ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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一時間が過ぎ、二時間が過ぎた。
いつもカモにしていることを、逆に自分がやられるのだ。だんだんとエリーの顔に疲労の色が濃くなっている。
持久戦だった。
座ってジャスミン茶を飲んでるだけなので、俺のほうは別につらくはなかった。
手洗いに一度いっただけである。
残念だったのは、その部屋にはCDラジカセも、ステレオもないことだった。
それだけの時間があれば『展覧会の絵』をいくらでも聞けたのに。
三時間を過ぎたころだった。
ついにエリーの顔つきが変わった。声もアートの話をする時の猫なで声ではなくなっている。
「そろそろ、お引き取り願えないでしょうか。私どもにもまだまだたくさん業務がありますし。」
そろそろいい時期だろう。
俺はとっておきの隠し玉を投げる。
「エリーさん、西口のロサ会館の向かいにある質屋知ってますか。」
地元っ子ならだれでもおなじみの店だった。ウインドウにはロレックスやヴィトンがずらり。買う気はないけど、俺もたまにのぞくことがある。
エリーの顔はパレットのようだった。
不機嫌のうえに困惑の色が塗り重なる。
「……いえ、存じませんが。」
じっとイルカに目をやった。
飛び跳ねた尻尾の先から飛ぶ七色のしずく。
「どうしても値段がつけられなくて、俺たちはこのリトグラフを、質屋に持っていったんです。」
エリーの目の奥におびえが走った。
それでも笑顔は崩さない。
さすがにプロだった。俺は余裕でいってやる。
「いくら値がついたと思います?」
「……さあ」
きれいな女が目の前でパニックを起こす。
なかなか見ものだった。背中が丸まり、自慢の胸さえしぼんだように見える。
俺は困ったようにいった。
「八千円……でした。」
おれとキヨヒコは実際には質屋になどはいっていなかった。ただのブラフである。
だが、このリトグラフの原価を知っているエリーにはきっと衝撃的な「真実の暴露」だろう。
「質屋のおやじにねばって、もう少し上乗せ出来ないかっていってみたけど、一万円を超えるのは無理だって。この絵にはそんな価値は無いと言われたんですよ。」
俺は隣のキヨヒコを見た。
やつは真剣な表情で、エリーを観察している。
「八千円と五十万と百六十万。俺たちにはこの絵の価値はわからないし、値段を決めようがない。だから、そいつがはっきりするまで、今日はこの商談室から出るつもりはない。なんなら警察を呼んでもらってもいい。中宮さん、これ、どういうことだかわかりますか」
ヴィーナスの顔色がまた変わった。
完全にふてくされた表情になる。
腕組をして、隣の席に置いたポーチからタバコを抜いた。一服つけて、天井の隅に向かって細く煙を吐いた。
「それでなにがしたいの。もう、いいよ。クーリングオフしたいのなら、そうすればいいじゃない。こっちだって商売で売っているだけなんだから。」
ひと息でタバコを半分ほどは居にすると、灰皿でねじ消して、次の一本に火をつけた。
地上にヴィーナスはいないのだ。
いつもカモにしていることを、逆に自分がやられるのだ。だんだんとエリーの顔に疲労の色が濃くなっている。
持久戦だった。
座ってジャスミン茶を飲んでるだけなので、俺のほうは別につらくはなかった。
手洗いに一度いっただけである。
残念だったのは、その部屋にはCDラジカセも、ステレオもないことだった。
それだけの時間があれば『展覧会の絵』をいくらでも聞けたのに。
三時間を過ぎたころだった。
ついにエリーの顔つきが変わった。声もアートの話をする時の猫なで声ではなくなっている。
「そろそろ、お引き取り願えないでしょうか。私どもにもまだまだたくさん業務がありますし。」
そろそろいい時期だろう。
俺はとっておきの隠し玉を投げる。
「エリーさん、西口のロサ会館の向かいにある質屋知ってますか。」
地元っ子ならだれでもおなじみの店だった。ウインドウにはロレックスやヴィトンがずらり。買う気はないけど、俺もたまにのぞくことがある。
エリーの顔はパレットのようだった。
不機嫌のうえに困惑の色が塗り重なる。
「……いえ、存じませんが。」
じっとイルカに目をやった。
飛び跳ねた尻尾の先から飛ぶ七色のしずく。
「どうしても値段がつけられなくて、俺たちはこのリトグラフを、質屋に持っていったんです。」
エリーの目の奥におびえが走った。
それでも笑顔は崩さない。
さすがにプロだった。俺は余裕でいってやる。
「いくら値がついたと思います?」
「……さあ」
きれいな女が目の前でパニックを起こす。
なかなか見ものだった。背中が丸まり、自慢の胸さえしぼんだように見える。
俺は困ったようにいった。
「八千円……でした。」
おれとキヨヒコは実際には質屋になどはいっていなかった。ただのブラフである。
だが、このリトグラフの原価を知っているエリーにはきっと衝撃的な「真実の暴露」だろう。
「質屋のおやじにねばって、もう少し上乗せ出来ないかっていってみたけど、一万円を超えるのは無理だって。この絵にはそんな価値は無いと言われたんですよ。」
俺は隣のキヨヒコを見た。
やつは真剣な表情で、エリーを観察している。
「八千円と五十万と百六十万。俺たちにはこの絵の価値はわからないし、値段を決めようがない。だから、そいつがはっきりするまで、今日はこの商談室から出るつもりはない。なんなら警察を呼んでもらってもいい。中宮さん、これ、どういうことだかわかりますか」
ヴィーナスの顔色がまた変わった。
完全にふてくされた表情になる。
腕組をして、隣の席に置いたポーチからタバコを抜いた。一服つけて、天井の隅に向かって細く煙を吐いた。
「それでなにがしたいの。もう、いいよ。クーリングオフしたいのなら、そうすればいいじゃない。こっちだって商売で売っているだけなんだから。」
ひと息でタバコを半分ほどは居にすると、灰皿でねじ消して、次の一本に火をつけた。
地上にヴィーナスはいないのだ。