ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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なにか気の効いた返事をしようとしたとき、上から非常階段を下りてくる影があった。
逆三角形の小山のような影。
右手だけが特殊警棒のせいでひざに触れるくらい長かった。
コーサクに最後にもらったサングラスを胸に下げてヒデはいった。
「お前はこれまで何人の自殺志願者を向こうにやったんだ。」
スパイダーは俺の方を救いを求めるように見た。俺は黙って肩をすくめてやる。
ヒデはいう。
「二週間前、六本木で死んだ島岡孝作というやつを覚えているか。マッシュルームカットにピンクのTシャツ」
スパイダーはにこりと笑っていった。
「覚えているよ。父親が自殺したことで、ひどく傷ついていた青年だな。今ごろはその父親とあっていることだろう。魂というものがあるのならね。それがどうした。」
俺は何とかやつの顔に浮かんだ笑いを崩してやりたかった。
「アンタが計画した集団自殺が何度か阻止されたことがあっただろ。コーサクは俺たちと一緒に、危機介入をしていたんだ。それをアンタに殺された。」
クモ男は笑いながら、首を横に振った。
「違うちがう。アレは彼自身が納得して決めたことだ。問題などひとつもない。それより、私をこれからどうするんだ。」
ヒデにうなづくと、やつもうなづき返してきた。おれはいう。
「これからいっしょにきてもらう。アンタの部屋を探って自殺幇助の証拠を見つけ、警察に突き出す。」
スパイダーは大きく笑った。
前髪を熱帯夜の風が揺らす。
「こんな急に幕切れがくるとはね。でも、まあいいか。自殺が大嫌いな君達の目のまえで自殺ができるんだから」
やつはそういうと軽々と鉄棒で回転するように手すりから降っていった。
俺は踊り場から二、三段したに立っていた。
ヒデは同じく上の段だ。
やつの言葉が終わらないうちに、ヒデは巨体を投げ出した。素晴らしい反応だった。
さすがに伊達に毎日二十トンのウエイトをあげているわけではなかった。
ヒデはコンクリート打ちっぱなしの手すりから上体をのりだして、片手でやつの上着の襟もとをつかんでいた。
やつは笑いながら、空中で上着を脱ごうとしている。俺は叫んだ。
「よせ!」
引っ掛かっていた上着から片腕が抜けると、あとは一瞬だった。
スパイダーは黒シャツ一枚で、雑居ビルと雑居ビルのあいだに切りたった狭い暗黒に落ちていった。
悲鳴もなく、かすかに笑ったまま。コンクリートに固いものが当たる音は、クラクションにまぎれてよく聞こえなかった。
スパイダーは願いどおりに自殺できたのだろうか。俺はやつが書いたエンディングが気にいらなかった。
生き残る可能性はわずかでも、生きてくれた方がうれしかった。なんといっても、俺たちは反自殺クラブなのだ。
ヒデは呆然としていた。外に垂らしていた手をあげる。
仕立てのいい麻のブルゾンだけがついてきた。ヒデは絡みついた布を捨てるように手を振ろうとした。
「待て、中を確かめよう。」
俺はブルゾンのポケットを探った。
ハンカチでつまんで財布とキーホルダーを抜く。カギはゴルフとどこかの部屋のカギ。
財布のなかには運転免許証がはいっていた。
スパイダーの名前は、三浦清司三十四歳。
住まいは港区西麻布二丁目。
六本木ヒルズ近くの高級住宅街である。
俺はブルゾンを手すりの外に投げ捨てて、ヒデにいった。
「ミズホは近くで待機しているな。行こう」
逆三角形の小山のような影。
右手だけが特殊警棒のせいでひざに触れるくらい長かった。
コーサクに最後にもらったサングラスを胸に下げてヒデはいった。
「お前はこれまで何人の自殺志願者を向こうにやったんだ。」
スパイダーは俺の方を救いを求めるように見た。俺は黙って肩をすくめてやる。
ヒデはいう。
「二週間前、六本木で死んだ島岡孝作というやつを覚えているか。マッシュルームカットにピンクのTシャツ」
スパイダーはにこりと笑っていった。
「覚えているよ。父親が自殺したことで、ひどく傷ついていた青年だな。今ごろはその父親とあっていることだろう。魂というものがあるのならね。それがどうした。」
俺は何とかやつの顔に浮かんだ笑いを崩してやりたかった。
「アンタが計画した集団自殺が何度か阻止されたことがあっただろ。コーサクは俺たちと一緒に、危機介入をしていたんだ。それをアンタに殺された。」
クモ男は笑いながら、首を横に振った。
「違うちがう。アレは彼自身が納得して決めたことだ。問題などひとつもない。それより、私をこれからどうするんだ。」
ヒデにうなづくと、やつもうなづき返してきた。おれはいう。
「これからいっしょにきてもらう。アンタの部屋を探って自殺幇助の証拠を見つけ、警察に突き出す。」
スパイダーは大きく笑った。
前髪を熱帯夜の風が揺らす。
「こんな急に幕切れがくるとはね。でも、まあいいか。自殺が大嫌いな君達の目のまえで自殺ができるんだから」
やつはそういうと軽々と鉄棒で回転するように手すりから降っていった。
俺は踊り場から二、三段したに立っていた。
ヒデは同じく上の段だ。
やつの言葉が終わらないうちに、ヒデは巨体を投げ出した。素晴らしい反応だった。
さすがに伊達に毎日二十トンのウエイトをあげているわけではなかった。
ヒデはコンクリート打ちっぱなしの手すりから上体をのりだして、片手でやつの上着の襟もとをつかんでいた。
やつは笑いながら、空中で上着を脱ごうとしている。俺は叫んだ。
「よせ!」
引っ掛かっていた上着から片腕が抜けると、あとは一瞬だった。
スパイダーは黒シャツ一枚で、雑居ビルと雑居ビルのあいだに切りたった狭い暗黒に落ちていった。
悲鳴もなく、かすかに笑ったまま。コンクリートに固いものが当たる音は、クラクションにまぎれてよく聞こえなかった。
スパイダーは願いどおりに自殺できたのだろうか。俺はやつが書いたエンディングが気にいらなかった。
生き残る可能性はわずかでも、生きてくれた方がうれしかった。なんといっても、俺たちは反自殺クラブなのだ。
ヒデは呆然としていた。外に垂らしていた手をあげる。
仕立てのいい麻のブルゾンだけがついてきた。ヒデは絡みついた布を捨てるように手を振ろうとした。
「待て、中を確かめよう。」
俺はブルゾンのポケットを探った。
ハンカチでつまんで財布とキーホルダーを抜く。カギはゴルフとどこかの部屋のカギ。
財布のなかには運転免許証がはいっていた。
スパイダーの名前は、三浦清司三十四歳。
住まいは港区西麻布二丁目。
六本木ヒルズ近くの高級住宅街である。
俺はブルゾンを手すりの外に投げ捨てて、ヒデにいった。
「ミズホは近くで待機しているな。行こう」