ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なかなかよかったよ。イルカとかビキニとか」
ほかにほめるところがぜんぜん思い浮かばなかった。
エリーは手をたたいてよろこんだ。
「まあ、お目が高いですね。ジョナサンのイルカは平和と愛と環境問題のシンボルなんです。やっぱり見る人が見ると解説なんてなくても、すぐわかっちゃうんですね。」
歯の浮くようなほめ言葉だが、鉄壁の営業トーク。エリーは例のカードを俺にさし出した。
カードを受け取った俺の手をつかみ、離そうとしない。
「今うちのギャラリーで、ちょうどジョナサン・デイヴィスの展覧会を開いているんです。すごくいいタイミング。これから見に行きませんか。」
とがった胸の先をすりつけるように迫ってくる。俺はキヨヒコがこのボディアタックにどう対処したのだろうと心配になった。
誰かに見られているんじゃないかと気が気でなかった。
なにせ、ここはホームタウンの池袋。
どんな知り合いが通りかかるか知れたものではない。
「わかった。いくよ」
女は不思議そうな顔をした。
自分から進んでギャラリーに向かう客など、ほんのひとにぎりなのだろう。
俺としては、一刻も早くその場を離れたかっただけだ。
こんな場面を悠にでも目撃されたら、シャレにならない。
店は大通り沿いの路面店だった。床も壁も黒いアクリル板に包まれている。
そこにピンスポットのあたったリトグラフが無数に飾ってあった。
エリーと俺は恋人同士のように身体をよせ合って、一枚一枚見ていく。
なぜこれほどたくさんのイルカを描けるのか不思議だったが、代わり映えしないイルカがやつのライフワークなのだそうだ。
エリーはべたべたと俺の身体にさわりながら、絵を紹介してくれる。人間というのは不思議なもので、懸命に何かを話しかけられると、つい適当な返事をしてしまうのだ。
俺は不穏な空気をたたえたリトグラフのまえで口を滑らせた。
「この絵だけ虹の代わりに嵐の空になってるな。」
エリーは目をきらきらと光らせていった。
「さすがですね。これは超大国の核実験に抗議して、警告のために暗い雨雲を描いたものなんです。やっぱりセンスのいい人が見ると、すぐにわかるんですね。この絵の本当のメッセージを理解してくれてうれしいな」
美人にそんなことをいわれると、インチキだとわかっていても悪い気はしないものだった。よくできた商売。
黒いパーティションで仕切られたギャラリーを、ゆっくりとひとまわりするのに三十分かかった。
ようやくこれで冴えない展覧会も終わりかなと思ったら、セールスレディはいう。
「なにかお気に入りの作品はありましたか。」
あるわけない。おれはソフトに返した。
「どれもピンとこなかったかな」
エリーはねばった。
「じゃあ、全部のなかでどれが一番よかったでしょうか。」
さすがだった。しかたなくいう。
「うーん、あの嵐の空のやつ。」
「桐山さんはすごく若いのに、趣味がいいですねー。」
ほかにほめるところがぜんぜん思い浮かばなかった。
エリーは手をたたいてよろこんだ。
「まあ、お目が高いですね。ジョナサンのイルカは平和と愛と環境問題のシンボルなんです。やっぱり見る人が見ると解説なんてなくても、すぐわかっちゃうんですね。」
歯の浮くようなほめ言葉だが、鉄壁の営業トーク。エリーは例のカードを俺にさし出した。
カードを受け取った俺の手をつかみ、離そうとしない。
「今うちのギャラリーで、ちょうどジョナサン・デイヴィスの展覧会を開いているんです。すごくいいタイミング。これから見に行きませんか。」
とがった胸の先をすりつけるように迫ってくる。俺はキヨヒコがこのボディアタックにどう対処したのだろうと心配になった。
誰かに見られているんじゃないかと気が気でなかった。
なにせ、ここはホームタウンの池袋。
どんな知り合いが通りかかるか知れたものではない。
「わかった。いくよ」
女は不思議そうな顔をした。
自分から進んでギャラリーに向かう客など、ほんのひとにぎりなのだろう。
俺としては、一刻も早くその場を離れたかっただけだ。
こんな場面を悠にでも目撃されたら、シャレにならない。
店は大通り沿いの路面店だった。床も壁も黒いアクリル板に包まれている。
そこにピンスポットのあたったリトグラフが無数に飾ってあった。
エリーと俺は恋人同士のように身体をよせ合って、一枚一枚見ていく。
なぜこれほどたくさんのイルカを描けるのか不思議だったが、代わり映えしないイルカがやつのライフワークなのだそうだ。
エリーはべたべたと俺の身体にさわりながら、絵を紹介してくれる。人間というのは不思議なもので、懸命に何かを話しかけられると、つい適当な返事をしてしまうのだ。
俺は不穏な空気をたたえたリトグラフのまえで口を滑らせた。
「この絵だけ虹の代わりに嵐の空になってるな。」
エリーは目をきらきらと光らせていった。
「さすがですね。これは超大国の核実験に抗議して、警告のために暗い雨雲を描いたものなんです。やっぱりセンスのいい人が見ると、すぐにわかるんですね。この絵の本当のメッセージを理解してくれてうれしいな」
美人にそんなことをいわれると、インチキだとわかっていても悪い気はしないものだった。よくできた商売。
黒いパーティションで仕切られたギャラリーを、ゆっくりとひとまわりするのに三十分かかった。
ようやくこれで冴えない展覧会も終わりかなと思ったら、セールスレディはいう。
「なにかお気に入りの作品はありましたか。」
あるわけない。おれはソフトに返した。
「どれもピンとこなかったかな」
エリーはねばった。
「じゃあ、全部のなかでどれが一番よかったでしょうか。」
さすがだった。しかたなくいう。
「うーん、あの嵐の空のやつ。」
「桐山さんはすごく若いのに、趣味がいいですねー。」