ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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「心配せんでいい。一ノ瀬とは士官学校の同期だ。わしらはヤクザなどとはなんの関係もない。話をきいてもらえるかな」
背の高いジジイは感情の読めない目であたしを見つめた。
哀願しようとも、気に入られようともしない目。
ながいあいだ川底で磨かれ、角を落とした小石をはめこんだような目だった。
冷たく澄んで、一点の光を秘めている。
「いいわ。ここじゃなんだから、西口公園にいこう」
あたしはそのジジイのまっすぐな視線がなぜか気になった。
池袋の街をうろつくガキどもの日向の泥水のような目ばかり見ているせいかもしれない。
春の西口公園はのどかなものだった。
ソメイヨシノもケヤキも、握りしめたら手が濡れそうな若葉をつけて、公園の空に腕を広げている。
昼休みには少し間があるから、サラリーマンやOLの姿は少なかった。
目にやかましいコテコテに盛った女部族や化粧したナンパ師の影もない。
やつらは夜行性。
あたしたちは日差しでやわになった金属製のベンチに腰をおろす。
石畳の円形広場のむこうに、池袋副都心のビル街が垂直にのびていた。
陽気のせいか東武百貨店のハーフミラーの壁面さえ、ゼリーのようにたわんでなだれ落ちそう。
背の高いジジイがぼそりという。
「わしの名は有賀喜代次(ありがきよじ)、こいつが宮下鉄太郎(みやしたてつたろう)」
とがったあごを横に座るジジイにしゃくった。
一キロ先からでもわかる金歯を盛大に光らせて宮下というジジイが挨拶する。
「おう、よろしくな。ねぇちゃんなんか若いから、そのへんのにいちゃんと毎日ねちりんこしてんじゃろ。まあ、立のよさなら、おれもまだ若いのに負けんぞ。」
あきれたエロジジイ。
喜代次が無表情につけ加える。
「こいつのあだ名はシモの鉄という。なにを考えるのでも、一度下半身を通らないと次にすすめんようだ。気にせんでくれ。」
どうやら新種の老人性痴ほう症のようね。
鉄はむきだしたままの金歯が乾いたのか、にやにやと笑いながら舌の先で前歯を濡らした。
「自分だけいい格好をすな。喜代次も、まち子さんに惚れておるのはいっしょじゃろう。おまえもひとり抜け駆けして、ねちりんこしたいに決まっとる。」
話がぜんぜんわからなかった。
あたしは先にすすむように、座っていても背の高いジジイに目で合図した。
いまいましげに喜代次はいう。
「あんた、このあたりで起きてる連続引ったくり事件を知らんか。」
知ってるといった。
あたしのうちから歩いて五分足らずの西口公園までに、「暗い夜道と肩かけ注意!」と書かれた池袋警察署の立て看板が二枚、電信柱にとめてある。
それは年明けからの四ヶ月で十三件連続した強盗事件だった。
女性がひとりきりで人通りのすくない夜の路地を歩いていると、ふたりのりのバイクが近づいてくる。
追い越し様にバイクの後ろに座った男が手を伸ばし、肩からさげたバッグを奪っていく。
抵抗するようなら、顔面を殴ったり、腹を蹴りあげたりするという。
背の高いジジイは感情の読めない目であたしを見つめた。
哀願しようとも、気に入られようともしない目。
ながいあいだ川底で磨かれ、角を落とした小石をはめこんだような目だった。
冷たく澄んで、一点の光を秘めている。
「いいわ。ここじゃなんだから、西口公園にいこう」
あたしはそのジジイのまっすぐな視線がなぜか気になった。
池袋の街をうろつくガキどもの日向の泥水のような目ばかり見ているせいかもしれない。
春の西口公園はのどかなものだった。
ソメイヨシノもケヤキも、握りしめたら手が濡れそうな若葉をつけて、公園の空に腕を広げている。
昼休みには少し間があるから、サラリーマンやOLの姿は少なかった。
目にやかましいコテコテに盛った女部族や化粧したナンパ師の影もない。
やつらは夜行性。
あたしたちは日差しでやわになった金属製のベンチに腰をおろす。
石畳の円形広場のむこうに、池袋副都心のビル街が垂直にのびていた。
陽気のせいか東武百貨店のハーフミラーの壁面さえ、ゼリーのようにたわんでなだれ落ちそう。
背の高いジジイがぼそりという。
「わしの名は有賀喜代次(ありがきよじ)、こいつが宮下鉄太郎(みやしたてつたろう)」
とがったあごを横に座るジジイにしゃくった。
一キロ先からでもわかる金歯を盛大に光らせて宮下というジジイが挨拶する。
「おう、よろしくな。ねぇちゃんなんか若いから、そのへんのにいちゃんと毎日ねちりんこしてんじゃろ。まあ、立のよさなら、おれもまだ若いのに負けんぞ。」
あきれたエロジジイ。
喜代次が無表情につけ加える。
「こいつのあだ名はシモの鉄という。なにを考えるのでも、一度下半身を通らないと次にすすめんようだ。気にせんでくれ。」
どうやら新種の老人性痴ほう症のようね。
鉄はむきだしたままの金歯が乾いたのか、にやにやと笑いながら舌の先で前歯を濡らした。
「自分だけいい格好をすな。喜代次も、まち子さんに惚れておるのはいっしょじゃろう。おまえもひとり抜け駆けして、ねちりんこしたいに決まっとる。」
話がぜんぜんわからなかった。
あたしは先にすすむように、座っていても背の高いジジイに目で合図した。
いまいましげに喜代次はいう。
「あんた、このあたりで起きてる連続引ったくり事件を知らんか。」
知ってるといった。
あたしのうちから歩いて五分足らずの西口公園までに、「暗い夜道と肩かけ注意!」と書かれた池袋警察署の立て看板が二枚、電信柱にとめてある。
それは年明けからの四ヶ月で十三件連続した強盗事件だった。
女性がひとりきりで人通りのすくない夜の路地を歩いていると、ふたりのりのバイクが近づいてくる。
追い越し様にバイクの後ろに座った男が手を伸ばし、肩からさげたバッグを奪っていく。
抵抗するようなら、顔面を殴ったり、腹を蹴りあげたりするという。