ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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やはり貧乏人の足をなめてはいけなかった。
すぐ近くだというアパートまで、さっさと歩いても二十分近くかかったのだ。
豊島区と新宿区の境目の高田。やつの住む部屋は外階段のついた二階建てのアパートにあった。
ペンキを塗りなおしたばかりの階段したの、なんだか湿った感じの一室である。ドアを開けると、キヨヒコはいった。
「狭いけど、あがって。今、麦茶をだすから。」
室内にはTシャツと下着が干してあった。
たぶん住人と同じくらいの築年数の物件である。
日の当たらない壁には三枚の絵が立派な額でさがっていた。
このアパートでは壁に直接釘を打ったりしていいのだろうか。
「どうぞ」
麦茶をもらって、ためらった。こいつのキッチンは清潔なのだろうか。
だが、俺のTシャツも汗で背中に張り付いている。
思いきって口をつけると、ひどく香ばしいお茶だった。
「うまいな、これ」
「ペットボトルのは高いから、自分でいれてるんだ」
やつは洗濯物を部屋の隅に投げた。ふたりで腕を組んで、現代絵画を鑑賞する。
ジョナサンなんとかのモチーフはいつも同じようだった。海とイルカと虹とときにビキニ女。
「これ肉筆じゃないみたいだけど」
「リトグラフだって。昔は石版だったらしいけど、今はほとんどアルミ版らしい。エリーさんがそういってた」
「ふーん」
男の独り暮らしのうす暗い部屋には、まるでそぐわない絵だった。
俺にはその三枚が価値のあるものかどうか、全然わからなかった。
ひとついえるのは、ただでももらわないだろうってこと。
だってかける場所がないし、俺には甘ったるすぎるからな。
「最後の絵はどれなんだ」
キヨヒコはイルカとビキニの女が波打ち際で戯れる絵を指した。
海の青だけは深くてきれいだ。女のスタイルも超絶的。
この一枚だけがまだギャラリーに突き返すことができるのだ。
おれは気の弱そうな男の横顔をちらりと見た。
やつにとってセールスレデイでも、大切な人なのかもしれない。
そいつがとんでもない女なら、化けの皮をはいで目を醒ましてやることもできるだろう。
いたって簡単な初仕事だ。
「わかった。やってみる」
「ほんとですか。ぼくにはあまりお金がないから、あんまり払えないけど」
「いいんだ。悠もそうだけど、金は受け取らない主義。うまくいかなくても、返すの嫌になるからな。」
俺は玄関にもどった。
あまり長い間絵の前に立っていると、ひどく皮肉な口をききそうだったのだ。
キヨヒコが年収の二年分を払う作品である。
バカらしいとは思うが、俺が口を出すことではなかった。
「時間がないから、これからすぐにエウレーカにいってみるよ」
「ありがとうございます」
心ここにあらずという礼の言葉だった。
ドアを閉めるとき、最後にやつを見た。
三枚の絵の前に立ち尽くし、放心してビキニの女を眺めている。
そんなに魅力的な女だろうか。
俺はそっとうしろ手にアパートの薄い扉を閉めた。
すぐ近くだというアパートまで、さっさと歩いても二十分近くかかったのだ。
豊島区と新宿区の境目の高田。やつの住む部屋は外階段のついた二階建てのアパートにあった。
ペンキを塗りなおしたばかりの階段したの、なんだか湿った感じの一室である。ドアを開けると、キヨヒコはいった。
「狭いけど、あがって。今、麦茶をだすから。」
室内にはTシャツと下着が干してあった。
たぶん住人と同じくらいの築年数の物件である。
日の当たらない壁には三枚の絵が立派な額でさがっていた。
このアパートでは壁に直接釘を打ったりしていいのだろうか。
「どうぞ」
麦茶をもらって、ためらった。こいつのキッチンは清潔なのだろうか。
だが、俺のTシャツも汗で背中に張り付いている。
思いきって口をつけると、ひどく香ばしいお茶だった。
「うまいな、これ」
「ペットボトルのは高いから、自分でいれてるんだ」
やつは洗濯物を部屋の隅に投げた。ふたりで腕を組んで、現代絵画を鑑賞する。
ジョナサンなんとかのモチーフはいつも同じようだった。海とイルカと虹とときにビキニ女。
「これ肉筆じゃないみたいだけど」
「リトグラフだって。昔は石版だったらしいけど、今はほとんどアルミ版らしい。エリーさんがそういってた」
「ふーん」
男の独り暮らしのうす暗い部屋には、まるでそぐわない絵だった。
俺にはその三枚が価値のあるものかどうか、全然わからなかった。
ひとついえるのは、ただでももらわないだろうってこと。
だってかける場所がないし、俺には甘ったるすぎるからな。
「最後の絵はどれなんだ」
キヨヒコはイルカとビキニの女が波打ち際で戯れる絵を指した。
海の青だけは深くてきれいだ。女のスタイルも超絶的。
この一枚だけがまだギャラリーに突き返すことができるのだ。
おれは気の弱そうな男の横顔をちらりと見た。
やつにとってセールスレデイでも、大切な人なのかもしれない。
そいつがとんでもない女なら、化けの皮をはいで目を醒ましてやることもできるだろう。
いたって簡単な初仕事だ。
「わかった。やってみる」
「ほんとですか。ぼくにはあまりお金がないから、あんまり払えないけど」
「いいんだ。悠もそうだけど、金は受け取らない主義。うまくいかなくても、返すの嫌になるからな。」
俺は玄関にもどった。
あまり長い間絵の前に立っていると、ひどく皮肉な口をききそうだったのだ。
キヨヒコが年収の二年分を払う作品である。
バカらしいとは思うが、俺が口を出すことではなかった。
「時間がないから、これからすぐにエウレーカにいってみるよ」
「ありがとうございます」
心ここにあらずという礼の言葉だった。
ドアを閉めるとき、最後にやつを見た。
三枚の絵の前に立ち尽くし、放心してビキニの女を眺めている。
そんなに魅力的な女だろうか。
俺はそっとうしろ手にアパートの薄い扉を閉めた。