ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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「ちょ、わかったから、店先で変なことを叫ぶの、やめてくれ。」
そのとき店の奥からリッカ母の視線を感じた。
レーザーディテクターのような危険な圧力。
大型ライフルで狙われた小鹿の気分になる。
「アズサ君。純情そうな人じゃないか。今バカ娘は居ないし、話だけでも聞いておやりよ。」
この店ではリッカ母の命令は絶対だ。
俺は冴えない男にいった。
「話だけきくから。でも、おれは恋愛とかそういうの、本当に苦手だから。あんまり期待すんなよ。」
冴えない男から、冴えない恋愛相談。
うんざりするような事件の始まりだ。
店番をリッカ母と後退して、俺たちが向かったのは、夏の西口公園。
午前中の木陰は外で話を聞くには、最高の環境だった。
まだ気温は上がりきっていないし、風には朝の冷たさが残っている。
円形広場のスチールパイプのベンチはいっぱいいっぱいだったから、ステージ前の階段に腰掛けた。
遠くから噴水の水が崩れる音。
「自己紹介が遅れました。今泉清彦といいます。仕事は埼玉県にある工場の季節工。」
それからやつは名の知れた精密機械メーカーの名前をあげた。
「俺はアズサでいい」
間の抜けた質問をする。
「アルバイトなの」
「契約社員。半年ごとに再契約で、なかなか正社員には上がれない。組みつけの腕では工場でも上から十本の指には入ると思うんだけど、難しくて」
俺は生きている雇用と生産の調整弁を初めて見た。だが、キヨヒコの心配は不安定な雇用形態ではないのだ。
「彼女って誰なんだ。」
やつは黙ってウエストポーチから絵葉書のようなカードを取りだした。受け取る。
器用に描かれた海と虹とイルカ。
それ以上、心に訴えてくる力はなかった。
どこか高原のペンションの部屋にでもさがっていそうな安全無害な絵。
キヨヒコは口ごもった。
しばらく噴水の涼しい音を聞いてからいう。
「彼女はその絵を売っているセールスレディなんです。」
ジョナサン・デイヴィス展覧会。ギャラリー「エウレーカ」。どちらもまるで聞いたことがない。
「どこにあるんだ、この店」
「グリーン大通り……東口の五差路の先にあって……その、いつもこのカードを配っている女の子が立っていて……それで、ぼくは」
その辺りにはいつもぴちぴちにタイトなミニスカートのスーツを着た女たちが網を張っていた。
俺は何度も通りかかったことがある。
もっともカードなんて受け取ったことはない。俺はこの街の生まれだからな。
無料でもらえるものが一番危険だとガキの頃から身体に叩き込まれている。
「それで、アンタは女から絵を買った。」
キヨヒコはすがるような目でうなずいた。
厳しいところはさっさと済ませたほうが相手のためである。
さらに突っ込んでやる。
「いくらしたんだ?このジョナサンなんとかの絵」
いいにくそうにやつはいった。
「五十万円」
こんな毒にも薬にもならないような絵に五十万。俺はびっくりして、キヨヒコを見た。
やつはうつむいたまま、右手をあげる。
伸ばした指の本数は三本。
意味がわからない。
「なんだよ、それ」
キヨヒコは自分でもうんざりしたようにいった。
「五十万円が三枚」
「なんだ、そりゃあ」
この季節工は献身的な芸術のパトロンなのだ。
そのとき店の奥からリッカ母の視線を感じた。
レーザーディテクターのような危険な圧力。
大型ライフルで狙われた小鹿の気分になる。
「アズサ君。純情そうな人じゃないか。今バカ娘は居ないし、話だけでも聞いておやりよ。」
この店ではリッカ母の命令は絶対だ。
俺は冴えない男にいった。
「話だけきくから。でも、おれは恋愛とかそういうの、本当に苦手だから。あんまり期待すんなよ。」
冴えない男から、冴えない恋愛相談。
うんざりするような事件の始まりだ。
店番をリッカ母と後退して、俺たちが向かったのは、夏の西口公園。
午前中の木陰は外で話を聞くには、最高の環境だった。
まだ気温は上がりきっていないし、風には朝の冷たさが残っている。
円形広場のスチールパイプのベンチはいっぱいいっぱいだったから、ステージ前の階段に腰掛けた。
遠くから噴水の水が崩れる音。
「自己紹介が遅れました。今泉清彦といいます。仕事は埼玉県にある工場の季節工。」
それからやつは名の知れた精密機械メーカーの名前をあげた。
「俺はアズサでいい」
間の抜けた質問をする。
「アルバイトなの」
「契約社員。半年ごとに再契約で、なかなか正社員には上がれない。組みつけの腕では工場でも上から十本の指には入ると思うんだけど、難しくて」
俺は生きている雇用と生産の調整弁を初めて見た。だが、キヨヒコの心配は不安定な雇用形態ではないのだ。
「彼女って誰なんだ。」
やつは黙ってウエストポーチから絵葉書のようなカードを取りだした。受け取る。
器用に描かれた海と虹とイルカ。
それ以上、心に訴えてくる力はなかった。
どこか高原のペンションの部屋にでもさがっていそうな安全無害な絵。
キヨヒコは口ごもった。
しばらく噴水の涼しい音を聞いてからいう。
「彼女はその絵を売っているセールスレディなんです。」
ジョナサン・デイヴィス展覧会。ギャラリー「エウレーカ」。どちらもまるで聞いたことがない。
「どこにあるんだ、この店」
「グリーン大通り……東口の五差路の先にあって……その、いつもこのカードを配っている女の子が立っていて……それで、ぼくは」
その辺りにはいつもぴちぴちにタイトなミニスカートのスーツを着た女たちが網を張っていた。
俺は何度も通りかかったことがある。
もっともカードなんて受け取ったことはない。俺はこの街の生まれだからな。
無料でもらえるものが一番危険だとガキの頃から身体に叩き込まれている。
「それで、アンタは女から絵を買った。」
キヨヒコはすがるような目でうなずいた。
厳しいところはさっさと済ませたほうが相手のためである。
さらに突っ込んでやる。
「いくらしたんだ?このジョナサンなんとかの絵」
いいにくそうにやつはいった。
「五十万円」
こんな毒にも薬にもならないような絵に五十万。俺はびっくりして、キヨヒコを見た。
やつはうつむいたまま、右手をあげる。
伸ばした指の本数は三本。
意味がわからない。
「なんだよ、それ」
キヨヒコは自分でもうんざりしたようにいった。
「五十万円が三枚」
「なんだ、そりゃあ」
この季節工は献身的な芸術のパトロンなのだ。