ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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ミズホは放心していった。
「覚悟していたんじゃないかな。私のところには二日前にきたよ」
顔をあげておれはいった。
「みんな、プレゼントはなんだったんだ」
ヒデが押し殺すようにいう。
「俺が昔いいなといったオークリーのサングラスだった。コイツだ」
タンクトップの胸に下げたサングラスを指先で触れる。
「私は新しいのを買うからっていわれて、コーサクが使っていたアップルのIpot。悠さんは」
俺は急に泣きたくなってしまった。
涙がにじんだ。こぼさないようにいう。
「ヴェートーベンのピアノソナタ全集」
最後に重たいプレゼントをくれたものだ。
これから俺はあのピアノソナタの一曲をどこかできくたびに、コーサクのことを思い出すことになるだろう。
「そういえば、あの時おれたちはあのパーキングで、ずっと出入りの人間をチェックしていたよな。車だって調べていた。とすると、俺たちと四階のスロープですれ違った黒いゴルフにスパイダーは乗っていたはずだ。他の車はまだ残っているし、出ていった車のドライバーは顔を確認している。」
ヒデが唇を噛んでいった。
「そうか。あのときわかっていたら、俺がぶっ殺してやったのに」
俺はいった。
「あの時間までミニヴァンの側にやつはいたんだ。全員が最後の時を迎えるまで、クモ男はじっくりと見送ったはずだ。」
俺は真夜中の駐車場にひとり立ち、五人の人間が眠りながら生の世界から滑り落ちていくのを見ている男を想像した。
やつの顔は暗くて見えない。
そこにどんな目的や、考えがあるのだろうか。黄色い規制線を数人の警官がくぐってきた。
「ミズホ、泣くな。警官が来る。ここを離れよう。明日からクモ野郎を探すなら、ともかく今夜は休んでおくんだ。」
三人になった俺たちは、どこか次のクラブにでも行くふりをして、ぶらぶらとクルマに戻った。俺は自分でもできないことを、気軽に人にいう癖があるみたいだ。
その夜はうちに帰っても一睡もできなかった。眠りにつこうとするたびに、コーサクの白い肌と六本木の夜景が浮かんできた。
半覚醒状態で見る一瞬のイメージは、ひどく悲しく鮮やかで、安らかな眠りの世界に降りていく細く頼りない糸を切断した。
不眠のクモの糸。スパイダーは今ごろ静かに眠っているのだろうか。
だが、どちらにしても、俺がやつの糸にがんじらがらめに縛られているのは確かだった。
そいつは俺が生きている限り、決して切れない糸かもしれない。
次の日は一日中、三十二番のピアノソナタを部屋でかけていた。
ひとりきり真夏の葬式だ。
第二楽章のアリエッタ。
きらきらと光の粉をまくようなトリルで何度も泣きそうになる。
これ以上なく暗い顔をしているので、真桜は俺になにもいわなかった。
ミズホから電話があったのは、日の暮れるころだった。
『白木先生にアポが取れたから、ちょっと付き合ってくれない』
彼女の声も沈んでいた。
俺もこんな調子に聞こえるのだろうか。
「わかった」
うちの前で拾ってもらった。
ミズホは泣きはらした顔だった。
夏空がようやく暮れきったころ、下落合の白木クリニックに到着する。
俺たちは最後の患者とすれ違いに、ロビーに入った。ラベンダーとそのほかの香り。
確かにリラックスの効果はあるみたいだ。
少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
「覚悟していたんじゃないかな。私のところには二日前にきたよ」
顔をあげておれはいった。
「みんな、プレゼントはなんだったんだ」
ヒデが押し殺すようにいう。
「俺が昔いいなといったオークリーのサングラスだった。コイツだ」
タンクトップの胸に下げたサングラスを指先で触れる。
「私は新しいのを買うからっていわれて、コーサクが使っていたアップルのIpot。悠さんは」
俺は急に泣きたくなってしまった。
涙がにじんだ。こぼさないようにいう。
「ヴェートーベンのピアノソナタ全集」
最後に重たいプレゼントをくれたものだ。
これから俺はあのピアノソナタの一曲をどこかできくたびに、コーサクのことを思い出すことになるだろう。
「そういえば、あの時おれたちはあのパーキングで、ずっと出入りの人間をチェックしていたよな。車だって調べていた。とすると、俺たちと四階のスロープですれ違った黒いゴルフにスパイダーは乗っていたはずだ。他の車はまだ残っているし、出ていった車のドライバーは顔を確認している。」
ヒデが唇を噛んでいった。
「そうか。あのときわかっていたら、俺がぶっ殺してやったのに」
俺はいった。
「あの時間までミニヴァンの側にやつはいたんだ。全員が最後の時を迎えるまで、クモ男はじっくりと見送ったはずだ。」
俺は真夜中の駐車場にひとり立ち、五人の人間が眠りながら生の世界から滑り落ちていくのを見ている男を想像した。
やつの顔は暗くて見えない。
そこにどんな目的や、考えがあるのだろうか。黄色い規制線を数人の警官がくぐってきた。
「ミズホ、泣くな。警官が来る。ここを離れよう。明日からクモ野郎を探すなら、ともかく今夜は休んでおくんだ。」
三人になった俺たちは、どこか次のクラブにでも行くふりをして、ぶらぶらとクルマに戻った。俺は自分でもできないことを、気軽に人にいう癖があるみたいだ。
その夜はうちに帰っても一睡もできなかった。眠りにつこうとするたびに、コーサクの白い肌と六本木の夜景が浮かんできた。
半覚醒状態で見る一瞬のイメージは、ひどく悲しく鮮やかで、安らかな眠りの世界に降りていく細く頼りない糸を切断した。
不眠のクモの糸。スパイダーは今ごろ静かに眠っているのだろうか。
だが、どちらにしても、俺がやつの糸にがんじらがらめに縛られているのは確かだった。
そいつは俺が生きている限り、決して切れない糸かもしれない。
次の日は一日中、三十二番のピアノソナタを部屋でかけていた。
ひとりきり真夏の葬式だ。
第二楽章のアリエッタ。
きらきらと光の粉をまくようなトリルで何度も泣きそうになる。
これ以上なく暗い顔をしているので、真桜は俺になにもいわなかった。
ミズホから電話があったのは、日の暮れるころだった。
『白木先生にアポが取れたから、ちょっと付き合ってくれない』
彼女の声も沈んでいた。
俺もこんな調子に聞こえるのだろうか。
「わかった」
うちの前で拾ってもらった。
ミズホは泣きはらした顔だった。
夏空がようやく暮れきったころ、下落合の白木クリニックに到着する。
俺たちは最後の患者とすれ違いに、ロビーに入った。ラベンダーとそのほかの香り。
確かにリラックスの効果はあるみたいだ。
少しだけ肩の荷が下りたような気がした。