ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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俺は蜘蛛の刺青をみながらいった。
「そうでもないじゃないか。アンタだってトシさんを忘れてないし、あそこには息子だっている。完全なゼロになんて誰もならないさ」
やつは黙って俺にうなずいた。俺たちはみなコンピュータのデータではない。
ぴったりと計ったゼロか1かなど、なれるはずがないのだ。
命は真空管のあの灯と同じだ。
輝いているあいだは、それに耳を傾けるものに必ずなにかを残す。
俺は柄にもなく、いつか自分に子供ができたときのことを考えた。
くだらないことばかりの俺の人生も、そうしたら今よりすこしだけ明るくなるのだろうか。
もの心ついたときオヤジを嫌悪した俺が父親役をやるのはなんだかこわかったがそれでもキャンドルと花束を目の前にしてそんなことを想像すると、俺はどこか懐かしい気分になった。
男の子を抱いたまま、南条は俺のところにやって来た。
うしろにはユニクロのスエットスーツを着たけっこう生活感のある女がついてくる。
若いころはさぞきれいだったろうが、化粧気もなく、身体の線は崩れかけていた。
南条は赤い顔を子供にすりつけながらいった。
「悠、自慢の孫だ。明洋、ほら池袋のゆうだ。挨拶しろ」
いつの間にか酔っぱらって名前は呼び捨てになっている。
名字のほうはきっと忘れてしまったのだろう。
男の子はいった。
「松田アキヒロ、四歳です。好きな食べ物はリンゴやミカンやメロンやフルーツです」
俺は自然に笑っていた。
「ちょうどよかった。俺の知り合いはこの近くで果物屋やってるんだ。今度売れ残りのフルーツいっぱいもらってきてやるよ。熟れててうまいぞ」
スエットの女が軽く頭をさげた。
「うちのおじいちゃんがご迷惑をかけてすみません。」
俺はあわてて立ち上がった。気がつくととなりのスパイダー男も直立不動になっている。
俺より先にやつが深々と頭をさげた。
「ねえさん、ごぶさたしています」
女は笑って見ていた。
「おおきな声はださないで。もうトシはいないんだし、わたしもチームとは関係ないんだから」
そこでようやくおれも口をはさむことができた。
「池袋のストリートギャングにあたったけど、空振りでした。すみません」
池袋という言葉をきいたとき、一瞬だけ女の表情が空白になった。
まったく音声が消された映画の一場面のようだ。
明洋の母親はすぐに笑顔にもどっていう。
「ありがとう。でも、もうあの人は帰ってこないから」
クモ男が背筋を伸ばしたままいった。
「今日は浩志さんはいらっしゃらないんですか
女の顔がさっきとは逆にふっと柔らかくなる。
「ええ、あの人は仕事だから。」
女は俺たちに軽く会釈すると、自動販売機にいった息子と祖父のほうに向かった。
「そうでもないじゃないか。アンタだってトシさんを忘れてないし、あそこには息子だっている。完全なゼロになんて誰もならないさ」
やつは黙って俺にうなずいた。俺たちはみなコンピュータのデータではない。
ぴったりと計ったゼロか1かなど、なれるはずがないのだ。
命は真空管のあの灯と同じだ。
輝いているあいだは、それに耳を傾けるものに必ずなにかを残す。
俺は柄にもなく、いつか自分に子供ができたときのことを考えた。
くだらないことばかりの俺の人生も、そうしたら今よりすこしだけ明るくなるのだろうか。
もの心ついたときオヤジを嫌悪した俺が父親役をやるのはなんだかこわかったがそれでもキャンドルと花束を目の前にしてそんなことを想像すると、俺はどこか懐かしい気分になった。
男の子を抱いたまま、南条は俺のところにやって来た。
うしろにはユニクロのスエットスーツを着たけっこう生活感のある女がついてくる。
若いころはさぞきれいだったろうが、化粧気もなく、身体の線は崩れかけていた。
南条は赤い顔を子供にすりつけながらいった。
「悠、自慢の孫だ。明洋、ほら池袋のゆうだ。挨拶しろ」
いつの間にか酔っぱらって名前は呼び捨てになっている。
名字のほうはきっと忘れてしまったのだろう。
男の子はいった。
「松田アキヒロ、四歳です。好きな食べ物はリンゴやミカンやメロンやフルーツです」
俺は自然に笑っていた。
「ちょうどよかった。俺の知り合いはこの近くで果物屋やってるんだ。今度売れ残りのフルーツいっぱいもらってきてやるよ。熟れててうまいぞ」
スエットの女が軽く頭をさげた。
「うちのおじいちゃんがご迷惑をかけてすみません。」
俺はあわてて立ち上がった。気がつくととなりのスパイダー男も直立不動になっている。
俺より先にやつが深々と頭をさげた。
「ねえさん、ごぶさたしています」
女は笑って見ていた。
「おおきな声はださないで。もうトシはいないんだし、わたしもチームとは関係ないんだから」
そこでようやくおれも口をはさむことができた。
「池袋のストリートギャングにあたったけど、空振りでした。すみません」
池袋という言葉をきいたとき、一瞬だけ女の表情が空白になった。
まったく音声が消された映画の一場面のようだ。
明洋の母親はすぐに笑顔にもどっていう。
「ありがとう。でも、もうあの人は帰ってこないから」
クモ男が背筋を伸ばしたままいった。
「今日は浩志さんはいらっしゃらないんですか
女の顔がさっきとは逆にふっと柔らかくなる。
「ええ、あの人は仕事だから。」
女は俺たちに軽く会釈すると、自動販売機にいった息子と祖父のほうに向かった。