ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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俺がロウソクの明かりを見つけたのは手すりの一本の足元で、そこにはいくつもの花束が露店の花屋のように平積みにされていた。
数本のロウソクと白い花束のまえには五十すぎの男が背を丸めてあぐらをかいている。
運の悪いことにこんなところで死んじまった誰かの家族なのだろう。
頭もひげも半分白くなっていた。
ファッションは前世紀のばりばりのアイヴィールック。赤いレターカーディガンのしたは白いボタンダウンシャツ。
ゆるめた襟元にはななめ縞のネクタイがくたびれている。
俺はロウソクの横を通りすぎるとき、そのオヤジから視線をそらせていた。
丸く落ちた両肩にも、悲しみの形を切り抜いた横顔も見ていられなかったからだ。
歩道の反対側にはツツジの植え込みが続き、街灯には土ぼこりで汚れた立て看板が止められている。
ゆっくりと歩きながら、俺はその看板を読んだ。
【この場所で2006年12月27日午前一時すぎ、殺人事件が発生しました。その時刻に、怪しい人物や行動を目撃した人は下記までご一報ください。池袋警察署】
あとには俺の携帯にもはいっている番号が続いていた。
おれがそいつを見ているのに気づいたのだろう。
アイヴィーオヤジは俺のほうに顔をあげていった。
「すまないが、あんたはその時間にどこでなにをしていた?」
五年前といえば、俺はまだ地元の中学の悪い生徒だった。
ケンカを売る、買うのバカ丸出しで刺されてもいいように腹に雑誌をいれて元気よく登校したものだ。
だが、もちろん五年前の「そのとき」のことなど正確に思い出せるはずがない。
俺は白い息をはいていった。
「悪いけど、覚えてないよ。ここでなくなったのは誰だったのかな。」
オヤジは俺のことをじっと見つめた。
歩道より高いテラスなので座っていても視線の高さはほぼ同じだった。
悲しい目が何かを探すように俺の足先から頭のてっぺんまでゆっくり上下した。
「今生きていたら、アンタより少し年上だったかもしれない。背はアンタくらいだな。利洋は俺のたったひとりの息子だった。」
その言葉はまっすぐ俺の胸の真ん中に刺さった。
そのオヤジも俺の父親が数年したらそのくらいだろうという年格好だったのだ。
あたりを見回した。
劇場通りのむかいに缶コーヒーの自動販売機があった。
俺はガードレールをまたいで通りをわたり、熱いカフェオレをふた缶かった。
五年前に息子をなくしたというオヤジのところにいって、テラスのうえにこつんと音をたてておいてやる。
「よかったら、飲んでくれ。今夜はけっこう冷えるからな。」
すまんなといったが、オヤジは缶コーヒーには手をつけなかった。
名前は南条靖洋(なんじょうやすひろ)というそうだ。
俺がなにもいわずにいるうちにポツポツと死んだ息子のことを語り始める。
数本のロウソクと白い花束のまえには五十すぎの男が背を丸めてあぐらをかいている。
運の悪いことにこんなところで死んじまった誰かの家族なのだろう。
頭もひげも半分白くなっていた。
ファッションは前世紀のばりばりのアイヴィールック。赤いレターカーディガンのしたは白いボタンダウンシャツ。
ゆるめた襟元にはななめ縞のネクタイがくたびれている。
俺はロウソクの横を通りすぎるとき、そのオヤジから視線をそらせていた。
丸く落ちた両肩にも、悲しみの形を切り抜いた横顔も見ていられなかったからだ。
歩道の反対側にはツツジの植え込みが続き、街灯には土ぼこりで汚れた立て看板が止められている。
ゆっくりと歩きながら、俺はその看板を読んだ。
【この場所で2006年12月27日午前一時すぎ、殺人事件が発生しました。その時刻に、怪しい人物や行動を目撃した人は下記までご一報ください。池袋警察署】
あとには俺の携帯にもはいっている番号が続いていた。
おれがそいつを見ているのに気づいたのだろう。
アイヴィーオヤジは俺のほうに顔をあげていった。
「すまないが、あんたはその時間にどこでなにをしていた?」
五年前といえば、俺はまだ地元の中学の悪い生徒だった。
ケンカを売る、買うのバカ丸出しで刺されてもいいように腹に雑誌をいれて元気よく登校したものだ。
だが、もちろん五年前の「そのとき」のことなど正確に思い出せるはずがない。
俺は白い息をはいていった。
「悪いけど、覚えてないよ。ここでなくなったのは誰だったのかな。」
オヤジは俺のことをじっと見つめた。
歩道より高いテラスなので座っていても視線の高さはほぼ同じだった。
悲しい目が何かを探すように俺の足先から頭のてっぺんまでゆっくり上下した。
「今生きていたら、アンタより少し年上だったかもしれない。背はアンタくらいだな。利洋は俺のたったひとりの息子だった。」
その言葉はまっすぐ俺の胸の真ん中に刺さった。
そのオヤジも俺の父親が数年したらそのくらいだろうという年格好だったのだ。
あたりを見回した。
劇場通りのむかいに缶コーヒーの自動販売機があった。
俺はガードレールをまたいで通りをわたり、熱いカフェオレをふた缶かった。
五年前に息子をなくしたというオヤジのところにいって、テラスのうえにこつんと音をたてておいてやる。
「よかったら、飲んでくれ。今夜はけっこう冷えるからな。」
すまんなといったが、オヤジは缶コーヒーには手をつけなかった。
名前は南条靖洋(なんじょうやすひろ)というそうだ。
俺がなにもいわずにいるうちにポツポツと死んだ息子のことを語り始める。