ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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帰りのクルマのなかはずっと沈黙だった。
エアコンがいらないくらいの冷たい静けさ。
びっくりガードの渋滞で、ミズホがフロントウインドウを見つめたままいきなりいった。
「私すっごくセックスしたくなっちゃった。悠さん、このまま西口のホテル街にいって、朝までめちゃめちゃにHしない」
晩飯はイタリアンにしよう、そのくらいの調子の軽い提案だった。
ミズホは顔色ひとつ変えていない。
普段の俺なら足元がぐらりと揺れる誘いだが、その時は違っていた。
「やめろよ。俺はカッターじゃない」
ミズホは不思議そうな顔で俺を見る。
「お前が苦しみを忘れるために自分自身を傷つける道具になりたくないんだ。リストカットも、好きでもない相手とのセックスも同じだろ。いつかミズホがコーサクのことをきちんと受け入れられる日が来たら、また誘ってくれ。そうしたら、俺はどんなに大事な用事だって放りだして、ミズホに会いに行くさ。」
まえの交差点は赤信号だった。
ミズホは目を見開いて俺を見つめた。
サイドブレーキをあげる。
彼女は俺の胸に抱きついて、それから三十秒思い切り声をあげて泣いた。
週明けの月曜日、俺たちはまた芸術劇場のカフェに集合した。
コーサクがいなくなって、三人になった反自殺クラブである。
俺はヒデにいった。
「そっちはどうしてた」
ヒデはアイスコーヒーのグラスをあげるだけで、顔をしかめた。
「うちのオヤジの時と同じだ。この二日間、朝から晩まで死ぬほどトレーニングした。計算はしてないが、あわせて百トンくらいはあげたんじゃないか。おかげでひどい筋肉痛だ。」
この男の場合、何が起きてもトレーニングをするのだろう。筋肉の量が増えすぎて、窒息しないといいのだが。
「さて、これからどうする」
ミズホは腫れた目を隠すためサングラスをしていた。ヒデがコーサクにもらったのと色違いのオークリーだ。
「私はコーサクの仇を討ちたい。どんなことをしてもね」
ヒデとミズホを見た。まだ二人ともショックから立ち直っていないようだ。俺はいった。
「また潜入作戦を復活させた方がいいだろう。スパイダーのやつは、俺達三人の顔を知らない。今度は絶対逃がさない。」
ミズホはさっとリストバンドをした右手をあげる。
「じゃあ、潜入役は私がやる。この手を見せたら、誰も疑わないでしょ。」
確かにそのとおりだが、俺は反対した。
「だめだ。潜入役は俺がやる。ミズホは不安定すぎて危険だ。スパイダーのやつは、善意だか信念だか知らないが、人が自殺するのは当然の権利だといって、迷ってる奴を自殺に導く。ここにいる三人のなかで一番安定しているのは俺だ」
ミイラ取りがミイラになる。コーサクに起きた結末はことわざのどおりだった。
生と死とあいだで綱引きするなら、俺みたいに能天気な現実快楽主義者がいいに決まっている。
めずらしくヒデも素直だった。
「アンタの言うとおりだな。力くらべならともかく、俺だってスパイダー相手じゃ危ない。」
そこで俺はミズホとヒデから、心中掲示板への志願者の心得をたっぷりとリサーチすることになった。
絶望のレッスンである。
まあ、この世の中にそんなレッスンがあったとしての話だが。
エアコンがいらないくらいの冷たい静けさ。
びっくりガードの渋滞で、ミズホがフロントウインドウを見つめたままいきなりいった。
「私すっごくセックスしたくなっちゃった。悠さん、このまま西口のホテル街にいって、朝までめちゃめちゃにHしない」
晩飯はイタリアンにしよう、そのくらいの調子の軽い提案だった。
ミズホは顔色ひとつ変えていない。
普段の俺なら足元がぐらりと揺れる誘いだが、その時は違っていた。
「やめろよ。俺はカッターじゃない」
ミズホは不思議そうな顔で俺を見る。
「お前が苦しみを忘れるために自分自身を傷つける道具になりたくないんだ。リストカットも、好きでもない相手とのセックスも同じだろ。いつかミズホがコーサクのことをきちんと受け入れられる日が来たら、また誘ってくれ。そうしたら、俺はどんなに大事な用事だって放りだして、ミズホに会いに行くさ。」
まえの交差点は赤信号だった。
ミズホは目を見開いて俺を見つめた。
サイドブレーキをあげる。
彼女は俺の胸に抱きついて、それから三十秒思い切り声をあげて泣いた。
週明けの月曜日、俺たちはまた芸術劇場のカフェに集合した。
コーサクがいなくなって、三人になった反自殺クラブである。
俺はヒデにいった。
「そっちはどうしてた」
ヒデはアイスコーヒーのグラスをあげるだけで、顔をしかめた。
「うちのオヤジの時と同じだ。この二日間、朝から晩まで死ぬほどトレーニングした。計算はしてないが、あわせて百トンくらいはあげたんじゃないか。おかげでひどい筋肉痛だ。」
この男の場合、何が起きてもトレーニングをするのだろう。筋肉の量が増えすぎて、窒息しないといいのだが。
「さて、これからどうする」
ミズホは腫れた目を隠すためサングラスをしていた。ヒデがコーサクにもらったのと色違いのオークリーだ。
「私はコーサクの仇を討ちたい。どんなことをしてもね」
ヒデとミズホを見た。まだ二人ともショックから立ち直っていないようだ。俺はいった。
「また潜入作戦を復活させた方がいいだろう。スパイダーのやつは、俺達三人の顔を知らない。今度は絶対逃がさない。」
ミズホはさっとリストバンドをした右手をあげる。
「じゃあ、潜入役は私がやる。この手を見せたら、誰も疑わないでしょ。」
確かにそのとおりだが、俺は反対した。
「だめだ。潜入役は俺がやる。ミズホは不安定すぎて危険だ。スパイダーのやつは、善意だか信念だか知らないが、人が自殺するのは当然の権利だといって、迷ってる奴を自殺に導く。ここにいる三人のなかで一番安定しているのは俺だ」
ミイラ取りがミイラになる。コーサクに起きた結末はことわざのどおりだった。
生と死とあいだで綱引きするなら、俺みたいに能天気な現実快楽主義者がいいに決まっている。
めずらしくヒデも素直だった。
「アンタの言うとおりだな。力くらべならともかく、俺だってスパイダー相手じゃ危ない。」
そこで俺はミズホとヒデから、心中掲示板への志願者の心得をたっぷりとリサーチすることになった。
絶望のレッスンである。
まあ、この世の中にそんなレッスンがあったとしての話だが。