ー特別編ーワルツ・フォー・ベビー
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にぎやかな通りを歩いていて、ときどき空気がまったくない真空の場所にでくわすことがある。
誰もが普段見ているのに、自然に目をそらして見なかった振りをする特別な場所だ。
そいつはなにも大通りの交差点や横断歩道ばかりじゃない。
小銭をおろして出てきたATMのわきだったり、住宅街のちいさな児童遊園の入り口だったり、自販機が青い光を投げているすすけた暗い歩道だったりする。
そこにはいつもちいさな花束が飾ってある。
ガードレールや電柱に針金なんかでとめられたしおれた花束だ。
誰かの命が失われ、その誰かの毛とが好きだったものが置いていく白い花束。
ときにはプルをあけた缶ビールや火のついたままのタバコがえられることもあるだろう。
それは雨に濡れたテディベアになったり、十何代目かの仮面ライダーの変身グッズになったりもする。
俺たちはみなその花を見て、かわいそうな誰かがこんなところで死んだんだなと思う。
そして次の瞬間には、その日くう昼飯のことやデート相手のこと、ウインドウにつるしてある新しいハンドウォッシュの偽ヴィンテージジーンズなんかに心を奪われて、誰かがひとつ切りの命を無くした特別な場所のことなど忘れてしまう。
人類の長い歴史を考えれば、死は無数の場所に存在し、俺たちはどこかの誰かが死んだ土地の上を毎日一歩一歩踏みしめて歩いているのだ。
そんなふうに自分を納得させ、死を道端に落ちてるスポーツ新聞や踏み潰された空き缶みたいに、あたりまえの物にすりかえようとする。
だが、そこで死んだ誰かが、アンタにとってかけがえのない人間だったらどうする?
目をそらしてアスファルトや敷石の白々と冷えた一角を無視することができるだろうか。
かすかに光を放つようなその場所に、なにか特別な印を見つけずにいられるだろうか。
抽象的な死ではなく、愛するものの名前をもった死を、吸い殻のように転がるありふれたなにかにできるだろうか。
今回は池袋の街に数十とあるそうした路上の花束の話だ。
俺は白い花束が山のように供えられた、白い花びらのうえにいく粒かの涙が落ちるのを見た。
硬くしこった怒りと憎しみがその涙で溶かされていくのを目撃した。
俺たちが生きているどんなに悪い時代でも、許す者と許される者では許すほうが圧倒的に強い。
俺は腹のそこからそうわかった。
ちょいと暗い話だが、聞いてくれ。
こいつは俺が心から誇りに思うおかしなオヤジの話なんだ。
ーワルツ・フォーベビーー
誰もが普段見ているのに、自然に目をそらして見なかった振りをする特別な場所だ。
そいつはなにも大通りの交差点や横断歩道ばかりじゃない。
小銭をおろして出てきたATMのわきだったり、住宅街のちいさな児童遊園の入り口だったり、自販機が青い光を投げているすすけた暗い歩道だったりする。
そこにはいつもちいさな花束が飾ってある。
ガードレールや電柱に針金なんかでとめられたしおれた花束だ。
誰かの命が失われ、その誰かの毛とが好きだったものが置いていく白い花束。
ときにはプルをあけた缶ビールや火のついたままのタバコがえられることもあるだろう。
それは雨に濡れたテディベアになったり、十何代目かの仮面ライダーの変身グッズになったりもする。
俺たちはみなその花を見て、かわいそうな誰かがこんなところで死んだんだなと思う。
そして次の瞬間には、その日くう昼飯のことやデート相手のこと、ウインドウにつるしてある新しいハンドウォッシュの偽ヴィンテージジーンズなんかに心を奪われて、誰かがひとつ切りの命を無くした特別な場所のことなど忘れてしまう。
人類の長い歴史を考えれば、死は無数の場所に存在し、俺たちはどこかの誰かが死んだ土地の上を毎日一歩一歩踏みしめて歩いているのだ。
そんなふうに自分を納得させ、死を道端に落ちてるスポーツ新聞や踏み潰された空き缶みたいに、あたりまえの物にすりかえようとする。
だが、そこで死んだ誰かが、アンタにとってかけがえのない人間だったらどうする?
目をそらしてアスファルトや敷石の白々と冷えた一角を無視することができるだろうか。
かすかに光を放つようなその場所に、なにか特別な印を見つけずにいられるだろうか。
抽象的な死ではなく、愛するものの名前をもった死を、吸い殻のように転がるありふれたなにかにできるだろうか。
今回は池袋の街に数十とあるそうした路上の花束の話だ。
俺は白い花束が山のように供えられた、白い花びらのうえにいく粒かの涙が落ちるのを見た。
硬くしこった怒りと憎しみがその涙で溶かされていくのを目撃した。
俺たちが生きているどんなに悪い時代でも、許す者と許される者では許すほうが圧倒的に強い。
俺は腹のそこからそうわかった。
ちょいと暗い話だが、聞いてくれ。
こいつは俺が心から誇りに思うおかしなオヤジの話なんだ。
ーワルツ・フォーベビーー