ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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「僕は東京の本社に栄転してから、おかしくなった。それまでは地方支社でいい成績をあげて楽しくやっていた。支社じゃ出世頭だったんだ。それが東京に来たら、毎日毎日競争で仕事のノルマがきつくてきつくて、慣れない街で、友達もいなくて……それで鬱病になって会社を二カ月休んだ。仕事も傍流に飛ばされた。もう、僕に未来はないし、うちのかあさんとおさんに申し訳ない。このまま会社で生き地獄が何十年も続くんだ。とても耐えていく自信がない。終わりにしたいんだ。最低の人生だ」
ヒデはまた一発頬をはった。無表情にいう。
「そんなに親が心配なら、最低の人生を生きろ。子供に自殺された親は一生立ち直れないんだぞ。シェルパにどこで会った。」
ぼんやりと焦点を失った遠藤の目が少しだけクリアになった。
「六本木ヒルズのカフェだった。とても優しくて、スムーズな人だったよ。」
ミズホがサラリーマンの横に膝をついた。
「男だったの、女だったの」
夢見るように笑って集団自殺未遂者はいう。
「男だ。赤い目をした、綺麗な男。君達とは正反対だった。僕の言うことを否定せずにすべて聞いてくれた。悪いのは僕じゃないといってくれた。死は誰にでもいつかは訪れるもの。地球や宇宙の目のくらむような歴史から見たら、人間の一生なんて向こう側のすけて見えるセミの羽根の厚さもない。自殺は生の否定ではなく、ただの消失でこのくだらない世界から卒業するだけのことだ。ただの出口にいいも悪いもない。」
俺はヒデと顔を見合わせた。
スパイダーは死を祝福する堕ちた天使なのだ。ミズホは怒りを押し殺していった。
「それで、あなたに眠剤をくれた。」
「そうだ」
ヒデはまた力任せに頬をはった。遠藤はこらえきれず涙を流す。
「そいつの特徴は」
「わかったから、たたかないでくれ。背は百八十くらい、そこの君くらいだ。」
俺を指さして遠藤はつづける。
「けど、とにかく痩せていた。目はカラーコンタクトだ。髪は錆びてくもってシルバーみたいな灰色。開いたシャツの胸にいくつか涙のタトゥーが見えた。点々といくつか。」
「連絡先とかはないのか」
「専用の携帯を渡されたが、もう捨てた。あとをたどることのできない携帯だといっていた。」
ヒデがいう。
「クソっ、自殺志願者をつぎつぎ向こうに送り込む変態野郎か。自分では手をくださずに、いい気なもんだ。快楽犯だな、それも連続大量殺人のな。」
元エリートはいった。
「そんなんじゃない」
全員の注意が、また遠藤に集まった。
「サイコスリラーじゃないんだ。そんなやつだと思っているなら、君達は絶対、彼に近づけないだろう」
俺は緑の苔がついた墓石を見ていた。
この下にある骨は何十年前に死んだのだろうか。
確かにこの男が今死んでも、五十年後に死んでも変わりはないように思えた。
俺はいった。
「どういう意味だ。」
元エリートは夢見るように微笑んだ。
「彼はいっていた。自分も生きているのは苦しくてしかたない。だが、同じように道に迷っているものを放っておくわけにもいかない。だから、自分は道を示して、仲間を先に向こうの世界に送り届けてやる。これで十分だというくらい働いたら、迷わずみんなのあとを追うつもりだ。こちらでやることが無くなったら、明日にでも自殺したいそうだ。嘘ではなかったと思う。僕は心中志願者に何人もあったからわかる。彼は変態ではなくて、ただの良心的なボランティアだ。君達には一生理解できないだろう。いや、そこにいる彼なら解るかもしれないな。」
コーサクが遠藤からあわてて目をそらした。
俺はミズホと目をあわせた。
黙って首を横に振る。
遠藤の隣の草むらでは、集団自殺のもうひとり、十代の女がキャンプ場にでも来たようにすやすやと眠っていた。
