ー特別編ーWORLD・THE・LinkⅡ
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サクラはとうに散っているけどまだ寒い四月のなかば、あたしはいつものように午前十時にのろのろと店をあけていた。
池袋西一番街のちっぽけな果物屋。
この季節、商いのメインは砂鉄のようにうぶげを立てた水密桃で、味も値段も利幅も文句なしだった。
薄皮を指の腹で押してまわる悪ガキもいるけれど、そんなときは親の目を盗んでゲンコツの角で頭をかするように殴ってやる。
音はしないけどこれがものすごく痛いのよねー。
お母さんにやられて、あたしはよっ…く覚えている。
桃とイチゴとバナナを並べて、マスクメロンの網目にたまったほこりをはたきで通りに飛ばしていると、店先の歩道にジジイ…コホン、お爺さんがふたり立っているのが見えた。
歳は七十くらいかしら。
裏ものを貸すので有名な個室ビデオ屋の蛍光オレンジの看板を背景に、しょぼいふたり組は池袋の街から浮いていた。
年寄りのひとりはあたしと同じくらい背が高く、ひどく痩せていて、しわだらけの肌が骨に張り付いたような顔をしている。
薄く粘土をかぶせた復元途上の頭蓋骨みたい。
若いころは結構ハンサムで通っていたのではないだろうか。
目元がクリント・イーストウッドにちょっと似ていた。
編上げのブーツにニッカーボッカー、上はひび割れた時代ものの革ジャンだ。
もうひとりはカニみたいに横につぶれた体格で、金歯の光る下品な笑いを浮かべ、襟にボアの付いたナイロンジャンパーを着ていた。
肉体労働者風。
テニスボールでも押し込んだように両肩がふくらんで、みっしり肉がつまっている。
頭ひとつとなりのジジイより背が低く、横にポケットの付いただぶだぶの作業ズボンをはいても、たくましいO脚とガニ股は隠せないようだった。
お母さんの知り合いだろうか。
あたしには五十すぎの友人はいない。
でこぼこコンビは、商売ものを並べるあたしの動きを、棒をのんだように突っ立ったまま目で追っていた。
どうやら、母にではなく、あたしに用事があるらしい。
焦ることはなく三十分かけて店を開き、ひと息ついていると、背の高いジジイが店先にやってきた。
「アンタが宗方六花さんかい?」
じっと探るような眼は動かない。
そうよといった。
「頼みがあるんだが、話を聞いてもらえないか。」
姿勢に負けないほどジジイの声はしっかりしていた。
「知らない顔だけど、誰かに紹介でもされたのー?」
「そうだ。一ノ瀬辰弥に聞いてきた。」
前の放火事件を思い出した。
一ノ瀬辰弥は関東賛和会一ノ瀬組の組長で、池袋の裏の世界のトップスリーの権力者のひとり。
「そっちの世界の話なら聞くつもりはないわよ。あたしじゃなく小鳥遊悠って方に相談して。」
とてもヤクザには見えないジジイにそういった。
あっちの世界も不景気そうだから、年寄りの兵隊はこんなうらぶれた格好をしているのかもしれない。
ジジイは顔を崩して笑った。
もとから深いしわが骨まで届きそうに深くなる。
池袋西一番街のちっぽけな果物屋。
この季節、商いのメインは砂鉄のようにうぶげを立てた水密桃で、味も値段も利幅も文句なしだった。
薄皮を指の腹で押してまわる悪ガキもいるけれど、そんなときは親の目を盗んでゲンコツの角で頭をかするように殴ってやる。
音はしないけどこれがものすごく痛いのよねー。
お母さんにやられて、あたしはよっ…く覚えている。
桃とイチゴとバナナを並べて、マスクメロンの網目にたまったほこりをはたきで通りに飛ばしていると、店先の歩道にジジイ…コホン、お爺さんがふたり立っているのが見えた。
歳は七十くらいかしら。
裏ものを貸すので有名な個室ビデオ屋の蛍光オレンジの看板を背景に、しょぼいふたり組は池袋の街から浮いていた。
年寄りのひとりはあたしと同じくらい背が高く、ひどく痩せていて、しわだらけの肌が骨に張り付いたような顔をしている。
薄く粘土をかぶせた復元途上の頭蓋骨みたい。
若いころは結構ハンサムで通っていたのではないだろうか。
目元がクリント・イーストウッドにちょっと似ていた。
編上げのブーツにニッカーボッカー、上はひび割れた時代ものの革ジャンだ。
もうひとりはカニみたいに横につぶれた体格で、金歯の光る下品な笑いを浮かべ、襟にボアの付いたナイロンジャンパーを着ていた。
肉体労働者風。
テニスボールでも押し込んだように両肩がふくらんで、みっしり肉がつまっている。
頭ひとつとなりのジジイより背が低く、横にポケットの付いただぶだぶの作業ズボンをはいても、たくましいO脚とガニ股は隠せないようだった。
お母さんの知り合いだろうか。
あたしには五十すぎの友人はいない。
でこぼこコンビは、商売ものを並べるあたしの動きを、棒をのんだように突っ立ったまま目で追っていた。
どうやら、母にではなく、あたしに用事があるらしい。
焦ることはなく三十分かけて店を開き、ひと息ついていると、背の高いジジイが店先にやってきた。
「アンタが宗方六花さんかい?」
じっと探るような眼は動かない。
そうよといった。
「頼みがあるんだが、話を聞いてもらえないか。」
姿勢に負けないほどジジイの声はしっかりしていた。
「知らない顔だけど、誰かに紹介でもされたのー?」
「そうだ。一ノ瀬辰弥に聞いてきた。」
前の放火事件を思い出した。
一ノ瀬辰弥は関東賛和会一ノ瀬組の組長で、池袋の裏の世界のトップスリーの権力者のひとり。
「そっちの世界の話なら聞くつもりはないわよ。あたしじゃなく小鳥遊悠って方に相談して。」
とてもヤクザには見えないジジイにそういった。
あっちの世界も不景気そうだから、年寄りの兵隊はこんなうらぶれた格好をしているのかもしれない。
ジジイは顔を崩して笑った。
もとから深いしわが骨まで届きそうに深くなる。