ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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視線をあげて、まっすぐにあたしを見ていう。
「アンタの言うとおりだ。正直に言わんといかんな。わしらには金がない。年金はわしも鉄も月に六万足らず。毎月赤字の垂れ流しだ。アンタに仕事を頼んでも、払う金がない。一ノ瀬のようにポンと札束を切りだしたいところだが、そんな芸当はできんのだ。」
鉄が心配そうに付け加えた。
「なあ、喜代治、月に三千円の二十四回払いというのはどうじゃろうか。流行りの月賦という、あれじゃ」
働きつづけだか、ねちりんこし続けてかはわからないけど、七十年の荒波を超えてきた年寄りが、小銭さえゆるがせにできず、目の前では金を持たない自分を恥じている。
ちいさくなったふたりを見て、なぜかあたしは猛烈に腹が立ってきた。
五十年後の自分を見てしまったせいかもしれない。
「いいよ」
喜代治と鉄は驚いた顔をした。
あたしはそっぽを向いて、早口で続けた。
「お金はいいの。今までだって、お金のため動いてきたわけじゃないし。だから、あたしのまえで、みじめったらしい顔をするのは止めてちょうだい。」
お人よしかもしれない、けど、それで結構。
どうせ貧乏人は互いに盗みあい、助け合うんだもの。別に変りはしない。
盗もうが助けようが、どっちにしても貧乏なままなのだから。
金が絡まないほうが、うまくいかなくてもいいから楽だとは黙っていた。
鉄が愉快そうにいった。
「おう、済まん。息子がいたら婿にやりたいくらいじゃ。アンタ、きっぷがいいのう。」
この金歯の息子なら、今頃は五十近くだろう。
とてもじゃないが、結婚は願い下げだった。
喜代治がいう。
「金はやれんが、アンタには借りができた。それは忘れんでくれ。わしらは出来る限りのことはする。」
それからあたしをじっと見た。
犯人の臭いを覚える警察犬のような目だった。
ありがとうといって、三十分話を聞いた。
手掛かりなど一つもない、かすみのような話ばかりだった。
あたしは顔には出さなかったけど、内心頭を抱えていた。
年寄りふたり組はいうだけいうと気持ちが軽くなったのか、意気揚々と夕刊フジでも削除されそうな下ネタを飛ばして帰っていく。
西口公園の狭い空をヒバリが横切った。
四月は残酷な月ね。
その日の夕方、仕事がひと段落すると、あたしは店の二階の自分の四畳半から携帯をかけた。
呼び出し音みっつで、軽い声が返ってくる。
『はい?』
実際には「は」と「ほ」の中間のようなだるそうな発音なんだけど、かまわずにあたしはいった。
「ごぶさたしています。リッカです。」
『なーんだ、お前か。頼みごとはなんなんだ。』
うんざりしたように佐伯がいった。
やつは池袋警察署少年課の万年ひら刑事。
あたしのおじさんで十年来の腐れ縁。
「アンタの言うとおりだ。正直に言わんといかんな。わしらには金がない。年金はわしも鉄も月に六万足らず。毎月赤字の垂れ流しだ。アンタに仕事を頼んでも、払う金がない。一ノ瀬のようにポンと札束を切りだしたいところだが、そんな芸当はできんのだ。」
鉄が心配そうに付け加えた。
「なあ、喜代治、月に三千円の二十四回払いというのはどうじゃろうか。流行りの月賦という、あれじゃ」
働きつづけだか、ねちりんこし続けてかはわからないけど、七十年の荒波を超えてきた年寄りが、小銭さえゆるがせにできず、目の前では金を持たない自分を恥じている。
ちいさくなったふたりを見て、なぜかあたしは猛烈に腹が立ってきた。
五十年後の自分を見てしまったせいかもしれない。
「いいよ」
喜代治と鉄は驚いた顔をした。
あたしはそっぽを向いて、早口で続けた。
「お金はいいの。今までだって、お金のため動いてきたわけじゃないし。だから、あたしのまえで、みじめったらしい顔をするのは止めてちょうだい。」
お人よしかもしれない、けど、それで結構。
どうせ貧乏人は互いに盗みあい、助け合うんだもの。別に変りはしない。
盗もうが助けようが、どっちにしても貧乏なままなのだから。
金が絡まないほうが、うまくいかなくてもいいから楽だとは黙っていた。
鉄が愉快そうにいった。
「おう、済まん。息子がいたら婿にやりたいくらいじゃ。アンタ、きっぷがいいのう。」
この金歯の息子なら、今頃は五十近くだろう。
とてもじゃないが、結婚は願い下げだった。
喜代治がいう。
「金はやれんが、アンタには借りができた。それは忘れんでくれ。わしらは出来る限りのことはする。」
それからあたしをじっと見た。
犯人の臭いを覚える警察犬のような目だった。
ありがとうといって、三十分話を聞いた。
手掛かりなど一つもない、かすみのような話ばかりだった。
あたしは顔には出さなかったけど、内心頭を抱えていた。
年寄りふたり組はいうだけいうと気持ちが軽くなったのか、意気揚々と夕刊フジでも削除されそうな下ネタを飛ばして帰っていく。
西口公園の狭い空をヒバリが横切った。
四月は残酷な月ね。
その日の夕方、仕事がひと段落すると、あたしは店の二階の自分の四畳半から携帯をかけた。
呼び出し音みっつで、軽い声が返ってくる。
『はい?』
実際には「は」と「ほ」の中間のようなだるそうな発音なんだけど、かまわずにあたしはいった。
「ごぶさたしています。リッカです。」
『なーんだ、お前か。頼みごとはなんなんだ。』
うんざりしたように佐伯がいった。
やつは池袋警察署少年課の万年ひら刑事。
あたしのおじさんで十年来の腐れ縁。