俺は一息でいった。

「場所は池袋駅西口、公園のある広場だ。広さはサッカー場がみっつくらい。人間は五千から一万は集まるだろう」

御厨は悲鳴のような声をあげた。

『無理だ。都心の繁華街では絶対に警察の許可はおりない』

「だから、こいつはほんもののシークレットレイヴなんだ。役人の許可など取らない。S･ウルフの手を借りて、すべての道路は封鎖する。夜中だから交通機関も動いてないし、携帯電話の電波を妨害するポータブルジャマーをばら撒いて、携帯も使えないようにする。西口公園を他の世界から完全に切り離すんだ。わかるか、ヘヴンとS･ウルフで一晩だけ、いっさいの法律から解放された革命状態を作る。どんな権力も経済力も介入しない一夜の天国だ。イッセイはいつだってほんもののレイヴを求めていたんだろ。東京の真ん中で、俺たちがそいつをオーガナイズする。やつは絶対にくいついてくる」

御厨はしばらくぶつぶつといっていた。
またエディと同じようなことをいう。

『そいつは最高にクールだな。東京の副都心で大規模なゲリラレイヴか。そうなるとうちのスタッフの何人かは警察に引っ張られるのを覚悟しないといけないな。まぁ、あれは道路法違反ぐらいの軽犯罪だから、志願者は結構いるだろう。面白いな…悠くん。ウロボロスなんかより、そっちの方が面白いくらいだ。』

さすがに天国の代表だった。寝ぼけていても圧倒的にのりがいい。

俺はいった。

「今夜S･ウルフとヘヴンのミーティングを開く。メトロポリタンで打ち合わせをする。そっちの名前で部屋をとってくれ。」

御厨は楽しそうにわかったといった。
俺が通話を切ると、タカシが俺の目をのぞきこんでくる。

「来週にはこの街で無許可のレイヴか。それでヘビの頭をぶっ潰す。悠、お前ってオーガナイザーに向いてるのかもしれないな。やって見たらどうだ。」

俺はゆっくりと首を振った。
自分でいったことがまだ信じられなかったのだ。

この街でほんとうにシークレットレイヴなどができるのだろうか。

俺は西口公園で荒れ狂う一万人のガキを想像しようとした。

とてもじゃないが無理な相談だ。
だが、事態はもう走りだしていた。

もう池袋に革命を起こすしか道はない。


エディの肩を支えて一度、S･ウルフの店をでた。

タクシーにやつをほうり込むためだ。

やつの住まいは下板橋の駅のそばにあるアパートらしい。

「もうウロボロスに近づくなよ。やつらはもう終わりだ。サツもスネークバイトを狙って網を絞り込んでる」

エディが俺を見上げた。

「でも、ぼくはどうしたらいいんだ。BBQの客引きはばっくれたし、中卒じゃまともな仕事なんてないよ。なにをやったってどうせダメなんだ」

俺はピシャリといった。

「ぶん殴るぞ。いくら不景気だって無理をいわなきゃなにか仕事はあるさ。なんならいっしょにBBQに頭をさげにいってもいい」

あの店の店長はS･ウルフのOBだった。
タカシに口をきいてもらい、俺が謝りにいけばなんとかなるかもしれない。