ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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『そっちの様子はどう。悠さんは自殺したくなっていないよね。』
トイレのなかは音を消すためかなりの音量で軽めのジャズがかかっていた。
俺は声を張った。
「大丈夫だって。まだミズホとなにもしてないのに、死ねないよ。そばにはスパイダーがいる。ヒデと変わってくれ」
筋トレ中毒のボディビルダーがでた。
「今、つぎの集団自殺のスケジュールを組んでる。ここだけじゃなく、ほかにも動かしているプランがあるのかもしれない。今夜片をつけよう。時間はかけられない」
ヒデの声になにか金属のこすれる音が重なった。
お得意の特殊警棒だろうか。
『俺はどうすればいいんだ。』
「このバーを出たところが勝負だ。俺がスパイダーに声をかけて、やつを他の人間から切り離すから、そこで一気に制圧しよう」
ヒデの声が急に冷たくなった。
『やつを押さえてどうする』
それは俺も以前から考えていたことだった。
「自殺幣助という罪がある。証拠を集めて警察にでも送ってやればいいんじゃないか。できるなら、やつの住まいを見つけたい。不法な眠剤が見つかるはずだ。」
ヒデはうなるようにいった。
『それもいいだろう。一発でいい。俺に素手で思いきり殴らせてくれ』
スパイダーの頭蓋骨が持つだろうか。
俺はいった。
「頭はやめて、腹にしとけよ。」
個室に戻るとすでに翌週のスケジュールが決まっていた。俺は早ければいつでもいいといって、スパイダーに同調した。
酷く冷静に周囲の人間を観察している。もちろんそのあいだずっとにこやかに笑っているので、冷酷な印象はない。
俺と目が合うと意味深に笑顔を大きくした。コイツの好みが男とは思えないが、ここは新宿三丁目だった。
すぐとなりは日本最大のゲイタウンだ。
夜の十一時にバーを出た。来週に自殺する予定なのに、終電に間に合わないとか、次会うまで元気でねとか、別れの挨拶はサラリーマンの飲み会と全然変わらなかった。
会計をきっちり割り勘にして払うところなんかも、皮肉なユーモアだ。
雑居ビルなので、非常階段は外に面していて、ビールケースやつまみの入った段ボールでいっぱいだった。
もうひとりの男性志願者(胃の悪そうな四十代)がエレベーターの開ボタンを押して、いい調子で叫んだ。
「さあさあ、帰って寝ましょう。今夜は久しぶりに薬がなくてもぐっすり休めそうだ。」
俺がタイミングを見計らっていると、スパイダーがいった。
「ケンプくん、話があるんだけど。みんなは悪いけど、先にいってくれないか」
残りのメンバーは先におりてしまった。
俺は身構えた。
反自殺クラブの活動にこのやさしいクモ男は気づいているのだろうか。
やつは非常階段を数段あがり、うえの階を背伸びして見た。その場でいう。
「ちょっとこっちに来てくれないか」
俺はいつでも動けるように重心をさげたままゆっくりと油の染みたコンクリートの階段を上がった。
やつは踊り場の手すりにもたれ、新宿の夜景を眺めていた。池袋よりも何倍も明るい街だ。
「きみには感心したよ。若いのにすごく落ち着いているし、あの三人の同じところをまわる話にもきちんと対応していた。ケンプくん、君のいつか死にたいという決心は尊重するけれど、それを少しだけ先延ばしできないだろうか。わたしは君にわたしの仕事を手伝ってもらいたいだ。」
俺がスパイダーにリクルートされる?
仕事の誘いがあったのは、池袋のヤクザいらいで、まんざらでもなかった。
だが、俺の場合適職だといわれるのはなぜか裏稼業ばかりなのだ。
自殺幇助とか暴力団とか。
俺は心やさしい学生なのに。
トイレのなかは音を消すためかなりの音量で軽めのジャズがかかっていた。
俺は声を張った。
「大丈夫だって。まだミズホとなにもしてないのに、死ねないよ。そばにはスパイダーがいる。ヒデと変わってくれ」
筋トレ中毒のボディビルダーがでた。
「今、つぎの集団自殺のスケジュールを組んでる。ここだけじゃなく、ほかにも動かしているプランがあるのかもしれない。今夜片をつけよう。時間はかけられない」
ヒデの声になにか金属のこすれる音が重なった。
お得意の特殊警棒だろうか。
『俺はどうすればいいんだ。』
「このバーを出たところが勝負だ。俺がスパイダーに声をかけて、やつを他の人間から切り離すから、そこで一気に制圧しよう」
ヒデの声が急に冷たくなった。
『やつを押さえてどうする』
それは俺も以前から考えていたことだった。
「自殺幣助という罪がある。証拠を集めて警察にでも送ってやればいいんじゃないか。できるなら、やつの住まいを見つけたい。不法な眠剤が見つかるはずだ。」
ヒデはうなるようにいった。
『それもいいだろう。一発でいい。俺に素手で思いきり殴らせてくれ』
スパイダーの頭蓋骨が持つだろうか。
俺はいった。
「頭はやめて、腹にしとけよ。」
個室に戻るとすでに翌週のスケジュールが決まっていた。俺は早ければいつでもいいといって、スパイダーに同調した。
酷く冷静に周囲の人間を観察している。もちろんそのあいだずっとにこやかに笑っているので、冷酷な印象はない。
俺と目が合うと意味深に笑顔を大きくした。コイツの好みが男とは思えないが、ここは新宿三丁目だった。
すぐとなりは日本最大のゲイタウンだ。
夜の十一時にバーを出た。来週に自殺する予定なのに、終電に間に合わないとか、次会うまで元気でねとか、別れの挨拶はサラリーマンの飲み会と全然変わらなかった。
会計をきっちり割り勘にして払うところなんかも、皮肉なユーモアだ。
雑居ビルなので、非常階段は外に面していて、ビールケースやつまみの入った段ボールでいっぱいだった。
もうひとりの男性志願者(胃の悪そうな四十代)がエレベーターの開ボタンを押して、いい調子で叫んだ。
「さあさあ、帰って寝ましょう。今夜は久しぶりに薬がなくてもぐっすり休めそうだ。」
俺がタイミングを見計らっていると、スパイダーがいった。
「ケンプくん、話があるんだけど。みんなは悪いけど、先にいってくれないか」
残りのメンバーは先におりてしまった。
俺は身構えた。
反自殺クラブの活動にこのやさしいクモ男は気づいているのだろうか。
やつは非常階段を数段あがり、うえの階を背伸びして見た。その場でいう。
「ちょっとこっちに来てくれないか」
俺はいつでも動けるように重心をさげたままゆっくりと油の染みたコンクリートの階段を上がった。
やつは踊り場の手すりにもたれ、新宿の夜景を眺めていた。池袋よりも何倍も明るい街だ。
「きみには感心したよ。若いのにすごく落ち着いているし、あの三人の同じところをまわる話にもきちんと対応していた。ケンプくん、君のいつか死にたいという決心は尊重するけれど、それを少しだけ先延ばしできないだろうか。わたしは君にわたしの仕事を手伝ってもらいたいだ。」
俺がスパイダーにリクルートされる?
仕事の誘いがあったのは、池袋のヤクザいらいで、まんざらでもなかった。
だが、俺の場合適職だといわれるのはなぜか裏稼業ばかりなのだ。
自殺幇助とか暴力団とか。
俺は心やさしい学生なのに。