丸いひざが草で青く汚れている。
「さあ、いこう。もう話は十分だ。」
ミズホとヒデとコーサクと俺。
四人が夏草の墓地に立った。
最後に自殺に失敗した男の顔をのぞきこむ。
ほんの数十ミリグラムでも薬剤は強力だった。
ついさっきまで口をきいていた元エリートは、よだれを垂らして爆睡していた。
ヒデはまた一発頬をはった。無表情にいう。
「そんなに親が心配なら、最低の人生を生きろ。子供に自殺された親は一生立ち直れないんだぞ。シェルパにどこで会った。」
ぼんやりと焦点を失った遠藤の目が少しだけクリアになった。
「六本木ヒルズのカフェだった。とても優しくて、スムーズな人だったよ。」
ミズホがサラリーマンの横に膝をついた。
「男だったの、女だったの」
夢見るように笑って集団自殺未遂者はいう。
「男だ。赤い目をした、綺麗な男。君達とは正反対だった。僕の言うことを否定せずにすべて聞いてくれた。悪いのは僕じゃないといってくれた。死は誰にでもいつかは訪れるもの。地球や宇宙の目のくらむような歴史から見たら、人間の一生なんて向こう側のすけて見えるセミの羽根の厚さもない。自殺は生の否定ではなく、ただの消失でこのくだらない世界から卒業するだけのことだ。ただの出口にいいも悪いもない。」
俺はヒデと顔を見合わせた。
スパイダーは死を祝福する堕ちた天使なのだ。ミズホは怒りを押し殺していった。
「それで、あなたに眠剤をくれた。」
「そうだ」
ヒデはまた力任せに頬をはった。遠藤はこらえきれず涙を流す。
「そいつの特徴は」
「わかったから、たたかないでくれ。背は百八十くらい、そこの君くらいだ。」
俺を指さして遠藤はつづける。
「けど、とにかく痩せていた。目はカラーコンタクトだ。髪は錆びてくもってシルバーみたいな灰色。開いたシャツの胸にいくつか涙のタトゥーが見えた。点々といくつか。」
「連絡先とかはないのか」
「専用の携帯を渡されたが、もう捨てた。あとをたどることのできない携帯だといっていた。」
ヒデがいう。
「クソっ、自殺志願者をつぎつぎ向こうに送り込む変態野郎か。自分では手をくださずに、いい気なもんだ。快楽犯だな、それも連続大量殺人のな。」
元エリートはいった。
「そんなんじゃない」
全員の注意が、また遠藤に集まった。
「サイコスリラーじゃないんだ。そんなやつだと思っているなら、君達は絶対、彼に近づけないだろう」
俺は緑の苔がついた墓石を見ていた。
この下にある骨は何十年前に死んだのだろうか。
確かにこの男が今死んでも、五十年後に死んでも変わりはないように思えた。
俺はいった。
「どういう意味だ。」
元エリートは夢見るように微笑んだ。
「彼はいっていた。自分も生きているのは苦しくてしかたない。だが、同じように道に迷っているものを放っておくわけにもいかない。だから、自分は道を示して、仲間を先に向こうの世界に送り届けてやる。これで十分だというくらい働いたら、迷わずみんなのあとを追うつもりだ。こちらでやることが無くなったら、明日にでも自殺したいそうだ。嘘ではなかったと思う。僕は心中志願者に何人もあったからわかる。彼は変態ではなくて、ただの良心的なボランティアだ。君達には一生理解できないだろう。いや、そこにいる彼なら解るかもしれないな。」
コーサクが遠藤からあわてて目をそらした。
俺はミズホと目をあわせた。
黙って首を横に振る。
遠藤の隣の草むらでは、集団自殺のもうひとり、十代の女がキャンプ場にでも来たようにすやすやと眠っていた。
丸いひざが草で青く汚れている。
「さあ、いこう。もう話は十分だ。」
ミズホとヒデとコーサクと俺。
四人が夏草の墓地に立った。
最後に自殺に失敗した男の顔をのぞきこむ。
ほんの数十ミリグラムでも薬剤は強力だった。
ついさっきまで口をきいていた元エリートは、よだれを垂らして爆睡していた。