行動報告書はこの四日間のヒデキの動静を追っていた。

トワコと住んでいる駒沢のマンションとは別にヒデキは田園都市線宮前平駅の近くにガレージつきの一軒家を借りていた。

四日間でそこに三回顔をだしている。
なかでなにをしているのかはわからない。

ただ興信所の調査員はきちんと近所の聞き込みをやっていた。

以前夜中に異臭騒ぎがあって、その一軒家が怪しいと近くに住む老人は証言したそうだ。

俺は紙の束から目をあげて空を見た。
警察でならこの報告書の内容は現状証拠ということになるのだろう。

だが、ストリートの法廷ではトワコのボーイフレンドは真っ黒だった。

弁解の余地もない。

問題はトワコがこの事を知っているかどうかた。
俺の心もヒデキと同じように真っ黒になった。

五年間のつきあい、同棲している男の職業を知らない女がこの世に存在するだろうか。

そんなこと片足のスーパーモデルが活躍するくらいのわずかな可能性しかない。

俺はその可能性を信じたかったが、信じきることは出来なかった。

人の善意より悪意を信じる。
大馬鹿野郎な俺にも理性というものがある。







運命の日曜日がやってきた。

俺の心はずいぶん打ちのめされていたので、当日になっても緊張も興奮も感じなかった。

たっぷりと昼寝して夕方に目覚めた。

シャワーを浴び、洗濯したての軍パンと和柄のシャツを身につけ、サングラスをしまう。

サングラスはエディがBBQのオススメといってくれたものだ。

俺がさっぱりした格好で玄関で靴を履いていると、マオがいった。

「悠、今夜も…帰らないのか…なの」

「多分帰らない。お前は今夜は外にはでるなよ。」

「りょーかい…なの」

俺は玄関を開けていった。

「…なぁ、俺に女ができたら…どうする？」

マオはいつものタンパクさでいった。

「ま、仕方ないから…愛人で我慢してやる…なの」

俺は笑いながら家を出た、







夜になり西口公園に行くと、すでにかなりの人間が詰めかけていた。

いつもの日曜夜の五割増といえところか。

俺は近くのコンビニで弁当とミネラルウォーターを買い、味のしない飯を腹に詰め込んだ。

食事ではなく補給だ。

俺はしだいに数を増すガキどもと夜が更けるのを待った。

広場は縁日や夏祭りのような陽気な期待かんに満ちていたが、俺の気持ちはどんどん冷めていった。

楽しむためにここにいるのではない。

狩るためにいるのだ。

俺は座っていたベンチを離れ、西口公園をゆっくりクルーズした。

公園につうじる道にはハザードを点滅させたクルマがとまり、なん組かのチームが待機していて。

俺を見つけるとそのなかの誰かがこっそりとS･ウルフのハンドサインを送ってくる。

どの進入路にも公園に入ろうとする若いやつが押し寄せていた。

群衆の中心は円形広場と噴水のあたりで、後端はすでに芸術劇場のほうまで延びている。