ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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心の奥深くにある対立が外の世界に具体的な表現の場を見つけたのだ。
俺にはその安らぎは不思議じゃない。
院長は涙目で微笑んでいた。
「でも、もうおしまいね。すべてが知られてしまったし、三浦君も向こうにいった。そろそろ私も終わりにする時が来たのね。」
穏やかな光をたたえた目で、俺たちを見る。危ないと思った。
この目は西口公園でコーサクが最後に俺を見た目と同じだ。白木院長はグレイの室内着のパッチポケットに右手を入れた。
ふたたび現れた手には果物ナイフが握られていた。
ハーブティーを入れにキッチンにいったのは、このためだったのだろう。
白木院長は両手でナイフを振り上げた。
俺が一歩も動けないうちに彼女は自分の太ももに突き刺していた。
ナイフをこじるようにさらに深く差しこんでいく。俺は院長に飛びついて血まみれのナイフを取り上げた。
ソファのうしろに投げる。
傷の様子を確認するためにワンピースをめくりあげた。俺はそこを見た。
縦横に走る白い切り傷のあと。
それはミズホの手首と同じだった。生きていることの苦痛を少しでも忘れるために、白木院長は誰にも見えない太ももを自分で切り裂いていたのだ。
俺は手近なクッションをつかんで、血の噴き出す傷口に全体重をかけて押し付けた。
ミズホに叫ぶ。
「救急車を呼んでくれ」
ヒデにも叫んだ。
「止血帯の代わりだ。お前も力いっぱいクッションを押してくれ」
すでに半分血を吸ったクッションをふたり掛かりで、傷に押しつけた。
俺には死を覚悟した女医にかける言葉はなかった。
心の中でいうだけだ。
どれほど苦しんでも、悩んでもいい。
その最低の姿を見せてくれ。
その姿に勇気づけられるやつがきっといる。
俺たちはそうやって何とか生き延びてきたんだ。
救急車のサイレンが聞こえるまでの七分間。
俺は何度も同じ言葉を胸の中で繰り返していた。
その気持ちは今でも変わらない。
俺は単純な人間なのだ。
夏の朝がきて、すべてが終わった。
三浦清司は結局助からなかった。
警察は酔っぱらって足を滑らせたものと考えているらしい。あれほど自殺を望んでいたのに、皮肉なことにスパイダーの転落は、事故として統計上は処理されたのだ。
白木綾乃は二リットルの輸血の結果、一命を取り留めた。
俺たちが何もいわなかったので、スパイダーとの関係はまだ誰も知らない。
俺はこのままでいいと思う。
クリニックは部下に任せ、しばらく静養するそうだ。
俺は彼女自身が誰か共感的理解や受容のできるやつにカウンセリングを受けたほうがいいと思う。
どれほど賢くても、人の心は客観的に自分を見ることはできない。
俺たちにはつねに鏡が必要だ。
そして、最後にヒデとミズホのこと。
二人きりになって、反自殺クラブは自然消滅した。
二人とも死にこだわるのは止めて、自分自身の生を探すことにしたという。
ヒデにはあの身体がある。
以前から通っているスポーツクラブで、インストラクターをしないかと誘われていたそうだ。今ではやつは人に怪我をしないウエイトのあげ方を教えている。
ミズホはまた学校に戻った。
もう一度勉強をし直して、カウンセラーの資格を取りたいといっている。
いつか白木クリニックで働きたいのだそうだ。
そうなったら、俺のこともちゃんとカウンセリングしてくれる約束になっている。
なんのカウンセリングかって?
