ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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獲物だけ奪うと、バイクはそのまま路地を逃走していく。
盗難バイクはたいてい翌日に数キロ離れた場所でみつかるらしい。
もちろん犯人は残っていない。通り魔的犯行で、目撃証言はすくないという。
池袋の街の噂じゃ、よほどのへまをやらかさなきゃ、そいつらは捕まらないんじゃないかということね。
「わしらのホームに住んでる福田まち子さんが、引ったくりに遭ったのは今からひと月近くまえの三月のなかばのことじゃった。巣鴨高岩寺参道の脇道で、まち子さんはうしろから突きとばされ、手にさげていた巾着を盗まれた。財布には一万円札が二枚はいっていた。」
鉄も黙ってうなずいていた。春風がケヤキの梢を揺らすと、砂を落とすようなさらさらと心地いい音が降ってくる。
「だが、金のことなぞどうでもいい。まち子さんは転んで手をつくとき、手首の骨を粉砕骨折しなすった。打ち付けた腰骨にもヒビが入っておる。もともと骨粗鬆症のけがあったようだ。年を取るとわずかなことが命取りになる。今、まち子さんは寝たきりになるか、ならんかの境でベッドにいる」
鉄が感に堪えぬようにいった。
「あのオッパイが寝たきりになるのは、もったいないのう」
あたしがこの下ネタジジイと池袋の街を歩くはめになるのかしら。
目の前が暗くなった。
数少ないファンがさらに減りそう。
喜代治の話しは続いている。
三人が暮らしているのは東武東上線北池袋駅前にある老人ホーム「茅の里(ちがやのさと)」だという。
福田まち子というのは鉄の言葉通りなら、グラマーで巨乳のホームのマドンナ的存在らしい。
その老人ホームの敷地内には、軽自動車がようやく通れるくらいの道を一本へだて、老人病院が建ってるらしい。
「わしらはその道を『三途の径(さんずのこみち)』と呼んどる。一度渡ったら、めったに帰れん道じゃ。まち子さんが再びホームにもどり、わしらと池袋の街を散歩できるようになるかはわからん。そこで、宗方さん、アンタに頼みがある。」
くぼんだ目に力をためて喜代治がひと息ついた。となりの鉄も口を引き結んで金歯を隠し、あたしを見つめている。
「ひったくりの犯人を捜すために力を貸してくれんか。警察はあてにならん。」
ようやく息をしているだけの年寄りがふたり。犯人を見つけ出して、いったいどうしようというのかしら。
「アンタは池袋の青少年には顔が広いと聞いておる。この鉄とは違って、目から鼻へ抜ける回転の速さもたいしたものだとな」
「ふーん」
思わず鼻息が漏れてしまう。
あの天下の一ノ瀬組の組長がそんなことをいうとはとても思えなかった。
……怪しい。
「そんなにあたしをもちあげて、どうしようというの。変な狙いでもあるんじゃないの」
そういうと喜代治は恥ずかしそうに、ひざに置いた自分の手を見て笑った。
もみくちゃにした油紙で包んだような染みと傷だらけの手。
頭ではなく身体を使って生きてきた人間の手だった。
盗難バイクはたいてい翌日に数キロ離れた場所でみつかるらしい。
もちろん犯人は残っていない。通り魔的犯行で、目撃証言はすくないという。
池袋の街の噂じゃ、よほどのへまをやらかさなきゃ、そいつらは捕まらないんじゃないかということね。
「わしらのホームに住んでる福田まち子さんが、引ったくりに遭ったのは今からひと月近くまえの三月のなかばのことじゃった。巣鴨高岩寺参道の脇道で、まち子さんはうしろから突きとばされ、手にさげていた巾着を盗まれた。財布には一万円札が二枚はいっていた。」
鉄も黙ってうなずいていた。春風がケヤキの梢を揺らすと、砂を落とすようなさらさらと心地いい音が降ってくる。
「だが、金のことなぞどうでもいい。まち子さんは転んで手をつくとき、手首の骨を粉砕骨折しなすった。打ち付けた腰骨にもヒビが入っておる。もともと骨粗鬆症のけがあったようだ。年を取るとわずかなことが命取りになる。今、まち子さんは寝たきりになるか、ならんかの境でベッドにいる」
鉄が感に堪えぬようにいった。
「あのオッパイが寝たきりになるのは、もったいないのう」
あたしがこの下ネタジジイと池袋の街を歩くはめになるのかしら。
目の前が暗くなった。
数少ないファンがさらに減りそう。
喜代治の話しは続いている。
三人が暮らしているのは東武東上線北池袋駅前にある老人ホーム「茅の里(ちがやのさと)」だという。
福田まち子というのは鉄の言葉通りなら、グラマーで巨乳のホームのマドンナ的存在らしい。
その老人ホームの敷地内には、軽自動車がようやく通れるくらいの道を一本へだて、老人病院が建ってるらしい。
「わしらはその道を『三途の径(さんずのこみち)』と呼んどる。一度渡ったら、めったに帰れん道じゃ。まち子さんが再びホームにもどり、わしらと池袋の街を散歩できるようになるかはわからん。そこで、宗方さん、アンタに頼みがある。」
くぼんだ目に力をためて喜代治がひと息ついた。となりの鉄も口を引き結んで金歯を隠し、あたしを見つめている。
「ひったくりの犯人を捜すために力を貸してくれんか。警察はあてにならん。」
ようやく息をしているだけの年寄りがふたり。犯人を見つけ出して、いったいどうしようというのかしら。
「アンタは池袋の青少年には顔が広いと聞いておる。この鉄とは違って、目から鼻へ抜ける回転の速さもたいしたものだとな」
「ふーん」
思わず鼻息が漏れてしまう。
あの天下の一ノ瀬組の組長がそんなことをいうとはとても思えなかった。
……怪しい。
「そんなにあたしをもちあげて、どうしようというの。変な狙いでもあるんじゃないの」
そういうと喜代治は恥ずかしそうに、ひざに置いた自分の手を見て笑った。
もみくちゃにした油紙で包んだような染みと傷だらけの手。
頭ではなく身体を使って生きてきた人間の手だった。