ー特別編ーWORLD・THE・Link【前】
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予定時間まで街をぶらぶらしようと店の横についた階段をおりると、母が誰かと話している声がした。
また、どこかに温泉旅行にでもいく計画かしら。
商店会のメンバーというのは、いい年をして、なにかしら遊びごとばかり考えているからね。
だけど、店のまえに立つのは、チャコールグレイのスーツを着た中年男と紺のワンピースの同年輩の女の人。
なんだか、どこかの名門校の入学式にでも、つきそいでいくような格好だった。
母はあたしに気づいていった。
「あんたに話があるって」
不機嫌な表情で、店の奥に消えてしまう。
ふたりはあたしに向かって、深々と頭をさげた。
「水谷信吾と申します。これは妻の理花です。」
あたしはユウキの母親の目元を見た。ちょっと眠たげな表情が息子によく似ている。
「お話をきいていただけないでしょうか。うちの一人息子のことなんですが。」
店の奥に目をやった。
母はあごの先を振って見せた。
いってこいという最低限のサイン。
「わかったわ。ついてきて。」
あたしたち三人がはいったのは、ロサ会館の一階にある古くさい喫茶店。
暗いガラスがはまった木製の引き戸があるようなところ。
とてもカフェなんて呼べる雰囲気じゃない。
だけど、この店はコーヒーと牛乳が美味しくて、なによりもうるさいガキがまったく寄り付かない。
池袋の駅前で、そんな店はめったにない。重宝する。
アイスコーヒーと牛乳をはさんで、あたしたちはなぜかたたきだしの銅板が張られたまぶしいテーブルをかこんだ。
ユウキの両親はお互いにうなずきあった。父親がいう。
「ご存知かもしれませんが、息子の佑樹は放火事件を起こしました。自宅に火をつけたのです。私たちは幸い軽傷でしたが、あの子の祖母はまだ入院中です。」
母親は心配なのかしら。
ひざにおいた手でもみ洗いをするようにハンカチをいじっている。
「あの子が施設から戻って、すぐに池袋西口の連続放火が始まりました。近所の口の悪い人たちは佑樹が放火に味をしめて、一連の事件を起こしてるんじゃないかと噂しついます。」
母もどこかで、その噂を聞いたのかもしれなかった。そうでなければ、あの不機嫌の意味がわからない。
「当人には確かめたの」
黙っていられなくなったのだろう。母親がテーブルに身体を乗り出して来た。
「はい。もちろん佑樹は自分ではないといっています。私も息子を信じています」
厳しい顔をしていた父親が口を開いた。
「ですが、今朝の明け方にあの子は、こっそり家に戻ってきました。何時に家をでたのか、外でなにをしていたのかもわかりません。そこに、文化通りの放火です。…恐ろしくて、話を聞く気にもなれませんでした。」
あたしは青白いユウキの顔を思い出した。きっと話をきいても、あのか細い声でやっていないというだけなのだろう。
恐ろしく反応の薄いガキだ。
また、どこかに温泉旅行にでもいく計画かしら。
商店会のメンバーというのは、いい年をして、なにかしら遊びごとばかり考えているからね。
だけど、店のまえに立つのは、チャコールグレイのスーツを着た中年男と紺のワンピースの同年輩の女の人。
なんだか、どこかの名門校の入学式にでも、つきそいでいくような格好だった。
母はあたしに気づいていった。
「あんたに話があるって」
不機嫌な表情で、店の奥に消えてしまう。
ふたりはあたしに向かって、深々と頭をさげた。
「水谷信吾と申します。これは妻の理花です。」
あたしはユウキの母親の目元を見た。ちょっと眠たげな表情が息子によく似ている。
「お話をきいていただけないでしょうか。うちの一人息子のことなんですが。」
店の奥に目をやった。
母はあごの先を振って見せた。
いってこいという最低限のサイン。
「わかったわ。ついてきて。」
あたしたち三人がはいったのは、ロサ会館の一階にある古くさい喫茶店。
暗いガラスがはまった木製の引き戸があるようなところ。
とてもカフェなんて呼べる雰囲気じゃない。
だけど、この店はコーヒーと牛乳が美味しくて、なによりもうるさいガキがまったく寄り付かない。
池袋の駅前で、そんな店はめったにない。重宝する。
アイスコーヒーと牛乳をはさんで、あたしたちはなぜかたたきだしの銅板が張られたまぶしいテーブルをかこんだ。
ユウキの両親はお互いにうなずきあった。父親がいう。
「ご存知かもしれませんが、息子の佑樹は放火事件を起こしました。自宅に火をつけたのです。私たちは幸い軽傷でしたが、あの子の祖母はまだ入院中です。」
母親は心配なのかしら。
ひざにおいた手でもみ洗いをするようにハンカチをいじっている。
「あの子が施設から戻って、すぐに池袋西口の連続放火が始まりました。近所の口の悪い人たちは佑樹が放火に味をしめて、一連の事件を起こしてるんじゃないかと噂しついます。」
母もどこかで、その噂を聞いたのかもしれなかった。そうでなければ、あの不機嫌の意味がわからない。
「当人には確かめたの」
黙っていられなくなったのだろう。母親がテーブルに身体を乗り出して来た。
「はい。もちろん佑樹は自分ではないといっています。私も息子を信じています」
厳しい顔をしていた父親が口を開いた。
「ですが、今朝の明け方にあの子は、こっそり家に戻ってきました。何時に家をでたのか、外でなにをしていたのかもわかりません。そこに、文化通りの放火です。…恐ろしくて、話を聞く気にもなれませんでした。」
あたしは青白いユウキの顔を思い出した。きっと話をきいても、あのか細い声でやっていないというだけなのだろう。
恐ろしく反応の薄いガキだ。