ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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あたしはベンチの隣に座る喜代治に聞いた。
「始めからあのガキを「シルヴァークロス」にいれようとおもっていたの」
喜代治は顔じゅうのしわを中央に寄せた。
笑ったのか、渋い表情をつくったのかわからなかった。年寄りの顔は複雑ね。
「そういうわけではなかった。わしが知っとる金持ちは、あの長谷部という男しかおらんかったし、この不景気に新しい店まで出すという。それなら、人出も足も他らんだろうし、試してみる価値はある。だめでも毎日早起きをして街を掃除するのは、あの子らにはいい修業になったろう」
鉄はまち子さんの車椅子を押して、円形広場の向かい側の孤を散歩していた。
間近に迫った夏にそなえて、ケヤキの葉は春先より厚みを増している。
さらさらと耳に冷たい葉すれの音が、シャワーのように降ってくる。
西口公園には梅雨の晴れ間の夏を思わせる日差しが注いでいた。
あたしたちのベンチにもどってくると鉄がいった。
「近頃のねえちゃんは凄いのう。平気な顔でパンツを見せよる。こっちがてれるくらいじゃる」
まち子は鉄の下ネタに見いを介さないようだった。にこにこと上品に笑っている。
久々の外出がうれしいのかもしれない。
「残念でした~。あれは下着じゃないのよ。階段なんかで見られてもいいようにはいてるスパッツていうの」
あたしの言葉に、鉄は金歯の先をきらめかせて首を横に振った。
「ねえちゃんは若いのう。下着だと信じれば、下着に見える。それだけで生きていることが楽しくなるじゃろうに。」
やれやれ…
女の下着も、人間も、時には信じてみろということかしら。
喜代治が鉄を無視していった。
「だがな、別に何が変わるわけでもない。あの子らの将来に何が起こるかは、誰にもわからん。わしがやってることがいいのか、悪かったのか、わしらが死ぬまでわからんかもしれん。」
私は段ボールの上で昼寝するホームレスのかたわらを、急ぎ足で通り過ぎる池袋の人々を眺めていた。
春のホームレスは、サラリーマンより幸せに見える。
突然『十字架のうえの七つの言葉』のソナタIの題名を思い出した。
多分その言葉は、ひったくりのガキだけじゃなく、喜代治や鉄、それにもちろんこのあたしのこともいってるのだろう。
『父よ、かれらをおゆるしください。かれらはなにをしているかを知らないからです』
まったくそのとおり。
あたしたちはいつも自分が何をしているのか知らない。
だけど、それでもその春にあたしがやった確かなことがひとつだけあった。
それは断言できる。
金が無かろうが、下ネタが得意だろうが関係ない。
そのおかしな春の一週間で、あたしは合計百四十一を超えるダチをふたり得た。
ひとシーズンなら、十分な成果じゃないかしら。
あとのことは池袋の空の上にいる誰かに任せておけば、それでいい。
WORLD・THE・Link 2dr
【銀の十字架・完】
「始めからあのガキを「シルヴァークロス」にいれようとおもっていたの」
喜代治は顔じゅうのしわを中央に寄せた。
笑ったのか、渋い表情をつくったのかわからなかった。年寄りの顔は複雑ね。
「そういうわけではなかった。わしが知っとる金持ちは、あの長谷部という男しかおらんかったし、この不景気に新しい店まで出すという。それなら、人出も足も他らんだろうし、試してみる価値はある。だめでも毎日早起きをして街を掃除するのは、あの子らにはいい修業になったろう」
鉄はまち子さんの車椅子を押して、円形広場の向かい側の孤を散歩していた。
間近に迫った夏にそなえて、ケヤキの葉は春先より厚みを増している。
さらさらと耳に冷たい葉すれの音が、シャワーのように降ってくる。
西口公園には梅雨の晴れ間の夏を思わせる日差しが注いでいた。
あたしたちのベンチにもどってくると鉄がいった。
「近頃のねえちゃんは凄いのう。平気な顔でパンツを見せよる。こっちがてれるくらいじゃる」
まち子は鉄の下ネタに見いを介さないようだった。にこにこと上品に笑っている。
久々の外出がうれしいのかもしれない。
「残念でした~。あれは下着じゃないのよ。階段なんかで見られてもいいようにはいてるスパッツていうの」
あたしの言葉に、鉄は金歯の先をきらめかせて首を横に振った。
「ねえちゃんは若いのう。下着だと信じれば、下着に見える。それだけで生きていることが楽しくなるじゃろうに。」
やれやれ…
女の下着も、人間も、時には信じてみろということかしら。
喜代治が鉄を無視していった。
「だがな、別に何が変わるわけでもない。あの子らの将来に何が起こるかは、誰にもわからん。わしがやってることがいいのか、悪かったのか、わしらが死ぬまでわからんかもしれん。」
私は段ボールの上で昼寝するホームレスのかたわらを、急ぎ足で通り過ぎる池袋の人々を眺めていた。
春のホームレスは、サラリーマンより幸せに見える。
突然『十字架のうえの七つの言葉』のソナタIの題名を思い出した。
多分その言葉は、ひったくりのガキだけじゃなく、喜代治や鉄、それにもちろんこのあたしのこともいってるのだろう。
『父よ、かれらをおゆるしください。かれらはなにをしているかを知らないからです』
まったくそのとおり。
あたしたちはいつも自分が何をしているのか知らない。
だけど、それでもその春にあたしがやった確かなことがひとつだけあった。
それは断言できる。
金が無かろうが、下ネタが得意だろうが関係ない。
そのおかしな春の一週間で、あたしは合計百四十一を超えるダチをふたり得た。
ひとシーズンなら、十分な成果じゃないかしら。
あとのことは池袋の空の上にいる誰かに任せておけば、それでいい。
WORLD・THE・Link 2dr
【銀の十字架・完】