ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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白木クリニックの奥に院長の個人住居もあるという。
俺たちがヤシの木の前についたのは、もう深夜の一時過ぎだった。クリニックのロビーではなく、横の通用門を院長は開けてくれた。
こちらにも間違えようのない香りが広がっていた。つい先ほどスパイダーの部屋でかいだのと同じ鎮静効果のあるアロマだ。
風呂上りなのだろうか、ひざ丈の室内着のワンピースで出迎えてくれた。顔にはあの動かしようのない微笑が固定されている。
俺はビルのすきまの暗がりを落ちながら笑っていたスパイダーを思い出した。
「遅くまで、クラブ活動ごくろうさま。わたしの部屋は散らかっているから、ロビー先にいって。お茶を入れるから」
俺たちは半分だけ明かりのついたロビーにむかった。夜の観葉植物はなぜかさびしかった。こちらにもラベンダーの香り。
白木院長はガラスのカップ&ソーサーに薔薇の花弁の浮いたハーブティーを入れてきてくれる。
院長は俺の正面に座った。
いいたくないことを俺はいつも先にいわなければならない。そんな役回りだ。
「今夜、自殺サイトのスパイダーが、自分で飛び降り自殺しました。俺たちの目のまえで。新宿三丁目の雑居ビルです。」
白木院長の顔に浮かんでいた微笑はわずかに曇った。なにか雑用を思い出した、その程度である。
「スパイダーの所持品から、やつの住まいがわかりました。西麻布に丁目です。俺達三人は今そこから来たところです。」
美しい女医の表情は変わらなかった。
木の面に彫り付けた悲しい微笑。
他に表情がないから、仕方なく笑っている顔。
「スパイダーの部屋には、ここと同じ香りがした。白木さん自慢の四種類の精油のオリジナルブレンドです。」
まだ、院長の顔色は変わらなかった。
俺はとっておきを、センターテーブルに投げだした。
ピンク色の診察券とビニールの小袋に入った睡眠導入剤だ。
「俺は最初から引っ掛かっていました。スパイダーはどうやって、あれほど大量の薬を手に入れられたんだろう。医療従事者か、関係者に強いコネでも持っていたんだろうか。でも、白木さんなら、薬の組み合わせだって自殺志願者の対応だって、スパイダーに手を取って教えてやれる。仕組みはわかりました。でも、どうしてもわからないことがある。」
そこでミズホと俺の声がそろった。
「「なぜですか」」
俺はたたみかけた。
「なぜ、一方の手でスパイダーにたくさんの自殺志願者を殺させ、もう一方では反自殺クラブなんかに集団自殺を阻止させたんですか。こいつは人の命をもてあそぶライフゲームか何かだったんですか」
そこで初めて女医は人間らしい表情を見せた。スカートの裾を直しながら、困ったように笑って見せたのだ。
「私にも本当はよくわからない。自殺はいいことでも悪いことでもなく、雲や雨のようにただそこにあるだけかもしれない。わたしの患者さんも何人も自殺した。そのたびに立ち直れないくらいのショックで、自分の心の一部が死んでいくにようだった。こんなにつらいなら私も死んだ方がいいのかな。でも、もうちょっと頑張って他の患者さんを助けたいな。いつのころからか、私のなかに二つの気持ちがぶつかるようになった。」
俺達三人はリゾートホテルのような心療内科のロビーで、黙って院長の言葉をきいていた。
「三浦君は最初から希死念慮がとても強い患者さんだった。遠からずこの人は自殺してしまうだろう。私は毎日悲鳴をあげそうだった。ある日、自殺を少しでも先延ばしにするとしたら、何をしたいと質問すると、自分と同じように苦しむ人たちを安らかに苦痛なく、むこうの世界に送ってあげたい。それをしている間は、自殺を我慢できるといったの。それがすべての始まりだった。」
そして、自殺サイトのスパイダーが生まれる。院長はまた強靭な微笑みに戻っていた。
「しかも悪いことに。ある自殺遺児の会で講演を頼まれて、ミズホさんやヒデくん、コーサクくんに出会ってしまった。私の立場では、この三人から助けを求められたら断るのはむずかしかった。でも不思議ね。三浦君が集団自殺をプロデュースして、三人がそれを阻止する。そうやって矛盾する動きを手助けしているこのひと月半くらいが、私の精神は医師になってから一番安定していた」
