ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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ついでだから、東口の西武百貨店に寄っていくことにした。
森下の話では「シルヴァークロス」の主力店は、青山や渋谷ではなく池袋にある。
今はデパートのなかに出店をしているけど、近いうちに駅外れの古い洋館を改装して本店を作るらしい。
あたしは猛烈な人波を越えて、西武の入り口にたどりついた。
東京で生まれ育っても、池袋駅前のフィーバー中のパチンコ玉みたいな人ではけっこう疲れる。
掲示板で確かめるとその店は七階にあった。
パンツを見せながらエスカレーターに鈴なりに群れる女たちを避けて、あたしは階段で上った。
「シルヴァークロス」池袋店はフロアの角に目立たずにひっそりと店を出していた。
このごろはどのブランドも六~七○年代ブームとかで、サイケデリック調の派手な色使いとセクシーファッションで売っているところが多い。
だけど、その店は少し様子が違っていた。
妙にしんとした雰囲気なの。
入りにくい店。
入り口には古い枕木のような傷だらけの敷居があり、店のなかは一面に灰色の砂が敷き詰めてあった。
壁は赤黒い錆びた鉄板が張り巡らされている。
砂漠のまんなかに建った自動車修理工場みたい。
店員は男ばかりでみんな黒革のパンツをはき、銀の十字がはいったTシャツを着ていた。普通ショップの店員って、どこかゲイっぽい感じがにおうものなんだけど、「シルヴァークロス」の男たちは腕っ節が強そうだった(まぁ、ハードゲイなのかもしれないけど)。
広々とした空間には博物館のようなガラスケースが二列。
自慢の銀細工はたっぷりとあいだをおいて展示してある。
あたしはガラスに手をつかないように中をのぞいていった。
例のブレスレットはすぐに見つかった。
これなら誰だって一度見たら忘れないだろう。
一辺が三センチほどある分厚い十字が、どのようにしてかは分からないがきれいに繋がって、長さ三センチ足らずの帯になっていた。
つや消し仕上げの銀に塗られた黒い漆は、スポットライトを浴びて魚の卵のように光っている。
値札はどこにもついていなかった。
あたしは近くの店員に声をかけた。
「このブレスレットは、いくらするの」
ひげ面の男は、腕を組んだまま軽くうなずいて答える。
「二十五万」
あきれた。
あたしには一生縁がなさそうね。
鉄が格安ソープ十五回分といって嘆くだろう。やつならひと月でそれくらいは通いきるかもしれないけど。
「パンフレットとかないの」
ひげ面の男の姿勢に変化はなかった。
店員ではなく警備員なのかもしれない。
「うちのブランドの春夏モデルの写真集ならある。一分千円。」
完全なタメ口。
仕方なく陳列ケースのすみに積んであるカタログを手に取った。
美術館の企画展で売っているような豪華で分厚い写真集だ。
金を渡し、紙袋にでも入れるのかと思い、ボーっと突っ立ったまま待った。
ひげ面がじっとあたしを見つめている。
「手提げとかに入れないの」
「この店にそんな無駄なものは無い」
それはもっともだと思った。
どうせうちに帰ればごみ箱に捨てるだけなんだから。
あたしは写真集を持ち、砂を踏んで店を出た。ちょっとした異文化体験。
うちの果物屋もこの調子でやってみよかしら。
森下の話では「シルヴァークロス」の主力店は、青山や渋谷ではなく池袋にある。
今はデパートのなかに出店をしているけど、近いうちに駅外れの古い洋館を改装して本店を作るらしい。
あたしは猛烈な人波を越えて、西武の入り口にたどりついた。
東京で生まれ育っても、池袋駅前のフィーバー中のパチンコ玉みたいな人ではけっこう疲れる。
掲示板で確かめるとその店は七階にあった。
パンツを見せながらエスカレーターに鈴なりに群れる女たちを避けて、あたしは階段で上った。
「シルヴァークロス」池袋店はフロアの角に目立たずにひっそりと店を出していた。
このごろはどのブランドも六~七○年代ブームとかで、サイケデリック調の派手な色使いとセクシーファッションで売っているところが多い。
だけど、その店は少し様子が違っていた。
妙にしんとした雰囲気なの。
入りにくい店。
入り口には古い枕木のような傷だらけの敷居があり、店のなかは一面に灰色の砂が敷き詰めてあった。
壁は赤黒い錆びた鉄板が張り巡らされている。
砂漠のまんなかに建った自動車修理工場みたい。
店員は男ばかりでみんな黒革のパンツをはき、銀の十字がはいったTシャツを着ていた。普通ショップの店員って、どこかゲイっぽい感じがにおうものなんだけど、「シルヴァークロス」の男たちは腕っ節が強そうだった(まぁ、ハードゲイなのかもしれないけど)。
広々とした空間には博物館のようなガラスケースが二列。
自慢の銀細工はたっぷりとあいだをおいて展示してある。
あたしはガラスに手をつかないように中をのぞいていった。
例のブレスレットはすぐに見つかった。
これなら誰だって一度見たら忘れないだろう。
一辺が三センチほどある分厚い十字が、どのようにしてかは分からないがきれいに繋がって、長さ三センチ足らずの帯になっていた。
つや消し仕上げの銀に塗られた黒い漆は、スポットライトを浴びて魚の卵のように光っている。
値札はどこにもついていなかった。
あたしは近くの店員に声をかけた。
「このブレスレットは、いくらするの」
ひげ面の男は、腕を組んだまま軽くうなずいて答える。
「二十五万」
あきれた。
あたしには一生縁がなさそうね。
鉄が格安ソープ十五回分といって嘆くだろう。やつならひと月でそれくらいは通いきるかもしれないけど。
「パンフレットとかないの」
ひげ面の男の姿勢に変化はなかった。
店員ではなく警備員なのかもしれない。
「うちのブランドの春夏モデルの写真集ならある。一分千円。」
完全なタメ口。
仕方なく陳列ケースのすみに積んであるカタログを手に取った。
美術館の企画展で売っているような豪華で分厚い写真集だ。
金を渡し、紙袋にでも入れるのかと思い、ボーっと突っ立ったまま待った。
ひげ面がじっとあたしを見つめている。
「手提げとかに入れないの」
「この店にそんな無駄なものは無い」
それはもっともだと思った。
どうせうちに帰ればごみ箱に捨てるだけなんだから。
あたしは写真集を持ち、砂を踏んで店を出た。ちょっとした異文化体験。
うちの果物屋もこの調子でやってみよかしら。