エレベーターで地下駐車場におりてから、階段で一階のロビーにあがった。

ロビーはレイヴに疲れた客でごった返していた。

俺とタカシは普通に歩いて、混雑をすり抜けた。

「これならいくらお前でも見つかる心配はなかったな。」

横目で俺を見てやつは笑った。
おれには冗談で返すだけの力がもう残ってなかった。
ホテルの前の広場と握手をして王様と別れた。
俺は自分の部屋に戻りただ眠りたかった。

だがその前に一本だけ電話をかけなければならない。
俺は携帯でトワコの短縮を押したが、また留守電だった。

俺は朝方の西口公園で安堵のため息をついた。

これでヒデキのことをトワコに伝える最初の人間にならなくてすむ。

俺はやつがミドリの小袋を裂いたとき、実は少しだけほっとしたのだ。

これでトワコの一生にあの男の黒い影を落とすことはないだろうと。

おれとの関係がこれからどうなるかなんてまったく予想はつかなかったけれど、それはトワコにとって良いことに違いない。

俺は足をひきずって家にもどり、ベッドに倒れた。

この一年で一番きつい一日はこうしておわった。











事件の一報は昼のテレビニュースだった。

朝刊はあの時間では間に合うはずがない。

ホテルの外回りを清掃する業者がひび割れた窓に気づいて大騒ぎになったという。

位置を確認して客室係が1917号室に入ったところ、佐伯イッセイはすでに死亡。
だが、岡崎ヒデキは生存していた。
意識不明のままベッドで吐瀉物にまみれ倒れていたそうだ。

池袋署では薬物による自殺と見て検証を続けている。

驚いたことにニュースではミッドナイトサマーレイヴのことはまったく流れていなかった。

理由は午後のワイドショーを見てわかった。

ヘヴンはあの無許可レイヴを自社アーティストのプロモーションのためということで、ステージのVTRを各放送局にわたしていたのだ。

事件ではなくただの宣伝ならいくら規模が大きくてもニュースで取り上げることは出来ないだろう。

おもしろいことヘヴンの人気はこのゲリラレイヴでうなぎ登りのぼりになった。

みんなアンチヒーローが好きなのだ。


ちなみにこの日の最大級のニュースは誰かが池袋署の裏にとめすてていったレンタカーのトラックの中身だった、

匿名の冗談で荷台の扉をあけた池袋署員は、なかで汗だくで縛られ転がされた売人を発見することになった。

翌日売人の証言からボスの佐伯イッセイとドラッグデザイナー岡崎ヒデキの存在が浮かび上がりウロボロスは急速に終焉を迎えた。

ヒデキが借りていた一軒家からは、濾紙やフラスコなど科学実験の用具と大量の薬品が発見された。

ガレージのなかでは太陽光と同じ波長の光を発生するランプが灯され、大麻草が栽培されていたそうだ。

エディの頭部は荒川の底から下流に流されてしまったのだろう、どこからも発見されなかった。

俺はいまでもやつがとろりと開いた瞳孔でこの世界を見ているじゃないかと思うことがある。

今日も最高にクールだねー悠さん

そうなのだ。この世界は見方によっては、いつだって最高にクールなのだ。