ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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あたしは建物の内部がなにかに似ていると思ってたけど、しばらくしてようやく気がついた。
その老人ホームはあたしが通っていた小学校によく似ている。
あの優しげだけど、指導するものとされるものが二分された雰囲気。
「こっちじゃ」
喜代治が裏の通用門を示した。
夕食の煮炊きをする匂いと誰かの排泄物の臭いが混ざり合ったむせかえるような屋内から、午後の日差しが注ぐおもてに出ると自然に深呼吸を繰り返してしまう。
目の前には春風をいっぱいにはらんだ帆のように白いスーツが干してある。
喜代治はシーツのカーテンをまくるといった。
「わしらが立っておるここが、三途の径じゃ。」行って戻って、簡単に帰ってこれるように思うだろうが、実際はホームの向こうに渡った人間のほとんどは、白木の箱に入って病院の通用口から出ていくだけだ。」
シーツのすぐ先に老人ホームと同じように無表情な老人病院の裏口が見えた。
ドアのわきに積み上げられたキャンバス製の洗濯袋には、シーツや枕カバーやタオルなどがパンパンに詰め込まれている。
ガラスの扉にはホコリと誰かの手をなすった跡が浮いていた。
実際あの世の入り口も、この扉のように見慣れた灰色に見えるのかもしれない。
病院内でも喜代治と鉄の我がもの顔は変わらなかった。
子供や若い人のいない病院はひどく静かだった。
ひんやりと冷たい階段を三階までのぼり、スライドドアが開いたままの病室に入っていった。
女ばかりの四人部屋。
奥の右手のベッドはナイロンのカーテンでぐるりと隠され、布の中から傷ついた獣のようなうめき声が漏れている。
心なしか喜代治と鉄の背筋が伸びたようだった。
残り三台のベッドに横たわる老女のなかから、あたしでさえ、福田まち子はすぐに当てられそうだ。
奥の左手。
天井近くに細長く開いた横長の窓から落ちる日差しを斜めに浴びて、彼女は落ちる寸前の大輪の白ボタンのような笑顔をあたしたちにむけた。
七十過ぎているなんてとても思えなかった。
大きく開いた寝間着のレースの胸元から、豊かな乳房のかげりがのぞいている。
どこかの熟女ヌードより断然みずみずしい肌をしていた。
あたしが思うのも変だけど、驚異的に色っぽい七十歳。
「橋本さん、お客さまが見えたから、静かにしてね。」
福田まち子はベッドに半身を起したまま、閉じたカーテンの向こうに声をかけた。
獣のうなりは、腹をすかせた子猫ほどに小さくなる。
「こんにちは、横になったままでごめんなさいね。」
ギプスをはめた右手には花柄のスカーフが巻かれていた。
喜代治がいう。
「この人は、池袋の少女探偵で宗方六花さんという。わしらが頼んでひったくり事件を調べてもらっとる。まち子さんの話が聞きたいというから、今日はお邪魔にきたんじゃ」
喜代治があたしの紹介をする間に、鉄が廊下からパイプいすを片手に三脚をさげてあらわれた。
下ネタばかりを垂れ流していた口をピタリと閉じて、いそいそといすをベッドの横に並べる。
あたしは型通りに事件にあった日の話を聞いた。
三月十七日に巣鴨で一瞬のうちに起きて、終わってしまった強盗の話。
たしかに福田まち子の頭は、しっかりとしていたけれど……これじゃボケていても変わりはなかっただろう。
新しい情報はほとんどない。
その老人ホームはあたしが通っていた小学校によく似ている。
あの優しげだけど、指導するものとされるものが二分された雰囲気。
「こっちじゃ」
喜代治が裏の通用門を示した。
夕食の煮炊きをする匂いと誰かの排泄物の臭いが混ざり合ったむせかえるような屋内から、午後の日差しが注ぐおもてに出ると自然に深呼吸を繰り返してしまう。
目の前には春風をいっぱいにはらんだ帆のように白いスーツが干してある。
喜代治はシーツのカーテンをまくるといった。
「わしらが立っておるここが、三途の径じゃ。」行って戻って、簡単に帰ってこれるように思うだろうが、実際はホームの向こうに渡った人間のほとんどは、白木の箱に入って病院の通用口から出ていくだけだ。」
シーツのすぐ先に老人ホームと同じように無表情な老人病院の裏口が見えた。
ドアのわきに積み上げられたキャンバス製の洗濯袋には、シーツや枕カバーやタオルなどがパンパンに詰め込まれている。
ガラスの扉にはホコリと誰かの手をなすった跡が浮いていた。
実際あの世の入り口も、この扉のように見慣れた灰色に見えるのかもしれない。
病院内でも喜代治と鉄の我がもの顔は変わらなかった。
子供や若い人のいない病院はひどく静かだった。
ひんやりと冷たい階段を三階までのぼり、スライドドアが開いたままの病室に入っていった。
女ばかりの四人部屋。
奥の右手のベッドはナイロンのカーテンでぐるりと隠され、布の中から傷ついた獣のようなうめき声が漏れている。
心なしか喜代治と鉄の背筋が伸びたようだった。
残り三台のベッドに横たわる老女のなかから、あたしでさえ、福田まち子はすぐに当てられそうだ。
奥の左手。
天井近くに細長く開いた横長の窓から落ちる日差しを斜めに浴びて、彼女は落ちる寸前の大輪の白ボタンのような笑顔をあたしたちにむけた。
七十過ぎているなんてとても思えなかった。
大きく開いた寝間着のレースの胸元から、豊かな乳房のかげりがのぞいている。
どこかの熟女ヌードより断然みずみずしい肌をしていた。
あたしが思うのも変だけど、驚異的に色っぽい七十歳。
「橋本さん、お客さまが見えたから、静かにしてね。」
福田まち子はベッドに半身を起したまま、閉じたカーテンの向こうに声をかけた。
獣のうなりは、腹をすかせた子猫ほどに小さくなる。
「こんにちは、横になったままでごめんなさいね。」
ギプスをはめた右手には花柄のスカーフが巻かれていた。
喜代治がいう。
「この人は、池袋の少女探偵で宗方六花さんという。わしらが頼んでひったくり事件を調べてもらっとる。まち子さんの話が聞きたいというから、今日はお邪魔にきたんじゃ」
喜代治があたしの紹介をする間に、鉄が廊下からパイプいすを片手に三脚をさげてあらわれた。
下ネタばかりを垂れ流していた口をピタリと閉じて、いそいそといすをベッドの横に並べる。
あたしは型通りに事件にあった日の話を聞いた。
三月十七日に巣鴨で一瞬のうちに起きて、終わってしまった強盗の話。
たしかに福田まち子の頭は、しっかりとしていたけれど……これじゃボケていても変わりはなかっただろう。
新しい情報はほとんどない。