俺たちがヤシの木の前についたのは、もう深夜の一時過ぎだった。クリニックのロビーではなく、横の通用門を院長は開けてくれた。
こちらにも間違えようのない香りが広がっていた。つい先ほどスパイダーの部屋でかいだのと同じ鎮静効果のあるアロマだ。
風呂上りなのだろうか、ひざ丈の室内着のワンピースで出迎えてくれた。顔にはあの動かしようのない微笑が固定されている。
俺はビルのすきまの暗がりを落ちながら笑っていたスパイダーを思い出した。
「遅くまで、クラブ活動ごくろうさま。わたしの部屋は散らかっているから、ロビー先にいって。お茶を入れるから」
俺たちは半分だけ明かりのついたロビーにむかった。夜の観葉植物はなぜかさびしかった。こちらにもラベンダーの香り。
白木院長はガラスのカップ&ソーサーに薔薇の花弁の浮いたハーブティーを入れてきてくれる。
院長は俺の正面に座った。
いいたくないことを俺はいつも先にいわなければならない。そんな役回りだ。
「今夜、自殺サイトのスパイダーが、自分で飛び降り自殺しました。俺たちの目のまえで。新宿三丁目の雑居ビルです。」
白木院長の顔に浮かんでいた微笑はわずかに曇った。なにか雑用を思い出した、その程度である。
「スパイダーの所持品から、やつの住まいがわかりました。西麻布に丁目です。俺達三人は今そこから来たところです。」
美しい女医の表情は変わらなかった。
木の面に彫り付けた悲しい微笑。
他に表情がないから、仕方なく笑っている顔。
「スパイダーの部屋には、ここと同じ香りがした。白木さん自慢の四種類の精油のオリジナルブレンドです。」
まだ、院長の顔色は変わらなかった。
俺はとっておきを、センターテーブルに投げだした。
ピンク色の診察券とビニールの小袋に入った睡眠導入剤だ。
「俺は最初から引っ掛かっていました。スパイダーはどうやって、あれほど大量の薬を手に入れられたんだろう。医療従事者か、関係者に強いコネでも持っていたんだろうか。でも、白木さんなら、薬の組み合わせだって自殺志願者の対応だって、スパイダーに手を取って教えてやれる。仕組みはわかりました。でも、どうしてもわからないことがある。」
そこでミズホと俺の声がそろった。
「「なぜですか」」
俺はたたみかけた。
「なぜ、一方の手でスパイダーにたくさんの自殺志願者を殺させ、もう一方では反自殺クラブなんかに集団自殺を阻止させたんですか。こいつは人の命をもてあそぶライフゲームか何かだったんですか」
そこで初めて女医は人間らしい表情を見せた。スカートの裾を直しながら、困ったように笑って見せたのだ。
「私にも本当はよくわからない。自殺はいいことでも悪いことでもなく、雲や雨のようにただそこにあるだけかもしれない。わたしの患者さんも何人も自殺した。そのたびに立ち直れないくらいのショックで、自分の心の一部が死んでいくにようだった。こんなにつらいなら私も死んだ方がいいのかな。でも、もうちょっと頑張って他の患者さんを助けたいな。いつのころからか、私のなかに二つの気持ちがぶつかるようになった。」
俺達三人はリゾートホテルのような心療内科のロビーで、黙って院長の言葉をきいていた。
「三浦君は最初から希死念慮がとても強い患者さんだった。遠からずこの人は自殺してしまうだろう。私は毎日悲鳴をあげそうだった。ある日、自殺を少しでも先延ばしにするとしたら、何をしたいと質問すると、自分と同じように苦しむ人たちを安らかに苦痛なく、むこうの世界に送ってあげたい。それをしている間は、自殺を我慢できるといったの。それがすべての始まりだった。」
そして、自殺サイトのスパイダーが生まれる。院長はまた強靭な微笑みに戻っていた。
「しかも悪いことに。ある自殺遺児の会で講演を頼まれて、ミズホさんやヒデくん、コーサクくんに出会ってしまった。私の立場では、この三人から助けを求められたら断るのはむずかしかった。でも不思議ね。三浦君が集団自殺をプロデュースして、三人がそれを阻止する。そうやって矛盾する動きを手助けしているこのひと月半くらいが、私の精神は医師になってから一番安定していた」