ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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自分の部屋に戻ってから、ゆっくりと写真集を開いた。
例の十字をモチーフにしたリング、ナイフ、ブレスレット、耳や舌や乳首にいれるピアス。
それになんに使うかわからないごろりとした純銀の固まり。
砂や石や草の上に放りだすように高価なシルヴァーアクセサリーが置いてあった。
カメラは小細工を使わず、それを正面から撮るだけなのだけで、きっと腕のいい人なのだろう。
画面の隅々まで神経が行き届いて、あいまいさがまるでないクリアな写真に仕上がっている。
ただおしゃれだったり、情報を伝えるだけの写真じゃなかった。
ぎりぎりまで突っ込んで、ものを見ること自体を考えさせる写真になっている。
カタログの最後には、自分でデザインした革パン姿の長谷部三佐男がモデルとして登場していた。
黒の革パンはずいぶんとはきこんで、いい感じにくたびれ、細かな傷だらけ。
色は褪せて、鮫肌のような濃い灰色。
確かにカッコいいパンツだけど、値段は一本二十万円。
あたしのユニクロのジーンズは、セールで千九百円だったから百倍以上。
森下のやつどこがあたしに似合いだというのかしら。
それでも、商品の革パンより断然目だっていたのは、当のデザイナーだった。
どこかの荒野に立ち、地平線を走る雲を背に、撮りたければどうぞという顔でレンズを見つめている。
この三十年間、西海岸のヘルスエンジェルスの間で不変の流行を続ける長髪のソバージュ。
ガリガリにやせた身体は白いシャツのなかで泳ぎ、薄手のコットン越しに紺色の幾何学模様の洋風の入れ墨が透けている。
そしてあの目というより目玉。
長谷部三佐男は頭蓋骨の空洞に水晶玉をはめこんだような目をしている。
驚いてるわけでもないのに真ん丸な目。
サボテンや赤い砂、それに遥か彼方の積乱雲まで目玉のなかに吸い込まれていきそうだった。
やつが着ているのは黒の革パンだけじゃない。
肉体でさえいつでも脱ぎ捨てられる衣装のように見えた。
この世にふたつとない魂が、気まぐれに借着をしているだけのね。
エロジジイがふたりに、色っぽいバアサンに、狂信者みたいなデザイナー。
おまけに、遊び半分の引ったくり犯が二名。
みんなこの池袋のジャングルにいる。
わけがわからなくなったあたしは、もっと深く自分の頭に潜るために、CDラックからBGMを選んだ。
気休めみたいなものだけど、音はないよりあったほうがぜんぜんいい。
ものを考えるにはテンポとリズムが大事なのよね。
曲はハイドンの『十字架上の七つの言葉』。
はりつけになったキリストの科白を七つのソナタにした音楽。
オーケストラ版、オラトリオ版、弦楽四重奏版とあるけど、あたしの好みはやっぱりカルテット。
例の十字をモチーフにしたリング、ナイフ、ブレスレット、耳や舌や乳首にいれるピアス。
それになんに使うかわからないごろりとした純銀の固まり。
砂や石や草の上に放りだすように高価なシルヴァーアクセサリーが置いてあった。
カメラは小細工を使わず、それを正面から撮るだけなのだけで、きっと腕のいい人なのだろう。
画面の隅々まで神経が行き届いて、あいまいさがまるでないクリアな写真に仕上がっている。
ただおしゃれだったり、情報を伝えるだけの写真じゃなかった。
ぎりぎりまで突っ込んで、ものを見ること自体を考えさせる写真になっている。
カタログの最後には、自分でデザインした革パン姿の長谷部三佐男がモデルとして登場していた。
黒の革パンはずいぶんとはきこんで、いい感じにくたびれ、細かな傷だらけ。
色は褪せて、鮫肌のような濃い灰色。
確かにカッコいいパンツだけど、値段は一本二十万円。
あたしのユニクロのジーンズは、セールで千九百円だったから百倍以上。
森下のやつどこがあたしに似合いだというのかしら。
それでも、商品の革パンより断然目だっていたのは、当のデザイナーだった。
どこかの荒野に立ち、地平線を走る雲を背に、撮りたければどうぞという顔でレンズを見つめている。
この三十年間、西海岸のヘルスエンジェルスの間で不変の流行を続ける長髪のソバージュ。
ガリガリにやせた身体は白いシャツのなかで泳ぎ、薄手のコットン越しに紺色の幾何学模様の洋風の入れ墨が透けている。
そしてあの目というより目玉。
長谷部三佐男は頭蓋骨の空洞に水晶玉をはめこんだような目をしている。
驚いてるわけでもないのに真ん丸な目。
サボテンや赤い砂、それに遥か彼方の積乱雲まで目玉のなかに吸い込まれていきそうだった。
やつが着ているのは黒の革パンだけじゃない。
肉体でさえいつでも脱ぎ捨てられる衣装のように見えた。
この世にふたつとない魂が、気まぐれに借着をしているだけのね。
エロジジイがふたりに、色っぽいバアサンに、狂信者みたいなデザイナー。
おまけに、遊び半分の引ったくり犯が二名。
みんなこの池袋のジャングルにいる。
わけがわからなくなったあたしは、もっと深く自分の頭に潜るために、CDラックからBGMを選んだ。
気休めみたいなものだけど、音はないよりあったほうがぜんぜんいい。
ものを考えるにはテンポとリズムが大事なのよね。
曲はハイドンの『十字架上の七つの言葉』。
はりつけになったキリストの科白を七つのソナタにした音楽。
オーケストラ版、オラトリオ版、弦楽四重奏版とあるけど、あたしの好みはやっぱりカルテット。