ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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三代目ヘッドはいう。
「なあ、悠さん、俺から話せるのはこれだけだ。まだどうしても知りたいことがあるなら、直接晴美さんに聞いてくれ。電話は入れといてやるから、きちんと話はしてくれるはずだ。」
そこまで言うとやつは灰色のカーゴパンツの尻をはたいて立ち上がった。
「だけどな、アンタが知ったことをどう使おうと自由だが、あのオヤジさんに話すときは十分気をつけてくれよ。別に死んだ息子に傷をつけることなんてないだろう。」
そうだなと俺はいって立ち上がった。
リンタローと手すりにならんでもたれる。
「気を付けるよ。急にすまなかったな。」
三代目はそのとき初めて笑顔を見せた。
女ギャングならかわいいと目に星を飛ばすキュートな笑顔だった。
「やつにきいたけど、スタンガンを当てられて二十三人も喰ったんだってな。今度の件に片がついたら、また上野に遊びにこいよ。有名な池袋のキングの話しも聞かせてほしいな」
ありがとうといってがっちりと親指をにぎる握手をした。
階段にもどると気を聞かせて姿を消していた。
アメ横の路上におりたおれの気持ちは暗かった。
さて、オヤジになんと伝えればいいのだろうか。
だが、そのまえにもうひとり会っておかなければならない人間がいる。
もっとも近くでトシヒロにふれて、やつの子まで生んだ女。
俺はリンタローにきいた携帯の番号を押して、ジャズタクシーの待つ広小路にあるいていった。
晴美との待ち合わせは西池袋の保育園になった。
パートの仕事を終えて、これから自転車で迎えにいくところだという。
おじいちゃんがいっしょなら、アキヒロも喜ぶといっていた。
タクシーは混雑した広小路を湯島のほうに右折していく。
俺の表情を見て、オヤジはいった。
「なんだ、話がうまくいかなかったのか。暗い顔してんな」
俺は背もたれに身体を預けて注文した。
「ああ、ちょっとガス欠なんだ。帰りは静かな音楽にしてくれないか」
かちゃかちゃとグラスのふれあう音がして、無口なピアノの音が流れ出した。
ジャズにうといおれだってこいつなら知っている。
ビル・エヴァンス・トリオの『ワルツ・フォー・デビー』だ。
俺が生まれる遥か以前にヴィレッジバンガードで収録されたライヴ盤。
西池袋までの三十分、トシヒロのオヤジはあまり口を聞かなかった。
おれも同じだ。
都心のビルばかりならぶ通りの風景を見ながら、ただピアノの音に耳を澄ませる。
それは冬枯れの並木や灰色の空にぴったりの音楽だった。
「なあ、悠さん、俺から話せるのはこれだけだ。まだどうしても知りたいことがあるなら、直接晴美さんに聞いてくれ。電話は入れといてやるから、きちんと話はしてくれるはずだ。」
そこまで言うとやつは灰色のカーゴパンツの尻をはたいて立ち上がった。
「だけどな、アンタが知ったことをどう使おうと自由だが、あのオヤジさんに話すときは十分気をつけてくれよ。別に死んだ息子に傷をつけることなんてないだろう。」
そうだなと俺はいって立ち上がった。
リンタローと手すりにならんでもたれる。
「気を付けるよ。急にすまなかったな。」
三代目はそのとき初めて笑顔を見せた。
女ギャングならかわいいと目に星を飛ばすキュートな笑顔だった。
「やつにきいたけど、スタンガンを当てられて二十三人も喰ったんだってな。今度の件に片がついたら、また上野に遊びにこいよ。有名な池袋のキングの話しも聞かせてほしいな」
ありがとうといってがっちりと親指をにぎる握手をした。
階段にもどると気を聞かせて姿を消していた。
アメ横の路上におりたおれの気持ちは暗かった。
さて、オヤジになんと伝えればいいのだろうか。
だが、そのまえにもうひとり会っておかなければならない人間がいる。
もっとも近くでトシヒロにふれて、やつの子まで生んだ女。
俺はリンタローにきいた携帯の番号を押して、ジャズタクシーの待つ広小路にあるいていった。
晴美との待ち合わせは西池袋の保育園になった。
パートの仕事を終えて、これから自転車で迎えにいくところだという。
おじいちゃんがいっしょなら、アキヒロも喜ぶといっていた。
タクシーは混雑した広小路を湯島のほうに右折していく。
俺の表情を見て、オヤジはいった。
「なんだ、話がうまくいかなかったのか。暗い顔してんな」
俺は背もたれに身体を預けて注文した。
「ああ、ちょっとガス欠なんだ。帰りは静かな音楽にしてくれないか」
かちゃかちゃとグラスのふれあう音がして、無口なピアノの音が流れ出した。
ジャズにうといおれだってこいつなら知っている。
ビル・エヴァンス・トリオの『ワルツ・フォー・デビー』だ。
俺が生まれる遥か以前にヴィレッジバンガードで収録されたライヴ盤。
西池袋までの三十分、トシヒロのオヤジはあまり口を聞かなかった。
おれも同じだ。
都心のビルばかりならぶ通りの風景を見ながら、ただピアノの音に耳を澄ませる。
それは冬枯れの並木や灰色の空にぴったりの音楽だった。