ー特別編ーWORLD・THE・Link【前】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
異常な夏の暑さが続く日々、さっぱり秋が近づくきがしなかった。
とにかく今年の夏は、東京に雨が振らなかったのよ。連日三十五度なんて猛暑が続けば、普通は空が耐え切れなくなって夕立がくるものだ。
それが真夏日がいくら記録を更新しても、雨粒ひとつ落ちてこないのだから、東京の空はいかれてるわ。
あたしは真夏の池袋を、タンクトップ一枚でうろついていた。
マイギターはしっかり担いでね。
事件なし、ストリートファイトなし、お金なし、男なし、女なし。
そういう数ヶ月をすごして、ほとんど禅僧な心境に達していた。
欲望を持たなければ、かけるものなどない。
心頭滅却すれば、火もまたすずし。
とはいっても、だらだらと汗を垂らしてる外見はかわらないんだけどね。
あたしがそのガキを最初に見かけたのは、ロサ会館一階にあるゲームセンターだった。
定番の散歩コース。
金がないから得意のUFOキャッチャーはやらないけど、ときどきゲーセンのくたびれた雰囲気に染まりたくなるのだ。
その子はひょろりと背の高い男のこだった。
ミニチュアの競馬ゲームには、周囲をとりかこんで八席のスツールがある。
これはCGではなく、昔懐かしの電動模型式。
客は二人だけで、ガキは誰もいないバックストレッチで、かちかちと刻むように前進するサラブレッドの駒を見つめていた。
あたしの第一印象は、慢性で神経性の大腸炎にかかってるガキというもの。
青白い顔に、棒のような手足。
平日の昼間に中学にもいかずに何してるのって感じだけど、あたしも現在進行形で学校を勝手に休んでうろついていてるし文句は言えない。
ひとつだけ忘れられないのが、ガキの手にさげたちいさな花束だった。
空を舞う粉雪のようなカスミソウの花。
あのリボンは確かあたしの友達の桜花鈴猫さんのお店のものだ。
そんなものを持ってるロマンチックなガキは、池袋のゲーセンにはいないしね。
嫌でも記憶に残ると言うものだ。
あたしはそのガキを見た。彼も見つめ返してくる。ショーウィンドウのなかのマネキンみたいに。
彼の目はなかに墨を塗られた黒い穴のようだった。
それ以降、あたしは彼とちょくちょく街で遭遇するようになった。
メトロポリタンプラザの噴水。
HMVのJポップ売り場
マルイのエスカレーター
それまではあまり見ない顔だったけど、もしかしたら近くに越してきたのかもしれない。
きっとどのクラスにも二、三人はいる不登校の生徒なのかもしれない。
あたしはそんなふうに思って、やつのことなど気にしなかった。
やることがなくて盛り場で時間を潰すのは、ひねたガキにはよくある話。
初めてやつと口を聞いたのは、うちの果物屋の店先でのこと。
ジーンズにあたしの知らないアニメキャラのTシャツを来た彼が、暗い顔でうつむいて歩いてくる。
手には例によってちいさなカスミソウの花束。
とにかく今年の夏は、東京に雨が振らなかったのよ。連日三十五度なんて猛暑が続けば、普通は空が耐え切れなくなって夕立がくるものだ。
それが真夏日がいくら記録を更新しても、雨粒ひとつ落ちてこないのだから、東京の空はいかれてるわ。
あたしは真夏の池袋を、タンクトップ一枚でうろついていた。
マイギターはしっかり担いでね。
事件なし、ストリートファイトなし、お金なし、男なし、女なし。
そういう数ヶ月をすごして、ほとんど禅僧な心境に達していた。
欲望を持たなければ、かけるものなどない。
心頭滅却すれば、火もまたすずし。
とはいっても、だらだらと汗を垂らしてる外見はかわらないんだけどね。
あたしがそのガキを最初に見かけたのは、ロサ会館一階にあるゲームセンターだった。
定番の散歩コース。
金がないから得意のUFOキャッチャーはやらないけど、ときどきゲーセンのくたびれた雰囲気に染まりたくなるのだ。
その子はひょろりと背の高い男のこだった。
ミニチュアの競馬ゲームには、周囲をとりかこんで八席のスツールがある。
これはCGではなく、昔懐かしの電動模型式。
客は二人だけで、ガキは誰もいないバックストレッチで、かちかちと刻むように前進するサラブレッドの駒を見つめていた。
あたしの第一印象は、慢性で神経性の大腸炎にかかってるガキというもの。
青白い顔に、棒のような手足。
平日の昼間に中学にもいかずに何してるのって感じだけど、あたしも現在進行形で学校を勝手に休んでうろついていてるし文句は言えない。
ひとつだけ忘れられないのが、ガキの手にさげたちいさな花束だった。
空を舞う粉雪のようなカスミソウの花。
あのリボンは確かあたしの友達の桜花鈴猫さんのお店のものだ。
そんなものを持ってるロマンチックなガキは、池袋のゲーセンにはいないしね。
嫌でも記憶に残ると言うものだ。
あたしはそのガキを見た。彼も見つめ返してくる。ショーウィンドウのなかのマネキンみたいに。
彼の目はなかに墨を塗られた黒い穴のようだった。
それ以降、あたしは彼とちょくちょく街で遭遇するようになった。
メトロポリタンプラザの噴水。
HMVのJポップ売り場
マルイのエスカレーター
それまではあまり見ない顔だったけど、もしかしたら近くに越してきたのかもしれない。
きっとどのクラスにも二、三人はいる不登校の生徒なのかもしれない。
あたしはそんなふうに思って、やつのことなど気にしなかった。
やることがなくて盛り場で時間を潰すのは、ひねたガキにはよくある話。
初めてやつと口を聞いたのは、うちの果物屋の店先でのこと。
ジーンズにあたしの知らないアニメキャラのTシャツを来た彼が、暗い顔でうつむいて歩いてくる。
手には例によってちいさなカスミソウの花束。