夕焼けの街を優希と話ながら帰った。

「妙なことに巻きこんで悪かったな。」

優希は首を傾げていった。

「というより、俺が一緒に居たのが原因だし。悠は別に何も悪くないよ。」

俺はいった。

「散歩に誘ったの俺だし。」

少し後ろについて歩いてる優希の声が背中に聞こえた。

「気にしてないよ。っていうか、驚いたってのが本音かも。」

俺は振り返らずに、なに?っと聞き返した。

「いや、ほらS・ウルフの王様とツレだったり、本当にトラブルシューターやってるんだなぁって。な、邪魔じゃないなら手伝わせてくれない?」

俺は少しのあいだ考えた。
このままコイツを連れまわしていいものかと……。
無言のまま歩くこと数分、俺はいいよっといった。
危なるようなら止めさせたらいいしな。

それにしても、昼のあいだは夏のような日差しだが、悠がたはもう秋の気配だった。
ネオンのまぶしい街とガキどもから熱気を奪っていく。

なぜ、ほんのすこしばかり風が冷たくなったくらいで、俺たちはこんなにセンチメンタルになるのだろう。

それが四季のある国に生まれたということか。




西一番街まで歩いてきたついでに、俺たちはリッカの店に顔を出した。
優希と六花は初顔合わせなので、互いの自己紹介をしているあいまに、なんだか、秋の音楽をききたくなり、俺は勝手にリッカのCDフォルダーからブラームス抜いた。

俺はロマン派は好きじゃないけど、ブラームスは別だ。

ハッタリのきかない真面目で厳格なおやじ。
でも胸のなかにはびっくりするようなロマンを抱えている。

やつが二十一世紀の東京で生まれていたなら、きっとギャルに振り回されて苦労しただろう。純情なアーティストなのだ。

CDラジカセにかけたのは、間奏曲だった。
俺はこの曲が好きで、グールド、アファニシエフ、ポゴレリチと揃っていたが、そのときはグードルを選んだ。

あんたもきけばわかるよ。
これがため息の出るような秋の音楽なんだ。

今回の事件を考えようとしたが、あまりに情報が少なくて、何も考えられなかった。

しかたない。
困った時は誰か情報をもっていそうなやつに聞く。そいつが一番の近道。

携帯を抜いて、タカシの番号を選んだ。とりつぎが出ると、俺はいった。

「悠だ。なぁ、あんたもうちの真桜のファンなのか」

人間に話しかけたのではないようだった。
オオカミのうなり声がもどってくる。
次に聞こえたのは秋をとおり越して、真冬の北風のようなタカシの声だ。

『お前は俺のボディガードを怒らせるのがうまいな。なんの用だ。』

俺はヨウスケの依頼の内容を話した。
誰かに話すことで情報というのは整理されるものだ。
最後にいう。

「とりあえず、明日からホームレスの家庭訪問をしてみるつもりなんだが、情報が足りなくて困ってる。タカシのところに入っていることを何でもいいから、教えてくれないか。なんでもS・ウルフにもホームレスがいるそうじゃないか。」

今度オオカミになるのはキングの方だった。
まさにSilver・Wolfだななんて言ったら切れるだろうか。
タカシはうなるようにいった。