ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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俺は黙ってきいていた。
自分が誰かに傷つけられたとき、どれだけそいつには人を傷つける権利があるのだろうか。
残念な話だが、格差社会の下半分では、おおきくて悪賢い魚が、ちいさくて無知な小魚をのみこむのがあたりまえになっている。
誰もが被害者で加害者なのだった。
エリーは悪びれずにいった。
「この商売をやったら、よくわかるよ。男はみんなバカだって。ちょっとおだてて、身体を寄せれば、好きでもない絵を買ってくれる。アートがわかる振りをして、カッコつけてさ。契約まで彼女の振りをするだけでいいんだ。チョロいもんだよ。誰が原価の十倍で、つまらないくず絵を買うような男と付き合うっていうんだ。ほんとうに気持ち悪いよ。話しかけられただけで、自分に気があると思い込む女のいないダサい男たち。」
最後は吐き捨てるようだった。俺はそっと横のキヨヒコを見た。
やつはエリーに目をすえている。
開き直ったヴィーナスはさばさばという。
「もうわかったでしょう。クーリングオフの用紙を持ってくるから、さっさとサインしてもう帰ってよ。おかげで今月はノルマ未達成だから、基本給しかもらえないけど、アンタたちの嫌がらせにはこれ以上つきあってられないよ。」
おれもそれが一番だと思った。どう考えても、この女にはなんらかのペナルティを与える必要がある。
そのときキヨヒコが口を開いた。
「この絵を返却しなければ、ちゃんとお金がエリーさんのところにはいるんですか」
エリーはライターの手を途中でとめた。もともとおおきな目を見開いて、キヨヒコを見た。
「まあね。うちはノルマを達成すれば、三割の歩合が入るから」
思わず俺はいった。
「やめとけ。こんな絵は突き返せよ。原価十分の一なんだぞ。おまえは五万の絵に五年かけて三十倍以上の金を払うのか」
キヨヒコはテーブルのリトグラフに手を伸ばした。
ガラスのうえからビキニ女の顔にふれる。
「ぼくはこの絵の女性が、エリーさんに似てると思ってました。」
ヴィーナスは叫んだ。
「やめてよ。いっとくけど、クーリングオフしなくても、私はアンタとつきあうつもりなんてないから。無理してクレジット払うことないからね」
キヨヒコは額を綿の布で包みはじめた。ダンボールの薄い箱に治めていく。
「お前、ほんとうにそれでいいのか」
キヨヒコはエリーのほうを見ずにいう。
「はい。この絵を買うと決めたのは自分だから。さっきアズサさんがこの絵の価値がわからないっていってましたね。」
いきなりキヨヒコが雄弁になった。
気圧された俺は口の中でつぶやいた。
「……まあな」
「価値がわからないってことは、自分で勝手に決めればいいってことですよね。ぼくはこの絵には価値がなくても、この絵を売ってくれた人には価値があると思う。」
エリーがはっと息をのんだ。
自分が誰かに傷つけられたとき、どれだけそいつには人を傷つける権利があるのだろうか。
残念な話だが、格差社会の下半分では、おおきくて悪賢い魚が、ちいさくて無知な小魚をのみこむのがあたりまえになっている。
誰もが被害者で加害者なのだった。
エリーは悪びれずにいった。
「この商売をやったら、よくわかるよ。男はみんなバカだって。ちょっとおだてて、身体を寄せれば、好きでもない絵を買ってくれる。アートがわかる振りをして、カッコつけてさ。契約まで彼女の振りをするだけでいいんだ。チョロいもんだよ。誰が原価の十倍で、つまらないくず絵を買うような男と付き合うっていうんだ。ほんとうに気持ち悪いよ。話しかけられただけで、自分に気があると思い込む女のいないダサい男たち。」
最後は吐き捨てるようだった。俺はそっと横のキヨヒコを見た。
やつはエリーに目をすえている。
開き直ったヴィーナスはさばさばという。
「もうわかったでしょう。クーリングオフの用紙を持ってくるから、さっさとサインしてもう帰ってよ。おかげで今月はノルマ未達成だから、基本給しかもらえないけど、アンタたちの嫌がらせにはこれ以上つきあってられないよ。」
おれもそれが一番だと思った。どう考えても、この女にはなんらかのペナルティを与える必要がある。
そのときキヨヒコが口を開いた。
「この絵を返却しなければ、ちゃんとお金がエリーさんのところにはいるんですか」
エリーはライターの手を途中でとめた。もともとおおきな目を見開いて、キヨヒコを見た。
「まあね。うちはノルマを達成すれば、三割の歩合が入るから」
思わず俺はいった。
「やめとけ。こんな絵は突き返せよ。原価十分の一なんだぞ。おまえは五万の絵に五年かけて三十倍以上の金を払うのか」
キヨヒコはテーブルのリトグラフに手を伸ばした。
ガラスのうえからビキニ女の顔にふれる。
「ぼくはこの絵の女性が、エリーさんに似てると思ってました。」
ヴィーナスは叫んだ。
「やめてよ。いっとくけど、クーリングオフしなくても、私はアンタとつきあうつもりなんてないから。無理してクレジット払うことないからね」
キヨヒコは額を綿の布で包みはじめた。ダンボールの薄い箱に治めていく。
「お前、ほんとうにそれでいいのか」
キヨヒコはエリーのほうを見ずにいう。
「はい。この絵を買うと決めたのは自分だから。さっきアズサさんがこの絵の価値がわからないっていってましたね。」
いきなりキヨヒコが雄弁になった。
気圧された俺は口の中でつぶやいた。
「……まあな」
「価値がわからないってことは、自分で勝手に決めればいいってことですよね。ぼくはこの絵には価値がなくても、この絵を売ってくれた人には価値があると思う。」
エリーがはっと息をのんだ。