ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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「あたしの部屋を飛びだしていった。立教大学の裏にある古いアパートだった。でていったときの顔があまり静かだったから、心配になってあとを折った。トシがあのテラスで倒れているのを最初に見つけたのは、あたしだったんだ。警察に届けてから、急にこわくなったよ。もしかしたら、これは浩志がやったんじゃないかって」
俺は窓の外の南条を眺めていた。やさしく広い背中。
この男から暴君のようなトシが生まれたのだ。
「違ったんだ」
「そう。すぐに携帯をかけたけど、浩志は神楽坂にあるトラックの出荷センターにいた。よかったって思ったよ。救急車が来て要町のトシが運ばれて、朝方に死んだときには、ショックだとたけれど同時にすごく安心したんだ。これですくなくとも、トシに浩志が殺されることはないって」
そこまで話すと晴美は急に背筋を伸ばした。
自転車で乱れた髪を直して、てきぱきという。
「もうあたしの話はこれでおしまい。そろそろアキヒロを迎えにいく時間だから。」
そういう顔はすでに母親のものになっている。
俺はあまりの変わり身の早さに少々驚いていた。
自分の話せるところ話した。
突然断崖の端まできたようにすっぱりと言葉も感情も断ち落とされ、そのむこう側にはなにもなくなっている。
池袋のうつろな冬空のような空間が広がるだけなのだ。
晴美はいつもそんなふうなのだろうか。
それともさらにむこうに別な絶壁がそびえていて、この女は俺をそのしたまでつれていっただけなのか。
どちらにしてめ、もうそれ以上晴美からなにかをききだすことはできそうもなかった。
晴美はドアをあけて保育園の入り口にむかい、靴を履き替えたアキヒロを笑顔で抱き上げたのだ。
なにも知らない子供は絶対の防壁だ。
そのあとジャズタクシーのなかは急ににぎやかになった。
さっきまでの暗い雰囲気は嘘みたいだ。
曲はニューオリンズのたのしいブラスバンドになった。
晴美ののってきた自転車はトランクに押し込み、後部座席にアキヒロと晴美が、助手席におれが移ってジャズタクシーはゆっくりと池袋の住宅街を流していった。
南条は運転がたのしかったのだろう。
立教のまわりを二周してから、晴美親子の住むマンションにむかった。
エレベーターのない三階建ての造りだった。
おれはママチャリをトランクからおろして駐輪場をでた。
南条は二十キロはあるアキヒロを抱き上げたまま、外階段を駆けのぼっていく、アキヒロのはしゃぐ声がうえから降ってきた、俺と肩をならべて晴美は階段を見上げていた。
「晴美さん、お歳暮もらったから……」
そのとき、おれたちのうしろから声が飛んだ。
その女の声を聞いて晴美の顔は木彫りの面のようになった。
トシに妊娠しているといったときでさえ余裕があった表情が、今にも切れそうな糸のように張りつめる。
晴美は恐るおそる横目で俺を見た。
おれがその女に気づいているのか確認したようだ。
おれは黙ったまま振り返った。
俺は窓の外の南条を眺めていた。やさしく広い背中。
この男から暴君のようなトシが生まれたのだ。
「違ったんだ」
「そう。すぐに携帯をかけたけど、浩志は神楽坂にあるトラックの出荷センターにいた。よかったって思ったよ。救急車が来て要町のトシが運ばれて、朝方に死んだときには、ショックだとたけれど同時にすごく安心したんだ。これですくなくとも、トシに浩志が殺されることはないって」
そこまで話すと晴美は急に背筋を伸ばした。
自転車で乱れた髪を直して、てきぱきという。
「もうあたしの話はこれでおしまい。そろそろアキヒロを迎えにいく時間だから。」
そういう顔はすでに母親のものになっている。
俺はあまりの変わり身の早さに少々驚いていた。
自分の話せるところ話した。
突然断崖の端まできたようにすっぱりと言葉も感情も断ち落とされ、そのむこう側にはなにもなくなっている。
池袋のうつろな冬空のような空間が広がるだけなのだ。
晴美はいつもそんなふうなのだろうか。
それともさらにむこうに別な絶壁がそびえていて、この女は俺をそのしたまでつれていっただけなのか。
どちらにしてめ、もうそれ以上晴美からなにかをききだすことはできそうもなかった。
晴美はドアをあけて保育園の入り口にむかい、靴を履き替えたアキヒロを笑顔で抱き上げたのだ。
なにも知らない子供は絶対の防壁だ。
そのあとジャズタクシーのなかは急ににぎやかになった。
さっきまでの暗い雰囲気は嘘みたいだ。
曲はニューオリンズのたのしいブラスバンドになった。
晴美ののってきた自転車はトランクに押し込み、後部座席にアキヒロと晴美が、助手席におれが移ってジャズタクシーはゆっくりと池袋の住宅街を流していった。
南条は運転がたのしかったのだろう。
立教のまわりを二周してから、晴美親子の住むマンションにむかった。
エレベーターのない三階建ての造りだった。
おれはママチャリをトランクからおろして駐輪場をでた。
南条は二十キロはあるアキヒロを抱き上げたまま、外階段を駆けのぼっていく、アキヒロのはしゃぐ声がうえから降ってきた、俺と肩をならべて晴美は階段を見上げていた。
「晴美さん、お歳暮もらったから……」
そのとき、おれたちのうしろから声が飛んだ。
その女の声を聞いて晴美の顔は木彫りの面のようになった。
トシに妊娠しているといったときでさえ余裕があった表情が、今にも切れそうな糸のように張りつめる。
晴美は恐るおそる横目で俺を見た。
おれがその女に気づいているのか確認したようだ。
おれは黙ったまま振り返った。