ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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俺の上野取材も三日目になった。
その日はまおの機嫌が悪く、アメ横についたのは日の沈みかけたころ。
メインストリートは人の数がすごいので、京浜東北線と山手線の高架のあいだを抜ける薄暗い路地を縫ってあるいた。
すると油でべたりと垂れ下がった焼き鳥屋ののれんをわけて、四人のアポロキャップが現れた。
二メートルほどしかないコンクリート敷きに広がり、行く手をはばむ。
ようやくむこうのほうからアクションを起こしてくれた。おれは真ん中に立つ一番貫禄のあるやつにいった。
「これでようやく話を聞かせてもらえそうだな」
やつの着てるサテンのスタジャンは肩口から手首にかけて二匹の手刺繍の龍がうねっていた。
おもしろがっているようにいう。
「俺たちがなにを話すというんだ。おまえはこの街に出入り禁止になったのさ。わかったら、Uターンしな」
そう簡単に池袋に帰るわけにはいかなかった。
ここまでもう何日もつかっているし、この街のガキのあいだで秘密になっているなにかをトシのオヤジに教えてやりたかったのだ。
おれは身体をリラックスさせた。
四対一では圧倒的に分が悪い。
だが、おれの目的は勝つことじゃなかった。
「そうはいかない。悪いけどそっちの二人はおれがくわせてもらう」
ストリートギャングのガキにとって暴力は本格的な交渉前の挨拶のようなものだった。
どんな世界だって挨拶はきちんとやらなきゃならない。
腕組をして立っているスタジャンをのぞいた三人が、なにか意味不明なことを口々に叫びながらおれの方に向かってきた。
最初のひとりは高校生に見える赤い髪の坊主頭。
ふりかぶった右手がのろくさいストレートを予告していた。
右に半歩サイドステップして、膝と腰を思い切り回転させた。
上半身と九十度に折った腕はほぼ惰性で遅れて出てくる。
スムーズに流れるなら、力など入れない方が威力があがる。
右のボディフック。
打つのではなく振り当てる、派手なアクションも技術もないが俺がよく使う必殺パンチだった。
拳はなんの抵抗もなく伸びきったわき腹に吸い込まれた。
赤い髪は身体をくのじに折ってその場に倒れた。
それを見ていたふたり目は無意識に腹をガードしてつっこんでくる。
おれは同じフックを打つと見せて腰を一段落とし、やつが組ついてくるのをまった。
がら空きになったやつの顔にニットキャップの額をロケットのように突き上げる。
トマトを潰したような鼻をしてやつはその場に座り込んだ。
だが、同時に俺の首の横に三人目の拳が飛んできた。見えているのだが、避ける事のできないパンチだった。
首の筋肉に力をいれて耐えたが、バチッという音と焦げたにおい、俺は全身に刺を刺されたような痛みが走り足元がぐらりとした。
三人目の奴は拳に隠していた小型のスタンガンをバチバチと鳴らしている。
まずい…。
飛びかける意識、ふらつく足、痺れて上がらない腕、目の前では四人目のスタジャンが口をまっすぐに結んで駆けてくる。
おれは拳を打とうとしたが、フラフラのパンチを避けるのは簡単なようだった。
その日はまおの機嫌が悪く、アメ横についたのは日の沈みかけたころ。
メインストリートは人の数がすごいので、京浜東北線と山手線の高架のあいだを抜ける薄暗い路地を縫ってあるいた。
すると油でべたりと垂れ下がった焼き鳥屋ののれんをわけて、四人のアポロキャップが現れた。
二メートルほどしかないコンクリート敷きに広がり、行く手をはばむ。
ようやくむこうのほうからアクションを起こしてくれた。おれは真ん中に立つ一番貫禄のあるやつにいった。
「これでようやく話を聞かせてもらえそうだな」
やつの着てるサテンのスタジャンは肩口から手首にかけて二匹の手刺繍の龍がうねっていた。
おもしろがっているようにいう。
「俺たちがなにを話すというんだ。おまえはこの街に出入り禁止になったのさ。わかったら、Uターンしな」
そう簡単に池袋に帰るわけにはいかなかった。
ここまでもう何日もつかっているし、この街のガキのあいだで秘密になっているなにかをトシのオヤジに教えてやりたかったのだ。
おれは身体をリラックスさせた。
四対一では圧倒的に分が悪い。
だが、おれの目的は勝つことじゃなかった。
「そうはいかない。悪いけどそっちの二人はおれがくわせてもらう」
ストリートギャングのガキにとって暴力は本格的な交渉前の挨拶のようなものだった。
どんな世界だって挨拶はきちんとやらなきゃならない。
腕組をして立っているスタジャンをのぞいた三人が、なにか意味不明なことを口々に叫びながらおれの方に向かってきた。
最初のひとりは高校生に見える赤い髪の坊主頭。
ふりかぶった右手がのろくさいストレートを予告していた。
右に半歩サイドステップして、膝と腰を思い切り回転させた。
上半身と九十度に折った腕はほぼ惰性で遅れて出てくる。
スムーズに流れるなら、力など入れない方が威力があがる。
右のボディフック。
打つのではなく振り当てる、派手なアクションも技術もないが俺がよく使う必殺パンチだった。
拳はなんの抵抗もなく伸びきったわき腹に吸い込まれた。
赤い髪は身体をくのじに折ってその場に倒れた。
それを見ていたふたり目は無意識に腹をガードしてつっこんでくる。
おれは同じフックを打つと見せて腰を一段落とし、やつが組ついてくるのをまった。
がら空きになったやつの顔にニットキャップの額をロケットのように突き上げる。
トマトを潰したような鼻をしてやつはその場に座り込んだ。
だが、同時に俺の首の横に三人目の拳が飛んできた。見えているのだが、避ける事のできないパンチだった。
首の筋肉に力をいれて耐えたが、バチッという音と焦げたにおい、俺は全身に刺を刺されたような痛みが走り足元がぐらりとした。
三人目の奴は拳に隠していた小型のスタンガンをバチバチと鳴らしている。
まずい…。
飛びかける意識、ふらつく足、痺れて上がらない腕、目の前では四人目のスタジャンが口をまっすぐに結んで駆けてくる。
おれは拳を打とうとしたが、フラフラのパンチを避けるのは簡単なようだった。