ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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それは長谷部三佐男のような新しい時代のエリートと、町を歩く小脳だけで生きてるトカゲのようなガキどもの違いについて。
あたしは新聞の経済面もいちおう目を通している(恥ずかしいからここだけの秘密ね)。
若年層の失業率は統計上日本では十パーセントくらいだと書いてある。
だけど、あたしが身の回りのガキを見ている限りそんな甘いものじゃない。
三人にひとりが仕事をしたくても職がなく、プーを続けている。
それでやることもなくて、ああして一日中サンシャイン六十階通りに座り込んでいる。
体感失業率は首位打者だって十分狙える三割以上。
確かにあのデザイナーの言う通り、今の時代に学歴や資格なんて役に立たない。でかい銀行や自動車会社だってぐらぐら揺れてぶっ倒れそうだしね。
表面上はものがあふれて、物欲がはち切れそうな世のなかで、長谷部三佐男みたいなセンスエリートは新しいはしごを駆けのぼり、残りの大多数はしたで待ってる汚物だめに音もなく落ちていく。
自由に成功できるって可能性は、たいていの人間には立ち上がれなくなるまで叩きのめされる自由を意味してる。
問題は負けたやつの物語なんて誰も聞きたがらないことね。
通り魔に引ったくりだけじゃない。
池袋のストリートの空気がどんどんよどんで腐っていくのを、あたしは毎日肌で感じているの。
携帯電話の通話料を絞り出すために、ガスや水道までとめられた若いトカゲたちが吐く息で。
日本の街がいつまでも安全だなんて思ったら、大間違い。治安の悪化も犯罪も、当然グローバルスタンダードをめざす。
次の日は雨もあがり、一段とあたたかくなった。
巨大な蒸し器で蒸しあげられたように、池袋の街も白い水蒸気に包まれている。
喜代治と鉄は日課になった朝の清掃を終えるといったん老人ホームに戻り、昼過ぎまたうちの店にやってきた。
午後、あたしはふたり組といっしょに西武百貨店の「シルヴァークロス」にでかけた。
しゃれたブティックが並ぶフロアで、喜代治と鉄は断然異彩を放っていた。
改装中の店の出稼ぎ工事関係者みたい。
あたしが例の枕木を越えて砂まみれの店内に入っていくと、ふたりもあとをついてくる。
前回と同じひげ面の店員に声をかけた。
「宗方六花といいます。長谷部さんから、あたしあてに用意されたものがあると思うんだけど」
ひげ面はガラスケースのむこうでうなずいた。
レジを抜けて店の奥に入っていくと、手に封筒をもって戻ってくる。
「これだ」
あたしに銀の十字がはいった封筒をさしだした。
「ありがとう」
ひげ面は不思議そうな顔をした。
「あれはアンタのつれかい?」
喜代治と鉄は店の入り口にあるケースに顔を近づけて、銀の腕輪を穴が開くほど見つめていた。
あたしは新聞の経済面もいちおう目を通している(恥ずかしいからここだけの秘密ね)。
若年層の失業率は統計上日本では十パーセントくらいだと書いてある。
だけど、あたしが身の回りのガキを見ている限りそんな甘いものじゃない。
三人にひとりが仕事をしたくても職がなく、プーを続けている。
それでやることもなくて、ああして一日中サンシャイン六十階通りに座り込んでいる。
体感失業率は首位打者だって十分狙える三割以上。
確かにあのデザイナーの言う通り、今の時代に学歴や資格なんて役に立たない。でかい銀行や自動車会社だってぐらぐら揺れてぶっ倒れそうだしね。
表面上はものがあふれて、物欲がはち切れそうな世のなかで、長谷部三佐男みたいなセンスエリートは新しいはしごを駆けのぼり、残りの大多数はしたで待ってる汚物だめに音もなく落ちていく。
自由に成功できるって可能性は、たいていの人間には立ち上がれなくなるまで叩きのめされる自由を意味してる。
問題は負けたやつの物語なんて誰も聞きたがらないことね。
通り魔に引ったくりだけじゃない。
池袋のストリートの空気がどんどんよどんで腐っていくのを、あたしは毎日肌で感じているの。
携帯電話の通話料を絞り出すために、ガスや水道までとめられた若いトカゲたちが吐く息で。
日本の街がいつまでも安全だなんて思ったら、大間違い。治安の悪化も犯罪も、当然グローバルスタンダードをめざす。
次の日は雨もあがり、一段とあたたかくなった。
巨大な蒸し器で蒸しあげられたように、池袋の街も白い水蒸気に包まれている。
喜代治と鉄は日課になった朝の清掃を終えるといったん老人ホームに戻り、昼過ぎまたうちの店にやってきた。
午後、あたしはふたり組といっしょに西武百貨店の「シルヴァークロス」にでかけた。
しゃれたブティックが並ぶフロアで、喜代治と鉄は断然異彩を放っていた。
改装中の店の出稼ぎ工事関係者みたい。
あたしが例の枕木を越えて砂まみれの店内に入っていくと、ふたりもあとをついてくる。
前回と同じひげ面の店員に声をかけた。
「宗方六花といいます。長谷部さんから、あたしあてに用意されたものがあると思うんだけど」
ひげ面はガラスケースのむこうでうなずいた。
レジを抜けて店の奥に入っていくと、手に封筒をもって戻ってくる。
「これだ」
あたしに銀の十字がはいった封筒をさしだした。
「ありがとう」
ひげ面は不思議そうな顔をした。
「あれはアンタのつれかい?」
喜代治と鉄は店の入り口にあるケースに顔を近づけて、銀の腕輪を穴が開くほど見つめていた。