ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺が中に顔を出すと、カウンターに座っていた五個のアポロキャップが一斉にこちらを向いた。
クモ男は居なかった。
視線をそらせたままカウンターの端に座り、格好をつけたくなって昼間から黒ビールを注文する。
なんだかハードボイルドの探偵みたいだ。
探偵はBARにいるみたいにな。
酸っぱいビールに唇をつけてから、やはりアポロキャップをかぶったマスターにいう。
「おれ、ファッション雑誌にコラムを書いてる人間の知り合いなんだけど、亡くなったトシさんについて話を聞かせてくれる人間はいないかな」
雪山に向かって語りかけたようだった。
返事はなく、空気はしんと凍りついている。
俺はしかたなく続けた。
「このまえの命日の夜、芸術劇場にもいった。オヤジさんの南條さんとも知り合いだし、息子の明洋ともあった。取材ができるんなら、その話をちゃんと聞いて書いてみたいんだ。」
一番遠い席で背を丸めていた男が口を開いた。
メキシコ人みたいなどじょうひげを垂らしている。
顔はラテン系の浅黒いいい男。
「雑誌の名前は」
「ストリートビート」
大手出版社の雑誌ではないが、このところ急に部数を伸ばして、たいていのコンビニには置いてあるストリートファッションの専門誌だ 。
「それなら読んでる。あの雑誌の名物コラムなら「リアルタイム・タウン」だな。筆者が森下社…っで、取材協力者の小鳥遊悠ってあんたか」
俺の名前を知っている人間がいるなんて意外だった。これなら取材もうまくいくかもしれない。
男はじっと俺のほうを見つめている。
「あのコラムは好きだけど、協力はできない。トシさんについて書くのはやめてくれ。迷惑だしみんながもう忘れていることだ。昔のことはほじくり返すな」
急に話の流れが逆転した。おれはびっくりして、黒ビールの泡で唇をなめらかにした。
「それはあんただけの意見じゃなくて、上野のチーム全体の決定なのか。」
アポロキャップのつばが鋭いくちばしのように俺をさしていた。
五人の視線が痛いほどおれにあたる。
「トシさんについては、もうなにも話すつもりはない。そいつをやったら、この店からでていってくれ。」
そういわれたら長居はできない。
おれは黒ビールのグラスをほとんど残して、スツールを降りた。
もともと黒ビールなど好きでもなかったのだ。
取材は空振りだったが、ひとつだけ収穫がある。
死んだトシヒロにはなにかふれてはいけないことがあったのだ。
せっかく上野のまできたのだから、もう少し粘ることにした。
ゲームセンターやガードしたの迷路のような商店街をうろつき、アポロキャップをかぶったガキに誰かれなく声をかけていく。
ギャングのガキに話を聞くのは、とびきりの美人をナンパするより難しかった。
気のいいガキでさえ、初代ヘッドの話になると腰が引けてしまうのだ。
クモ男は居なかった。
視線をそらせたままカウンターの端に座り、格好をつけたくなって昼間から黒ビールを注文する。
なんだかハードボイルドの探偵みたいだ。
探偵はBARにいるみたいにな。
酸っぱいビールに唇をつけてから、やはりアポロキャップをかぶったマスターにいう。
「おれ、ファッション雑誌にコラムを書いてる人間の知り合いなんだけど、亡くなったトシさんについて話を聞かせてくれる人間はいないかな」
雪山に向かって語りかけたようだった。
返事はなく、空気はしんと凍りついている。
俺はしかたなく続けた。
「このまえの命日の夜、芸術劇場にもいった。オヤジさんの南條さんとも知り合いだし、息子の明洋ともあった。取材ができるんなら、その話をちゃんと聞いて書いてみたいんだ。」
一番遠い席で背を丸めていた男が口を開いた。
メキシコ人みたいなどじょうひげを垂らしている。
顔はラテン系の浅黒いいい男。
「雑誌の名前は」
「ストリートビート」
大手出版社の雑誌ではないが、このところ急に部数を伸ばして、たいていのコンビニには置いてあるストリートファッションの専門誌だ 。
「それなら読んでる。あの雑誌の名物コラムなら「リアルタイム・タウン」だな。筆者が森下社…っで、取材協力者の小鳥遊悠ってあんたか」
俺の名前を知っている人間がいるなんて意外だった。これなら取材もうまくいくかもしれない。
男はじっと俺のほうを見つめている。
「あのコラムは好きだけど、協力はできない。トシさんについて書くのはやめてくれ。迷惑だしみんながもう忘れていることだ。昔のことはほじくり返すな」
急に話の流れが逆転した。おれはびっくりして、黒ビールの泡で唇をなめらかにした。
「それはあんただけの意見じゃなくて、上野のチーム全体の決定なのか。」
アポロキャップのつばが鋭いくちばしのように俺をさしていた。
五人の視線が痛いほどおれにあたる。
「トシさんについては、もうなにも話すつもりはない。そいつをやったら、この店からでていってくれ。」
そういわれたら長居はできない。
おれは黒ビールのグラスをほとんど残して、スツールを降りた。
もともと黒ビールなど好きでもなかったのだ。
取材は空振りだったが、ひとつだけ収穫がある。
死んだトシヒロにはなにかふれてはいけないことがあったのだ。
せっかく上野のまできたのだから、もう少し粘ることにした。
ゲームセンターやガードしたの迷路のような商店街をうろつき、アポロキャップをかぶったガキに誰かれなく声をかけていく。
ギャングのガキに話を聞くのは、とびきりの美人をナンパするより難しかった。
気のいいガキでさえ、初代ヘッドの話になると腰が引けてしまうのだ。