ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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俺はクモのタトゥーにきいてみる。
「今の人がトシさんのガールフレンドだったんだ、名前は」
やつは腰をおろしながらうなずいた。
「松田晴美さん。昔はすごいべっぴんだったよ。俺たちしたっぱの憧れの的だった。」
「松田っていうのはトシさんがなくなってから結婚した相手だよな」
クモ男はキャップのつばを深くして、ロウソクの灯を見つめていた。
「ああ、浩志さんはうちのアポロの二代目ヘッドで、今は足を洗ってトラックに乗ってる。偉いよな、トシさんの子供を自分の子のように育ててさ」
そうかといった。ストリートギャングのガキどもはなぜか身内には妙にやさしく男気のある奴が多かった。
俺はどうせ毎日暇なのだから、もう少し南条親子三代の事を調べてみようと思った。
なんなら、うまくまとめて短いノンフィクションにして雑誌社に持ち込んでみてもいいかもしれない。
俺はときどき森下のコラムの手伝いをしてることもあるし、もっと広いフィールドでなら、俺のさえない文才だって、もしかすると別な種類の輝きを見せるかもしれない。
誰にだってうぬぼれはあるものだ。
翌日は快晴で、気温は氷点下近くまで冷え込んだ。
俺は適当に身支度をすませるとJR池袋線から山手線に乗った。
上野駅までは外回りでほんの二十分ほど。
見違えるようにきれいになった駅の構内を抜けて、ガード沿いに伸びるアメ横商店街に入っていった。
クリスマスが終わっても、この街の勢いは正月に向けてさらにパワーアップしているようだった。
何せ人出が凄いのだ。幅四、五メートルはある歩行者専用の通路が買い物客でびっしりと埋まり、身動きができない。
頭上を流れるのはうちの店が日本一安いとがなる売り子のざらざら声だ。
新巻き鮭にイクラにタラバガニ。
ロースハムにローストチキンに骨付きカルビ。
見ているだけでよだれの出そうな食材が妙に赤っぽい照明を浴びて濡れたように光っている。
だが、生鮮食品はアメ横の片方の顔でしかなかった。若いやつなら誰でも知っているだろうが、アメ横の半分はファッションの街なのだ。
今だって食品卸よりもアメリカンカジュアルの洋装店の方が何倍も数は多い。
ガード下の壁面いっぱいにハンガーをぶら下げ、スタジアムジャンパーやフードつきのパーカ、ダウンやレザーのジャケットなんかが魚の鱗のように空までディスプレイされている。
値段だってどこかのデパートなんかよりずっと安かった。
新型のスニーカーに直輸入のTシャツやパンツなど、この街でしか手に入らない服もたくさんあって、ここは東東京のカジュアルファッションの中心地なのだ。
当然店先にはだぶだぶのジーンズにふたサイズはデカイフィールドコートを着たガキが、季節外れの羽虫みたいに群がっている。
俺は人ごみを避けながら、ABAB横にある店を目指した。
底がアポロのメンバーがたまる集会場だと、クモ男に聞いたのだ。
「ガンボ」は錆ついた鋲のついた分厚い木の扉があるカフェだった。
七階建てのビルの一階なのだが、中もアメリカ南部風だ。
床は油のしみ込んだフローリングで、スニーカーで歩くと靴底がべたべたと張りついてきた。
「今の人がトシさんのガールフレンドだったんだ、名前は」
やつは腰をおろしながらうなずいた。
「松田晴美さん。昔はすごいべっぴんだったよ。俺たちしたっぱの憧れの的だった。」
「松田っていうのはトシさんがなくなってから結婚した相手だよな」
クモ男はキャップのつばを深くして、ロウソクの灯を見つめていた。
「ああ、浩志さんはうちのアポロの二代目ヘッドで、今は足を洗ってトラックに乗ってる。偉いよな、トシさんの子供を自分の子のように育ててさ」
そうかといった。ストリートギャングのガキどもはなぜか身内には妙にやさしく男気のある奴が多かった。
俺はどうせ毎日暇なのだから、もう少し南条親子三代の事を調べてみようと思った。
なんなら、うまくまとめて短いノンフィクションにして雑誌社に持ち込んでみてもいいかもしれない。
俺はときどき森下のコラムの手伝いをしてることもあるし、もっと広いフィールドでなら、俺のさえない文才だって、もしかすると別な種類の輝きを見せるかもしれない。
誰にだってうぬぼれはあるものだ。
翌日は快晴で、気温は氷点下近くまで冷え込んだ。
俺は適当に身支度をすませるとJR池袋線から山手線に乗った。
上野駅までは外回りでほんの二十分ほど。
見違えるようにきれいになった駅の構内を抜けて、ガード沿いに伸びるアメ横商店街に入っていった。
クリスマスが終わっても、この街の勢いは正月に向けてさらにパワーアップしているようだった。
何せ人出が凄いのだ。幅四、五メートルはある歩行者専用の通路が買い物客でびっしりと埋まり、身動きができない。
頭上を流れるのはうちの店が日本一安いとがなる売り子のざらざら声だ。
新巻き鮭にイクラにタラバガニ。
ロースハムにローストチキンに骨付きカルビ。
見ているだけでよだれの出そうな食材が妙に赤っぽい照明を浴びて濡れたように光っている。
だが、生鮮食品はアメ横の片方の顔でしかなかった。若いやつなら誰でも知っているだろうが、アメ横の半分はファッションの街なのだ。
今だって食品卸よりもアメリカンカジュアルの洋装店の方が何倍も数は多い。
ガード下の壁面いっぱいにハンガーをぶら下げ、スタジアムジャンパーやフードつきのパーカ、ダウンやレザーのジャケットなんかが魚の鱗のように空までディスプレイされている。
値段だってどこかのデパートなんかよりずっと安かった。
新型のスニーカーに直輸入のTシャツやパンツなど、この街でしか手に入らない服もたくさんあって、ここは東東京のカジュアルファッションの中心地なのだ。
当然店先にはだぶだぶのジーンズにふたサイズはデカイフィールドコートを着たガキが、季節外れの羽虫みたいに群がっている。
俺は人ごみを避けながら、ABAB横にある店を目指した。
底がアポロのメンバーがたまる集会場だと、クモ男に聞いたのだ。
「ガンボ」は錆ついた鋲のついた分厚い木の扉があるカフェだった。
七階建てのビルの一階なのだが、中もアメリカ南部風だ。
床は油のしみ込んだフローリングで、スニーカーで歩くと靴底がべたべたと張りついてきた。