ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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近くのコンビニで地図を二枚にコピーして、喜代治と鉄に渡してから、あたしたちはJR池袋駅前のバスターミナルに向かった。
板橋方面行の都バスに乗る。
ふたり組はシルバーパスで無料。
久々のバスは二百円値上がりしていた。
シルバーシートに座る二人の横で、手すりにつかまりあたしは言った。
「そのまち子さんだけど、頭の方はしっかりしてるの」
喜代治は窓を通り過ぎる駅前の繁華街に目をやったまま低くこたえる。
「ああ、だいじょうぶだ。あのあたりを歩いている小娘より、よほどしっかりしとる。」
横断歩道で退屈そうに携帯をかけている池袋でも稀少種の山姥メイクの女をあごでさした。
やつらの日本語の基本語 はおよそ百。
アルツハイマーだって最終段階まで進行しなけりゃ、あの女たちよりボケるのはむずかしいわね。
鉄言った。
「宗方のねえちゃんも悪くないが、まだ色気っちゅうもんが足りないぞ。やっぱり女は五十の峠をすぎなきゃいかん」
鉄はシルバーシートに座ったまま、意味もなく作業ズボンのまえをつかんでいる。
どういう女性観をしてるのかしら、このジジイ。
バスはクジラのように池袋の街をゆったりと流し、五分たらずで東上線北池袋駅に到着した。
あたしが老人ホームを見たのは、その時が初めてだった。
それにあれほどのお年寄りが集まっているのを見たのも。
池袋の街には人生の残り三分の一に差し掛かった人間はほとんどやってこない。
考えてみたら、それも不思議な話ね。
「茅の里」は、幼稚園や公民館など公営の施設の多くと同じように、なんの飾りもない、四階建ての四角いビルディングだった。
アルミサッシの窓がたくさんとコンクリートに白い砂のような塗料を吹き付けたおなじみの外壁。
二重になった入り口の自動ドアを抜けると、日差しのさしこむぽかぽかとあたたかなロビーになっていた。
図書館のように新聞スタンドや雑誌のラックが並び、あちこちに点々と車いすが止まっている。
居眠りするもの、盆栽や俳句の雑誌を腕いっぱいに伸ばして読むもの、何かわけのわからないことをぶつぶつつぶやくもの。
老人があちこちの壁際においてあるベンチにすきまなく埋めていた。
壁の掲示板を見ると『市民に開かれたホームを目指しましょう』などと標語が貼ってある。
あたりにかまわずどんどん施設のおくに入っていく喜代治と鉄にいった。
「部外者が入ってもいいのかな」
喜代治は振り向かずにいった。
「迷惑さえかけなきゃかまわん。わしや鉄にとっては、ここが我が家じゃ。客を呼ぶのにいちいち気を使う必要などない」
どこか怒ったような口ぶりだった。
職員室や調理室のならぶ一階を通り抜けた。
板橋方面行の都バスに乗る。
ふたり組はシルバーパスで無料。
久々のバスは二百円値上がりしていた。
シルバーシートに座る二人の横で、手すりにつかまりあたしは言った。
「そのまち子さんだけど、頭の方はしっかりしてるの」
喜代治は窓を通り過ぎる駅前の繁華街に目をやったまま低くこたえる。
「ああ、だいじょうぶだ。あのあたりを歩いている小娘より、よほどしっかりしとる。」
横断歩道で退屈そうに携帯をかけている池袋でも稀少種の山姥メイクの女をあごでさした。
やつらの日本語の基本語 はおよそ百。
アルツハイマーだって最終段階まで進行しなけりゃ、あの女たちよりボケるのはむずかしいわね。
鉄言った。
「宗方のねえちゃんも悪くないが、まだ色気っちゅうもんが足りないぞ。やっぱり女は五十の峠をすぎなきゃいかん」
鉄はシルバーシートに座ったまま、意味もなく作業ズボンのまえをつかんでいる。
どういう女性観をしてるのかしら、このジジイ。
バスはクジラのように池袋の街をゆったりと流し、五分たらずで東上線北池袋駅に到着した。
あたしが老人ホームを見たのは、その時が初めてだった。
それにあれほどのお年寄りが集まっているのを見たのも。
池袋の街には人生の残り三分の一に差し掛かった人間はほとんどやってこない。
考えてみたら、それも不思議な話ね。
「茅の里」は、幼稚園や公民館など公営の施設の多くと同じように、なんの飾りもない、四階建ての四角いビルディングだった。
アルミサッシの窓がたくさんとコンクリートに白い砂のような塗料を吹き付けたおなじみの外壁。
二重になった入り口の自動ドアを抜けると、日差しのさしこむぽかぽかとあたたかなロビーになっていた。
図書館のように新聞スタンドや雑誌のラックが並び、あちこちに点々と車いすが止まっている。
居眠りするもの、盆栽や俳句の雑誌を腕いっぱいに伸ばして読むもの、何かわけのわからないことをぶつぶつつぶやくもの。
老人があちこちの壁際においてあるベンチにすきまなく埋めていた。
壁の掲示板を見ると『市民に開かれたホームを目指しましょう』などと標語が貼ってある。
あたりにかまわずどんどん施設のおくに入っていく喜代治と鉄にいった。
「部外者が入ってもいいのかな」
喜代治は振り向かずにいった。
「迷惑さえかけなきゃかまわん。わしや鉄にとっては、ここが我が家じゃ。客を呼ぶのにいちいち気を使う必要などない」
どこか怒ったような口ぶりだった。
職員室や調理室のならぶ一階を通り抜けた。