ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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「ねえ、あなたはどうするの。全部わかったっていって、南条のおじいちゃんに話つもり」
探るような視線だった。
まだ俺の知らないなにかがあるのだろうか。
「いいや。適当にごまかしておくよ、別に誰もがすべてを知る必要なんてないからな。」
晴美は悲しそうな笑顔を見せた。
「でも、私もときどきよくわからなくなる。特にアキヒロのことをかわいがってくれるときなんか、南条さんにすべてを話してしまいたくなる。全部話して、謝って、アキヒロは本当は他人だって叫びたくなる。」
おれはじっと晴美の目を見つめた。
この女はまだ底をだしていない。
なにかを隠しているようだ。
まだまだ表情にゆとりがあった。
「南条さんにはいわないから、もしまだ心に引っ掛かってることがあるなら、話したらどうだ。たぶん、おれたちはもう会うこともないと思うし」
何度も洗濯したスエットを着崩した女の目が、薄暗くなったタクシーの後部座席でぎらりと凄みのある光を放った。
晴美の声はかつての女ギャング時代の張りをとりもどしたようだった。
「アンタになにがわかるのさ。こっちはこれから何十年もたくさんの秘密を抱えて、あの子とうちの人とおじいちゃんと、それに死んだトシの思い出と生きるんだよ。そいつはアンタみたいなガキの書く作文みたいに簡単なことじゃない。終わりもなにもないただの垂れ流しの人生なんだ!」
誰にでも長い間せきとめられた感情があふれだす瞬間がある。
今日のパートで嫌なことがあったのかもしれないし、もう生活のすべてを放り投げたくなったのかもしれない。
俺はなにもいわずに、晴美の口から言葉がこぼれるのを待つだけでよかった。
別に俺でなくても、そのときの晴美なら誰にでも秘密を漏らしてしまっただろう。
ただおれはそのとき隣にいただけだ。
「五年まえのあの日、あたしはトシにいったんだ。もう別れてほしい。好きな人ができた。そうしたらまたトシは荒れたよ。でもあたしは絶対にトシから目をそらさなかった。いくらなぐられても、お腹だけ守って必死に耐えた。途中でトシも気がついたみたいだった。なんで腹を抱えてるんだって、急にまともにもどってあいつはあたしにいったんだ」
晴美の目のなかでも嵐が吹き荒れていた。
目の色がどんどん澄んで深くなっていく。
トシの台詞は想像がついたが、晴美の返事を聞いたあとのやつの行動はまったく予想できなかった。
「あたしは妊娠してるといった。それにお腹のなかの子は、あんたの子供じゃないって」
おれは息をのんでいた。
タクシーの後部座席が狭すぎて、悲鳴が出てしまいそうだ。
俺の声はしゃがれていた。
「トシヒロはそれからどうした」
晴美は涙目になっていた。
じっと誰も座っていないまえの座席を見ている。
探るような視線だった。
まだ俺の知らないなにかがあるのだろうか。
「いいや。適当にごまかしておくよ、別に誰もがすべてを知る必要なんてないからな。」
晴美は悲しそうな笑顔を見せた。
「でも、私もときどきよくわからなくなる。特にアキヒロのことをかわいがってくれるときなんか、南条さんにすべてを話してしまいたくなる。全部話して、謝って、アキヒロは本当は他人だって叫びたくなる。」
おれはじっと晴美の目を見つめた。
この女はまだ底をだしていない。
なにかを隠しているようだ。
まだまだ表情にゆとりがあった。
「南条さんにはいわないから、もしまだ心に引っ掛かってることがあるなら、話したらどうだ。たぶん、おれたちはもう会うこともないと思うし」
何度も洗濯したスエットを着崩した女の目が、薄暗くなったタクシーの後部座席でぎらりと凄みのある光を放った。
晴美の声はかつての女ギャング時代の張りをとりもどしたようだった。
「アンタになにがわかるのさ。こっちはこれから何十年もたくさんの秘密を抱えて、あの子とうちの人とおじいちゃんと、それに死んだトシの思い出と生きるんだよ。そいつはアンタみたいなガキの書く作文みたいに簡単なことじゃない。終わりもなにもないただの垂れ流しの人生なんだ!」
誰にでも長い間せきとめられた感情があふれだす瞬間がある。
今日のパートで嫌なことがあったのかもしれないし、もう生活のすべてを放り投げたくなったのかもしれない。
俺はなにもいわずに、晴美の口から言葉がこぼれるのを待つだけでよかった。
別に俺でなくても、そのときの晴美なら誰にでも秘密を漏らしてしまっただろう。
ただおれはそのとき隣にいただけだ。
「五年まえのあの日、あたしはトシにいったんだ。もう別れてほしい。好きな人ができた。そうしたらまたトシは荒れたよ。でもあたしは絶対にトシから目をそらさなかった。いくらなぐられても、お腹だけ守って必死に耐えた。途中でトシも気がついたみたいだった。なんで腹を抱えてるんだって、急にまともにもどってあいつはあたしにいったんだ」
晴美の目のなかでも嵐が吹き荒れていた。
目の色がどんどん澄んで深くなっていく。
トシの台詞は想像がついたが、晴美の返事を聞いたあとのやつの行動はまったく予想できなかった。
「あたしは妊娠してるといった。それにお腹のなかの子は、あんたの子供じゃないって」
おれは息をのんでいた。
タクシーの後部座席が狭すぎて、悲鳴が出てしまいそうだ。
俺の声はしゃがれていた。
「トシヒロはそれからどうした」
晴美は涙目になっていた。
じっと誰も座っていないまえの座席を見ている。