ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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夫がやってきて、未佐子のとなりにひざをつき肩を抱いた。
ふたりはそろって頭をさげた。
男はいった。
「むしがいいお願いなのはわかっています。でも、来月五日がお腹の子の出産予定日なんです。だから、あと三ヶ月だけ時間をください。お願いします。警察の施設でうまれるのは、なんの罪もないこの子があまりに不憫です。未佐子が元気に子供を産んで、赤ん坊にどうしても母親の手が必要なあいだだけでいいんです。そうしたらきっと自首させますから、うちの家族に時間をください」
男のほうも人目をはばかることなく鼻水を垂らしていた。
南条も隠さずに泣いている。
おれなんてすでにバカみたいに一年分の涙をスタジャンに落としていた。
せっかくの新品がもうベタベタだ。
あたりを満たすのはやわらかなロウソクのあかりと息を殺した泣き声だけだった。
じっと固まっていたオヤジさんが、白い花束を見てぽつりといった。
「松岡さんとかいったな、あんたたちはまだご両親は健在かい」
松岡夫妻はそろってうなずいた。
南条は正座を崩さずに、何度もちいさくうなずいた。
そうか、そうか。
「赤ん坊が生まれるんじゃあ、母親をとっちまいわけにもいかないよなあ。赤ん坊には罪はないもんな。おい、あんたたち立派な子どもを産んでしっかり育ててくれよ」
それからオヤジさんはロウソクと花束にむかって頭をさげた。
「バカなオヤジで悪かったな、トシヒロ。おれは結局おまえを立派に育てることなんてできなかった。夢にまで見たのにおまえの仇をとることもできなかった。おれはダメなオヤジだったなあ。いつかそっちにいったら、謝るからおまえはそこでもうすこしひとりで頭を冷やしてろ」
オヤジさんは涙で濡れた顔をあげて、目の前にひざをつく若い夫婦にいった。
「おれは今の話をきかなかったことにする。丈夫な赤ん坊を生んでくれ。おれみたいに失敗しないでくれ。毎年、命日が過ぎてもここに花束が供えてあるのが不思議だったんだ。あれはあんたたちの花だったんだろう」
未佐子は泣きながらうなずいた。
そうか、それならいいんだと南条はいった。
「毎年、花をやってくれ。自首なんかして不幸な家庭をもうひとつ増やすことはねえ。さあ、身体が冷えちまうぞ。家に帰ってゆっくりと風呂にでもつかんな。晴美さんもいってくれ。くれぐれも身体を大事にな。」
おれもその場を立ち去ろうとした。
もうこんな悲しみには耐えられそうになかったのだ。
南条のオヤジはおれのほうを見上げ、また涙目で笑った。
「おい、悠、アンタは残れよ。今夜は付き合ってくれ」
ふたりはそろって頭をさげた。
男はいった。
「むしがいいお願いなのはわかっています。でも、来月五日がお腹の子の出産予定日なんです。だから、あと三ヶ月だけ時間をください。お願いします。警察の施設でうまれるのは、なんの罪もないこの子があまりに不憫です。未佐子が元気に子供を産んで、赤ん坊にどうしても母親の手が必要なあいだだけでいいんです。そうしたらきっと自首させますから、うちの家族に時間をください」
男のほうも人目をはばかることなく鼻水を垂らしていた。
南条も隠さずに泣いている。
おれなんてすでにバカみたいに一年分の涙をスタジャンに落としていた。
せっかくの新品がもうベタベタだ。
あたりを満たすのはやわらかなロウソクのあかりと息を殺した泣き声だけだった。
じっと固まっていたオヤジさんが、白い花束を見てぽつりといった。
「松岡さんとかいったな、あんたたちはまだご両親は健在かい」
松岡夫妻はそろってうなずいた。
南条は正座を崩さずに、何度もちいさくうなずいた。
そうか、そうか。
「赤ん坊が生まれるんじゃあ、母親をとっちまいわけにもいかないよなあ。赤ん坊には罪はないもんな。おい、あんたたち立派な子どもを産んでしっかり育ててくれよ」
それからオヤジさんはロウソクと花束にむかって頭をさげた。
「バカなオヤジで悪かったな、トシヒロ。おれは結局おまえを立派に育てることなんてできなかった。夢にまで見たのにおまえの仇をとることもできなかった。おれはダメなオヤジだったなあ。いつかそっちにいったら、謝るからおまえはそこでもうすこしひとりで頭を冷やしてろ」
オヤジさんは涙で濡れた顔をあげて、目の前にひざをつく若い夫婦にいった。
「おれは今の話をきかなかったことにする。丈夫な赤ん坊を生んでくれ。おれみたいに失敗しないでくれ。毎年、命日が過ぎてもここに花束が供えてあるのが不思議だったんだ。あれはあんたたちの花だったんだろう」
未佐子は泣きながらうなずいた。
そうか、それならいいんだと南条はいった。
「毎年、花をやってくれ。自首なんかして不幸な家庭をもうひとつ増やすことはねえ。さあ、身体が冷えちまうぞ。家に帰ってゆっくりと風呂にでもつかんな。晴美さんもいってくれ。くれぐれも身体を大事にな。」
おれもその場を立ち去ろうとした。
もうこんな悲しみには耐えられそうになかったのだ。
南条のオヤジはおれのほうを見上げ、また涙目で笑った。
「おい、悠、アンタは残れよ。今夜は付き合ってくれ」