ミズホがいうには、これほど魅力的な女の子が誘ってもノーというんだから、俺には深刻な性的トラウマがあるに違いないそうだ。
深い性的外傷をいつかミズホにベットのうえで癒してもらうこと。まあ、期待しておこう。
たくさんの死体を見たこの夏で、俺が得たのは簡単な真実ばかり。
それは以下の通り。
①死んだなんげんより、生きてる人間の方が魅力的。
②心はいつも外の世界で自己を実現しようとする。
③俺たちはどれほど些細な理由でも自殺はできるし、その反対にどれほどくだらない目的で生きていくこともできる。
ガラスの粉をまぶしたように涼しさを増した風のなか、西口公園のベンチにしっかりと座る。
空のはるか高みには、ブラシで描いたような薄い雲。懸命にミズホが授業を受けているあいだに、俺は知的向上などかけらもせずに、口を開けて池袋の空を見ている。
この瞬間の生の自由と快適さ。
これは確かに生きる喜びのひとつだよな。
WORLD・THE・Link 2dr
【反自殺クラブ・完】
俺にはその安らぎは不思議じゃない。
院長は涙目で微笑んでいた。
「でも、もうおしまいね。すべてが知られてしまったし、三浦君も向こうにいった。そろそろ私も終わりにする時が来たのね。」
穏やかな光をたたえた目で、俺たちを見る。危ないと思った。
この目は西口公園でコーサクが最後に俺を見た目と同じだ。白木院長はグレイの室内着のパッチポケットに右手を入れた。
ふたたび現れた手には果物ナイフが握られていた。
ハーブティーを入れにキッチンにいったのは、このためだったのだろう。
白木院長は両手でナイフを振り上げた。
俺が一歩も動けないうちに彼女は自分の太ももに突き刺していた。
ナイフをこじるようにさらに深く差しこんでいく。俺は院長に飛びついて血まみれのナイフを取り上げた。
ソファのうしろに投げる。
傷の様子を確認するためにワンピースをめくりあげた。俺はそこを見た。
縦横に走る白い切り傷のあと。
それはミズホの手首と同じだった。生きていることの苦痛を少しでも忘れるために、白木院長は誰にも見えない太ももを自分で切り裂いていたのだ。
俺は手近なクッションをつかんで、血の噴き出す傷口に全体重をかけて押し付けた。
ミズホに叫ぶ。
「救急車を呼んでくれ」
ヒデにも叫んだ。
「止血帯の代わりだ。お前も力いっぱいクッションを押してくれ」
すでに半分血を吸ったクッションをふたり掛かりで、傷に押しつけた。
俺には死を覚悟した女医にかける言葉はなかった。
心の中でいうだけだ。
どれほど苦しんでも、悩んでもいい。
その最低の姿を見せてくれ。
その姿に勇気づけられるやつがきっといる。
俺たちはそうやって何とか生き延びてきたんだ。
救急車のサイレンが聞こえるまでの七分間。
俺は何度も同じ言葉を胸の中で繰り返していた。
その気持ちは今でも変わらない。
俺は単純な人間なのだ。
夏の朝がきて、すべてが終わった。
三浦清司は結局助からなかった。
警察は酔っぱらって足を滑らせたものと考えているらしい。あれほど自殺を望んでいたのに、皮肉なことにスパイダーの転落は、事故として統計上は処理されたのだ。
白木綾乃は二リットルの輸血の結果、一命を取り留めた。
俺たちが何もいわなかったので、スパイダーとの関係はまだ誰も知らない。
俺はこのままでいいと思う。
クリニックは部下に任せ、しばらく静養するそうだ。
俺は彼女自身が誰か共感的理解や受容のできるやつにカウンセリングを受けたほうがいいと思う。
どれほど賢くても、人の心は客観的に自分を見ることはできない。
俺たちにはつねに鏡が必要だ。
そして、最後にヒデとミズホのこと。
二人きりになって、反自殺クラブは自然消滅した。
二人とも死にこだわるのは止めて、自分自身の生を探すことにしたという。
ヒデにはあの身体がある。
以前から通っているスポーツクラブで、インストラクターをしないかと誘われていたそうだ。今ではやつは人に怪我をしないウエイトのあげ方を教えている。
ミズホはまた学校に戻った。
もう一度勉強をし直して、カウンセラーの資格を取りたいといっている。
いつか白木クリニックで働きたいのだそうだ。
そうなったら、俺のこともちゃんとカウンセリングしてくれる約束になっている。
なんのカウンセリングかって?
ミズホがいうには、これほど魅力的な女の子が誘ってもノーというんだから、俺には深刻な性的トラウマがあるに違いないそうだ。
深い性的外傷をいつかミズホにベットのうえで癒してもらうこと。まあ、期待しておこう。
たくさんの死体を見たこの夏で、俺が得たのは簡単な真実ばかり。
それは以下の通り。
①死んだなんげんより、生きてる人間の方が魅力的。
②心はいつも外の世界で自己を実現しようとする。
③俺たちはどれほど些細な理由でも自殺はできるし、その反対にどれほどくだらない目的で生きていくこともできる。
ガラスの粉をまぶしたように涼しさを増した風のなか、西口公園のベンチにしっかりと座る。
空のはるか高みには、ブラシで描いたような薄い雲。懸命にミズホが授業を受けているあいだに、俺は知的向上などかけらもせずに、口を開けて池袋の空を見ている。
この瞬間の生の自由と快適さ。
これは確かに生きる喜びのひとつだよな。
WORLD・THE・Link 2dr
【反自殺クラブ・完】