ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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「どうしてわかったの」
『リッカがていねいに挨拶するなんて、それ以外に考えられん。で、用件は?』
背景に甘ったるいストリングの音がした。
ドリカムの『ラブ・ラブ・ラブ』。
またどこかの喫茶店でサボっているのだろうか。
「連続ひったくり事件がちょっと気になるの。ほら、うちの近くで起こってるしお母さんがうるさくてね。資料見せてもらえないかな。マスコミで公表できる分だけでいいの」
佐伯はあたしが池袋のガキどものトラブルシューターをしているのを知っている。
それでフェイントを軽くかけておいた。
『お前、あの事件がどれくらい続いているか知ってんのか』
「ええ、十三件」
『分厚いファイル三冊だぞ。読むだけで大変なんだ。』
独特の警察方言と読みにくい手書きの資料の山を想像した。
読書が趣味でもないあたしにはゾッとしない
(ちなみにあたしのまわりでは半年に一冊雑誌やマンガではない本を読むやつは読書家でインテリ。もうひとりのトラブルシューターなんかはああ見えて病的に本を読むのでインテリになってしまう。)
「あのさー事件の発生場所と日時、それと被害状況なんかをまとめた簡単なレジメみたいなの、無いの?」
あたしがそういうと佐伯はものすごく不機嫌な声を出した。
みしみしと妙な音が聞こえた。
「くそっ、あるよ。おれが自分用にまとめたやつだ。お前、ただのチンピラのくせに、なんでそう要領がいいんだ。俺は怒るぞ」
それで音の原因が分かった。
いまごろ不運な携帯電話は基盤がひん曲がりかけているに違いない。
電話でよかった、対面してたらあたしの頭をグリグリされていただろう。
翌日の午後、西口公園でおち会う約束をして
携帯電話を切った。
最後にあたしはこころからありがとうといったが、かえってきたのは悪態だけだった。
育ちの悪い刑事。
次の日の朝七時まえ、教会へ行こうと店の横の階段をおりて戸を開くと、いつもと違う池袋の風景が広がっていた。
西一番街の路上はふだんなら、点火装置の壊れたごみ焼却炉に似ている。
もんじゃ焼きのような酔っぱらいの落としたもの、カラスに破られたごみ袋、チューハイの空き缶に汁の残ったカップ麺の容器。
そんなクズが雑多に散らばっているはずなのに、その朝はうちの果物屋のまえだけでなく、両隣の店のまえまできれいに掃除が行き届いて、水が打ってあった。
なんというか、どこかのお寺の、門前のようだ。
あたしは瞬間的に喜代治の目を思い出した。金はないが、借りはできたといってあたしを見つめたあの目。
あたしは『マタイの受難曲』のアリア「わが心よ、おのれを清めよ」を口笛で吹きながら、春の朝のおだやかな光の中、街の虫食い跡のような教会に向かった。
『リッカがていねいに挨拶するなんて、それ以外に考えられん。で、用件は?』
背景に甘ったるいストリングの音がした。
ドリカムの『ラブ・ラブ・ラブ』。
またどこかの喫茶店でサボっているのだろうか。
「連続ひったくり事件がちょっと気になるの。ほら、うちの近くで起こってるしお母さんがうるさくてね。資料見せてもらえないかな。マスコミで公表できる分だけでいいの」
佐伯はあたしが池袋のガキどものトラブルシューターをしているのを知っている。
それでフェイントを軽くかけておいた。
『お前、あの事件がどれくらい続いているか知ってんのか』
「ええ、十三件」
『分厚いファイル三冊だぞ。読むだけで大変なんだ。』
独特の警察方言と読みにくい手書きの資料の山を想像した。
読書が趣味でもないあたしにはゾッとしない
(ちなみにあたしのまわりでは半年に一冊雑誌やマンガではない本を読むやつは読書家でインテリ。もうひとりのトラブルシューターなんかはああ見えて病的に本を読むのでインテリになってしまう。)
「あのさー事件の発生場所と日時、それと被害状況なんかをまとめた簡単なレジメみたいなの、無いの?」
あたしがそういうと佐伯はものすごく不機嫌な声を出した。
みしみしと妙な音が聞こえた。
「くそっ、あるよ。おれが自分用にまとめたやつだ。お前、ただのチンピラのくせに、なんでそう要領がいいんだ。俺は怒るぞ」
それで音の原因が分かった。
いまごろ不運な携帯電話は基盤がひん曲がりかけているに違いない。
電話でよかった、対面してたらあたしの頭をグリグリされていただろう。
翌日の午後、西口公園でおち会う約束をして
携帯電話を切った。
最後にあたしはこころからありがとうといったが、かえってきたのは悪態だけだった。
育ちの悪い刑事。
次の日の朝七時まえ、教会へ行こうと店の横の階段をおりて戸を開くと、いつもと違う池袋の風景が広がっていた。
西一番街の路上はふだんなら、点火装置の壊れたごみ焼却炉に似ている。
もんじゃ焼きのような酔っぱらいの落としたもの、カラスに破られたごみ袋、チューハイの空き缶に汁の残ったカップ麺の容器。
そんなクズが雑多に散らばっているはずなのに、その朝はうちの果物屋のまえだけでなく、両隣の店のまえまできれいに掃除が行き届いて、水が打ってあった。
なんというか、どこかのお寺の、門前のようだ。
あたしは瞬間的に喜代治の目を思い出した。金はないが、借りはできたといってあたしを見つめたあの目。
あたしは『マタイの受難曲』のアリア「わが心よ、おのれを清めよ」を口笛で吹きながら、春の朝のおだやかな光の中、街の虫食い跡のような教会に向かった。