。
これほど人があふれているのに、自分はそこには存在してはいない透明人間で、誰にもひと言も話しかけられないのだ。
誰ひとり俺たちとは口をきいてくれなかった。
ただのひと言もである。
ダンボールハウスから顔さえのぞかせてくれない。
ジャモさんの家がきれいに修復されていたのが、せめてもの慰めだった。
どうやら一日あれば、ああした簡易ハウスは簡単につくれるようだ。
建築基準法などなければ、人はいくらでも自由に住めるものだ。
半日足を棒にして歩きまわったが、収穫はゼロ。
俺はふらふらに疲れて、豪雨のなか家に戻った。
びしょびしょに濡れるのがこんなに憂鬱なのは久々だった。
成果のない労働は、心と身体にこたえる。
その日はブラームスの名曲のグールドによる名演もさっぱり胸にしみなかった。
さて、どうしたらいいんだろう。
トラブルシューター、困難に直面す。
そうはいっても、俺には一枚のリスト以外に頼るものはなかった。
つぎの日も、またつぎの日も、バカになってホームレス訪問を続けるしかできることはない。
どんな人間でも毎日会っていると、だんだんと親しみがわいてくるものだ。
口を開かせるには、北風より太陽に頼るほうがいい。
さすがにこのころになるとコンビニでおにぎりを買うのも面倒になった。
リッカの果物屋の売れ残りのデラウェアやスイカ四分の一なんかを持っていく。
誰も相手にしてくれないなか、五日目にようやく口をきいてくれたのは、歩道橋の階段したに住むガンさんだった。
俺たちは西日のあたる明治通りのむかい側のビルを眺めながら、地面に座りスイカをくっていた。
種は白いポリ袋の中に吐く(俺は種も食ってるけど)。あたりを不潔にしておくと、住民に通報されてその場所で住めなくなるのだ。
清潔第一。
「なあ、悠、優希はこの事件が終わったら、もうこっちには顔をださなくなるのか?」
俺と優希は顔を見合わせた。
そういうことになるのかもしれない。
だが、捜査上そんなことはいえなかった。
「いや、たまには顔をだすよ。」
ガンさんは半分白くなったあごひげを撫でながら、ちらりと俺のほうを見た。
なんでもお見通しという顔つき。
「こういう暮らしをしていて、なにが一番つらいかわかるか、悠」
冬の寒さ、夏の暑さ、日々のくいものの確保だろうか。
俺の頭には月並みな答えしか浮かばない。
「わかんない」
ガンさんはなにかを吐くように笑っていった。
「そいつはな、毎日ひとりで誰にも話しかけることができないってことなんだ。雨が降ったら、雨だねといい、暑かったら今日も暑いなという。それだけの会話さえ、誰ともできない。ここは公園と違って、ほかの仲間はいないからな」
ひとり切りで、都心でホームレスとして生きる。
なんらかの事情があって、こういう生活の方法を選ばなければならなかったのだろうが、代償は大きかった。
これほど人があふれているのに、自分はそこには存在してはいない透明人間で、誰にもひと言も話しかけられないのだ。