ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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「昨日はいろいろみせてもらったけど、やっぱりこの絵が一番好きだな。」
習慣になっているのだろう。エリーは胸のまえで両手をあわせて、目をぱっちりと見開いた。
「桐山さんて、いいセンスをしてますね。今泉さんもいいお友だちをおもちでうらやましいです。」
そんな台詞は池袋の地元では、生まれてから一度もいわれたことなかった。
俺は困ったようにいった。
「そこで中宮さんにお願いあるんです。俺は、このリトグラフをキヨヒコから買いたいんだけど、いったいいくらぐらいの値段にしたらいいんでしょうか。こいつは最後の一点で、ほかにないというし」
テーブルのうえには一枚の絵。
それをふたりの男とひとりの女がかこんでいる。
能天気なモチーフの周辺で、空気が急に重くなった。エリーは笑顔を固めたまま黙りこんでしまった。
あたりまえの話だ。
この絵のほんとうの価値について尋ねられたことなど、一度もなかったに違いない。
なにせどの絵も割引価格の一律五十万で売り付けていたのだから。
「ちょっとお待ちください。店長と話をしてまいります。」
最後まで女の武器をつかうのを、エリーは忘れなかった。
立ち上がるときにたっぷりと胸の谷間を拝ませていったのだ。
ドアが閉まると、キヨヒコがこわごわといった。
「店長がきたら、どうするんですか」
望むところだ。
俺はパーティションのむこうに聞こえないように小声で返した。
「俺とアンタは芸術を愛する善意の客だ。追い出すことができると思うか。こっちの手元にはクーリングオフの期間中で、いつでも突き返せるジョナサンが一枚あるんだぞ。お客様は神様だろうが」
それは資本主義の世界では、万有引力の法則に等しいはずだった。
まあ、俺個人としては、あまりいばる客は大嫌いだけど。
「でも、エリーさんをいじめるのは、なんだか……」
ドアの外でハイヒールの足音がした。
俺は声を押し殺した。
「アンタはあの女の本心が知りたいんだろ。三枚もインチキリトグラフを買ったんだ。少々の圧力をかけるくらいなんなんだ」
ドアが開いた。
不安そうな表情のエリーがひとり。
店長もほかのセールスレディもいなかった。
金にならない面倒事にはだれも関わりになりたくなかったのだろう。
顧客への対応には、企業文化がでるよな。
「すでにその作品は今泉さんの物ですから、価格については持ち主がご自由にお決めになればよろしいかと存じます。」
きっと店長が吹きこんだのだろう。
言葉が堅かった。
俺は絵のことなどわからない無邪気なガキの振りをした。
「店長さんはいなかったんですか。この絵のことをもっとよく知りたかったんですけど。」
エリーはふたたび胸をテーブルに乗せた。
谷間がまっすぐ俺のほうを示す。
磁石みたいだ。谷間のあいだに銀のクロスが二重になって揺れていた。
俺も男である。
ネックレスに気づいたのは、その時が初めてだった。ずっとその下を見ていたのだ。
お恥ずかしい話。
習慣になっているのだろう。エリーは胸のまえで両手をあわせて、目をぱっちりと見開いた。
「桐山さんて、いいセンスをしてますね。今泉さんもいいお友だちをおもちでうらやましいです。」
そんな台詞は池袋の地元では、生まれてから一度もいわれたことなかった。
俺は困ったようにいった。
「そこで中宮さんにお願いあるんです。俺は、このリトグラフをキヨヒコから買いたいんだけど、いったいいくらぐらいの値段にしたらいいんでしょうか。こいつは最後の一点で、ほかにないというし」
テーブルのうえには一枚の絵。
それをふたりの男とひとりの女がかこんでいる。
能天気なモチーフの周辺で、空気が急に重くなった。エリーは笑顔を固めたまま黙りこんでしまった。
あたりまえの話だ。
この絵のほんとうの価値について尋ねられたことなど、一度もなかったに違いない。
なにせどの絵も割引価格の一律五十万で売り付けていたのだから。
「ちょっとお待ちください。店長と話をしてまいります。」
最後まで女の武器をつかうのを、エリーは忘れなかった。
立ち上がるときにたっぷりと胸の谷間を拝ませていったのだ。
ドアが閉まると、キヨヒコがこわごわといった。
「店長がきたら、どうするんですか」
望むところだ。
俺はパーティションのむこうに聞こえないように小声で返した。
「俺とアンタは芸術を愛する善意の客だ。追い出すことができると思うか。こっちの手元にはクーリングオフの期間中で、いつでも突き返せるジョナサンが一枚あるんだぞ。お客様は神様だろうが」
それは資本主義の世界では、万有引力の法則に等しいはずだった。
まあ、俺個人としては、あまりいばる客は大嫌いだけど。
「でも、エリーさんをいじめるのは、なんだか……」
ドアの外でハイヒールの足音がした。
俺は声を押し殺した。
「アンタはあの女の本心が知りたいんだろ。三枚もインチキリトグラフを買ったんだ。少々の圧力をかけるくらいなんなんだ」
ドアが開いた。
不安そうな表情のエリーがひとり。
店長もほかのセールスレディもいなかった。
金にならない面倒事にはだれも関わりになりたくなかったのだろう。
顧客への対応には、企業文化がでるよな。
「すでにその作品は今泉さんの物ですから、価格については持ち主がご自由にお決めになればよろしいかと存じます。」
きっと店長が吹きこんだのだろう。
言葉が堅かった。
俺は絵のことなどわからない無邪気なガキの振りをした。
「店長さんはいなかったんですか。この絵のことをもっとよく知りたかったんですけど。」
エリーはふたたび胸をテーブルに乗せた。
谷間がまっすぐ俺のほうを示す。
磁石みたいだ。谷間のあいだに銀のクロスが二重になって揺れていた。
俺も男である。
ネックレスに気づいたのは、その時が初めてだった。ずっとその下を見ていたのだ。
お恥ずかしい話。