ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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「ごめんなさい、浩志さんです。浩志さんはなんでも相談に乗ってくれたし、とてもやさしかった。わたしをなぐらなかった。あのころわたしは私をなぐらない男の人がみんな優しく見えるような毎日だったんです」
南条はテラスのうえに正座して、晴美に頭をさげた。
「そうか、すまなかったな。うちのバカ息子がそんなことを……」
そこまでいうとオヤジさんは恐ろしいものでも見るようなうわ目づかいをした。
「アキヒロはそれでもトシの息子なんだろう。」
晴美の返事は涙で言葉にならなかった。
一生懸命首を横に振るだけだ。
それで南条には十分だったようだ。
背が丸まって身体がひとまわり縮んだようだった。
「アキヒロは……アキヒロはおれの孫じゃなかったんだ。そうか、そうか」
涙もでない様子でオヤジさんはそう繰り返した。
やさしい声でいう。
「そっちのお嬢さんは、なぜトシを突き飛ばしたんだい。」
未佐子はすべてをあきらめたようで、その場でひとりだけ冷静だった。
「これはわたしたちのほうから見た話です。だから一方的で正確な事実ではないかもしれません。」
南条は正座したままちいさくうなずいた。
「あの夜、結婚まえの主人とデートをした帰り道、タクシーのり場にむかうところでした。そのときこのテラスですごい勢いで歩いてきた男の人にうちの主人の肩があたったんです。その男はなにもいわずにいきなり主人をなぐりました。わたしがあいだにはいるとわたしを突き飛ばし、頭を抱えた主人の腕のすきまを狙って何度もこぶしで主人をなぐりました。やめてと叫びましたが、周囲に人はいませんでした。それでわたしは男の人のわきから体当たりしました。殺すつもりはありませんでした。ただその凶暴な人を主人から離したかっただけです。」
南条は未佐子をとおりすぎて、男の方を見た。
「そいつはほんとうか。あんたが突き飛ばしたんじゃあないだろうな」
サラリーマン風の男は黙って首を横に振るだけだった。
ハンカチで涙をぬぐっていた晴美が口をひらいた。
「突き飛ばしたところは見ていないけど、叫び声ならわたしはきいています。犯人が捕まらなければいいと思ったわたしは、未佐子の顔を見たことは誰にもいわなかった」
未佐子は長身の背を折って、南条のまえにひざをついた。
テラスに額がふれるほど頭をさげる。
もう冷静ではいられなくなったようだ。
顔をあげたときには目が真っ赤になっていた。
「何度も何度も自首しようと思いました。でも、そのころちょうど就職試験の最中だったし、彼のほうまで迷惑をかけることはできませんでした。大学を卒業したら結婚しようと、うちと彼の家のあいだで婚約話もすすんでいたんです。自分のことばかり考えていて、ごめんなさい。五年ものあいだこうして正直に謝れなくてすみませんでした。ほんとうにごめんなさい」
そこまでいうとこらえられなくなったようだった。
未佐子は声を殺して泣き出した。
南条はテラスのうえに正座して、晴美に頭をさげた。
「そうか、すまなかったな。うちのバカ息子がそんなことを……」
そこまでいうとオヤジさんは恐ろしいものでも見るようなうわ目づかいをした。
「アキヒロはそれでもトシの息子なんだろう。」
晴美の返事は涙で言葉にならなかった。
一生懸命首を横に振るだけだ。
それで南条には十分だったようだ。
背が丸まって身体がひとまわり縮んだようだった。
「アキヒロは……アキヒロはおれの孫じゃなかったんだ。そうか、そうか」
涙もでない様子でオヤジさんはそう繰り返した。
やさしい声でいう。
「そっちのお嬢さんは、なぜトシを突き飛ばしたんだい。」
未佐子はすべてをあきらめたようで、その場でひとりだけ冷静だった。
「これはわたしたちのほうから見た話です。だから一方的で正確な事実ではないかもしれません。」
南条は正座したままちいさくうなずいた。
「あの夜、結婚まえの主人とデートをした帰り道、タクシーのり場にむかうところでした。そのときこのテラスですごい勢いで歩いてきた男の人にうちの主人の肩があたったんです。その男はなにもいわずにいきなり主人をなぐりました。わたしがあいだにはいるとわたしを突き飛ばし、頭を抱えた主人の腕のすきまを狙って何度もこぶしで主人をなぐりました。やめてと叫びましたが、周囲に人はいませんでした。それでわたしは男の人のわきから体当たりしました。殺すつもりはありませんでした。ただその凶暴な人を主人から離したかっただけです。」
南条は未佐子をとおりすぎて、男の方を見た。
「そいつはほんとうか。あんたが突き飛ばしたんじゃあないだろうな」
サラリーマン風の男は黙って首を横に振るだけだった。
ハンカチで涙をぬぐっていた晴美が口をひらいた。
「突き飛ばしたところは見ていないけど、叫び声ならわたしはきいています。犯人が捕まらなければいいと思ったわたしは、未佐子の顔を見たことは誰にもいわなかった」
未佐子は長身の背を折って、南条のまえにひざをついた。
テラスに額がふれるほど頭をさげる。
もう冷静ではいられなくなったようだ。
顔をあげたときには目が真っ赤になっていた。
「何度も何度も自首しようと思いました。でも、そのころちょうど就職試験の最中だったし、彼のほうまで迷惑をかけることはできませんでした。大学を卒業したら結婚しようと、うちと彼の家のあいだで婚約話もすすんでいたんです。自分のことばかり考えていて、ごめんなさい。五年ものあいだこうして正直に謝れなくてすみませんでした。ほんとうにごめんなさい」
そこまでいうとこらえられなくなったようだった。
未佐子は声を殺して泣き出した。