ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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「世話をかけてすまない。だが、俺はどうしてもあんたたちが隠してるトシさんのことを知りたいんだ。俺個人の取材でもあるし、オヤジさんからの頼みもある。なぜ、あんたたちはトシさんのことになると、そんなに口が重くなるんだ」
リンタローは黙って、手すりのしたのよどんだ客の流れを見おろしていた。
おれのほうを振り向くという。
「アンタはオヤジさんからトシさんのことをなんときいている」
「父ひとり子ひとりで育てた自慢の息子だ。やさしところがあるやつだって。違うのか?」
リンタローはかすかに笑っていた。
「違わないよ。だけど、それはトシさんのお気に入りのメンバーに限られる。トシさんは自分が好きじゃない人間には厳しかった。片腕だった二代目の浩志さんにもずいぶんきつくあたった。もちろん他のチームや別な街のガキはみんなトシさんを怖がっていたよ。切れるとなにするかわからないんだ。しかも、どうしたらスイッチが入るのか誰にも予想できない。トシさんがヘッドを張っていたころ、アポロはいつもピリピリしていた。それでいて、やさしいときはすごく気を使ってくれるんだ。俺の妹が入院したときなんて、誰よりも早く見舞いにきて、テーブルに乗らないくらいの花を届けてくれた」
トシヒロには肉親には見せないまた別な顔があったのだろう。
だが、俺だってナンパするときの顔など真桜に見せたことがない。
「誰にでもそういうことはあるよな」
そうかなといって三代目はそっぽをむいた。
「トシさんはどこかの跳ねあがりの背中から皮膚を切り取ったことがある。ハガキくらいのおおきさの肌を、ぜんぜん磨いでないナイフでゆっくりはがしたんだ。見てるやつは何人も吐いていた」
俺はなにもいえずに黙り込んでしまった。
他人の痛みをまったく想像できない怪物がたまにいる。
リンタローはちらりとアポロキャップのしたから、俺をみあげた。
「それに、あんただって女は殴らないだろう」
すぐに返事をした。
「トシさんは殴っていたのか」
リンタローは肩をすくめて、アメ横の空を見た。
「あぁ。とくにいっしょに暮らしてる晴美さんはひどくやられていたな。浩志さんがいつもかばっていたから、そっちにまでやつあたりをすることが多かった。」
ふくらんでいた俺の気持ちがしぼんでいった。
リンタローはつらそうに続けた。
「それまでも強いチームだったけど、アポロをここまででかくしたのは二代目の浩志さんだったんだ。あの事件がなくてトシさんがずっとヘッドだったら、きっとアポロは空中分解していたよ。おれだってずっとここにはいなかっただろうと思う。」
おれもアメ横のうえの濁った空を黙って眺めるしかできなくなった。
リンタローは黙って、手すりのしたのよどんだ客の流れを見おろしていた。
おれのほうを振り向くという。
「アンタはオヤジさんからトシさんのことをなんときいている」
「父ひとり子ひとりで育てた自慢の息子だ。やさしところがあるやつだって。違うのか?」
リンタローはかすかに笑っていた。
「違わないよ。だけど、それはトシさんのお気に入りのメンバーに限られる。トシさんは自分が好きじゃない人間には厳しかった。片腕だった二代目の浩志さんにもずいぶんきつくあたった。もちろん他のチームや別な街のガキはみんなトシさんを怖がっていたよ。切れるとなにするかわからないんだ。しかも、どうしたらスイッチが入るのか誰にも予想できない。トシさんがヘッドを張っていたころ、アポロはいつもピリピリしていた。それでいて、やさしいときはすごく気を使ってくれるんだ。俺の妹が入院したときなんて、誰よりも早く見舞いにきて、テーブルに乗らないくらいの花を届けてくれた」
トシヒロには肉親には見せないまた別な顔があったのだろう。
だが、俺だってナンパするときの顔など真桜に見せたことがない。
「誰にでもそういうことはあるよな」
そうかなといって三代目はそっぽをむいた。
「トシさんはどこかの跳ねあがりの背中から皮膚を切り取ったことがある。ハガキくらいのおおきさの肌を、ぜんぜん磨いでないナイフでゆっくりはがしたんだ。見てるやつは何人も吐いていた」
俺はなにもいえずに黙り込んでしまった。
他人の痛みをまったく想像できない怪物がたまにいる。
リンタローはちらりとアポロキャップのしたから、俺をみあげた。
「それに、あんただって女は殴らないだろう」
すぐに返事をした。
「トシさんは殴っていたのか」
リンタローは肩をすくめて、アメ横の空を見た。
「あぁ。とくにいっしょに暮らしてる晴美さんはひどくやられていたな。浩志さんがいつもかばっていたから、そっちにまでやつあたりをすることが多かった。」
ふくらんでいた俺の気持ちがしぼんでいった。
リンタローはつらそうに続けた。
「それまでも強いチームだったけど、アポロをここまででかくしたのは二代目の浩志さんだったんだ。あの事件がなくてトシさんがずっとヘッドだったら、きっとアポロは空中分解していたよ。おれだってずっとここにはいなかっただろうと思う。」
おれもアメ横のうえの濁った空を黙って眺めるしかできなくなった。