ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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すこやか保育園(冗談ではなくそういう名前なのだ)は、西池袋五丁目のジョナサンのそばだった。
ゲートのまえにタクシーをとめて、おれたちは晴美が来るのをまった。
南条は窓越しに園庭で元気に遊ぶアキヒロを眺めていた。
こんな時期なので子供はほんの数人しかいない。
オヤジはぽつりという。
「子供には罪がないというが、あれはほんとうだなあ。トシのやつだって、あんな年のころもあったんだがな。いつのまにかギャングなんかになりやがって。悠、おまえもあんまり親父さん泣かすんじゃねぇぞ」
親父はともかく、居候に泣かされているのはおれのほうなんだが、黙って、うなずいた。
世界に滑り台とブランコと砂場しかなかったころのことを思い出そうとしたが、それはもうできない年になっていた。
しばらくしてママチャリにのった晴美が通りの向こうからやってきた。
母親の姿を確かめると、南条はドアをあけて、タクシーをおりた。
「俺はずっと座ったままだから、すこし腰を伸ばしてくる。クルマのなかで話すといい。暖房をいれといてやるよ。」
南条はタクシーの外で母親と二言三事話す。
入れ違いに後部座席に晴美がはいってきた。
おれは席をずれて、奥に動いた。
「急に呼び出したりしてすまなかった。もう、ほとんどのことは三代目からきいたんだ。俺が確かめたいのは、あとひとつだけ。こたえなくていいから、イエスならただうなずいてくれ。いいか」
ほつれた髪がうなじに落ちていた。
晴美はトシヒロと同じ年だから、今二十六歳だろう。
すでに生活に疲れ、ファッションだってダイエーかイトーヨーカ堂で買ったという雰囲気だ。
それでも日が沈んで十分後の西日のようにかつての可憐さが残っていた。
俺の言葉をきいて、晴美は顔を引き締める。
「アキヒロはトシヒロの子供ではなく、二代目の浩志の子なんだな。」
晴美は俺のほうを見ずに、窓の外に目をやっていた。
保育園の格子にはカーディガンを着た南条がもたれ、そのむこうの園庭ではアキヒロが手のひらのように大きな枯れ葉を大好きな祖父に見せていた。
スズカケだろうか。
晴美はほほえんだままうなずいた。
「そう。あの子は浩志さんの子。いつもなぐられてるわたしを浩志さんがかばい、浩志さんまでいっしょに殴られた。トシは荒れるときは台風みたいなんだ。女も男も子どもも容赦しなくなる。わたしたちは同じ境遇だったから、相談したり慰めあったりしたよ。トシの目を隠れて会うようになるまで時間はかからなかった」
それでトシに関してアポロの口が固かったのも説明がつく。
初代の名を守り、二代目の妻とアキヒロの父親の秘密を守る。
うえのほうの何人かはすべて知っていたのだろう。
ゲートのまえにタクシーをとめて、おれたちは晴美が来るのをまった。
南条は窓越しに園庭で元気に遊ぶアキヒロを眺めていた。
こんな時期なので子供はほんの数人しかいない。
オヤジはぽつりという。
「子供には罪がないというが、あれはほんとうだなあ。トシのやつだって、あんな年のころもあったんだがな。いつのまにかギャングなんかになりやがって。悠、おまえもあんまり親父さん泣かすんじゃねぇぞ」
親父はともかく、居候に泣かされているのはおれのほうなんだが、黙って、うなずいた。
世界に滑り台とブランコと砂場しかなかったころのことを思い出そうとしたが、それはもうできない年になっていた。
しばらくしてママチャリにのった晴美が通りの向こうからやってきた。
母親の姿を確かめると、南条はドアをあけて、タクシーをおりた。
「俺はずっと座ったままだから、すこし腰を伸ばしてくる。クルマのなかで話すといい。暖房をいれといてやるよ。」
南条はタクシーの外で母親と二言三事話す。
入れ違いに後部座席に晴美がはいってきた。
おれは席をずれて、奥に動いた。
「急に呼び出したりしてすまなかった。もう、ほとんどのことは三代目からきいたんだ。俺が確かめたいのは、あとひとつだけ。こたえなくていいから、イエスならただうなずいてくれ。いいか」
ほつれた髪がうなじに落ちていた。
晴美はトシヒロと同じ年だから、今二十六歳だろう。
すでに生活に疲れ、ファッションだってダイエーかイトーヨーカ堂で買ったという雰囲気だ。
それでも日が沈んで十分後の西日のようにかつての可憐さが残っていた。
俺の言葉をきいて、晴美は顔を引き締める。
「アキヒロはトシヒロの子供ではなく、二代目の浩志の子なんだな。」
晴美は俺のほうを見ずに、窓の外に目をやっていた。
保育園の格子にはカーディガンを着た南条がもたれ、そのむこうの園庭ではアキヒロが手のひらのように大きな枯れ葉を大好きな祖父に見せていた。
スズカケだろうか。
晴美はほほえんだままうなずいた。
「そう。あの子は浩志さんの子。いつもなぐられてるわたしを浩志さんがかばい、浩志さんまでいっしょに殴られた。トシは荒れるときは台風みたいなんだ。女も男も子どもも容赦しなくなる。わたしたちは同じ境遇だったから、相談したり慰めあったりしたよ。トシの目を隠れて会うようになるまで時間はかからなかった」
それでトシに関してアポロの口が固かったのも説明がつく。
初代の名を守り、二代目の妻とアキヒロの父親の秘密を守る。
うえのほうの何人かはすべて知っていたのだろう。