ー特別編ーWORLD・THE・Link【前】
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俺はいった。
「でも、どうして……」
あずみの声は聞き取れないほど細くなった。
「今はネグレクトって言うんだよね。うちの母親は再婚して、私が邪魔だったみたい。義理の父親といっしょに私をずっと無視していたんだ。お腹がへってもご飯を食べさせてもらえないの。妹や弟たちが晩ごはんを食べているダイニングのとなりで、私はいつも水だけ飲んでいた。あのときの私は七歳だったな。お腹が空いてすいてどうしても我慢できなくて、電子ジャーからご飯を盗んで食べたんだ。おかずはお醤油とマヨネーズとマーガリンだった。すごく美味しかったな。今でもあんなおいしいもの食べたことないよ。」
あずみは枯れ枝のように細い首をまっすぐ伸ばし、宙を見て笑った。
「買い物から帰ってきた両親はすごく怒った。冬だったけど私を裸にして、クリーニング屋の針金ハンガーで全身を叩いたもの。盗み食いをするなんて卑しいやつだ、お前は最低だって。もう身体中あざだらけ。その日は夜中まで裸でバルコニーにだされた。私は今でも誰かが見てるところでは何も食べられないんだ。それなのに…ラーメン屋で働いているなんて、笑っちゃうよね。ごめんなさい、千夜さん。こんな気持ち悪い女の子なんてもういっしょに働けないよね。」
そのときだった。
千夜が黙って立ち上がり。座っていた椅子を蹴り倒した。
俺たちはビクリとする。
千夜は落としていたガスの火を入れ、ドンブリを調理場においた。
あたりまえのように麺をほぐし、いつも以上に手際よく調理を続け、手を休めずにいった。
「グダグダ、ウジウジ。くそウゼェ。うちに役たたずは要らねぇぞ。……明日からも頑張るなら、今夜はうちのラーメンくってけよ。……おれたちは誰もあずみを見ねえからな。」
カウンターのうえに湯気をあげて和龍ラーメンがのせられた。
七種の具が豪華に入った人気の「和龍すぺしゃる」だった。
白熱電球の明かりがスープに浮いた脂に反射して、透明に光っている。
俺はカウンターに座ったまま、スツールをまわし東通りに向いた。
千夜は厨房の奥を睨んで、琉翔は壁に書かれたメニューを見て、みんながあずみに背をむけている。
おれに聞こえるのはあずみの泣き声と静かに麺をすする音だけだった。
千夜がいった。
今までで一番優しい声だ。
「どうだ、うちのラーメンは…不味いなんて言ったらブッ殺すからな。」
あずみの声は泣きすぎて言葉にならなかった。
「うん…うん……おいしい……」
千夜は続けていった。
「食ったからには、明日からまた来いよ。」
「……うん。」
くそ、なんで俺がもらい泣きしなけりゃならないんだ。
涙をこらえるのにぐったりと疲れた俺は背中越しに厨房にいった。
「なあ、俺にもラーメンひとつ作ってくれよ。大盛の全部のせ…特製の和龍すぺしゃる」
「俺にもな。」
「お前らは金払えよ。閉店後だし…二割増しでな。」
あずみが泣きながら笑っていた。
俺と琉翔は遅れてきたラーメンをすすった。
そのときの和龍ラーメンが、これまでのところ俺の生涯最高のラーメンだ。
その記録は今も破られていない。
涙とともに食べたものを人は忘れないという。
俺はその夜のあずみの涙が、子どもの頃とは違う理由なのがただ嬉しかった。
一杯のラーメンが文字通り人を救うこともあるのだという平凡な事実。
ヌードルスの店長が気づいていれば、つまらない嫌がらせなどするきも無かっただろうに。
「でも、どうして……」
あずみの声は聞き取れないほど細くなった。
「今はネグレクトって言うんだよね。うちの母親は再婚して、私が邪魔だったみたい。義理の父親といっしょに私をずっと無視していたんだ。お腹がへってもご飯を食べさせてもらえないの。妹や弟たちが晩ごはんを食べているダイニングのとなりで、私はいつも水だけ飲んでいた。あのときの私は七歳だったな。お腹が空いてすいてどうしても我慢できなくて、電子ジャーからご飯を盗んで食べたんだ。おかずはお醤油とマヨネーズとマーガリンだった。すごく美味しかったな。今でもあんなおいしいもの食べたことないよ。」
あずみは枯れ枝のように細い首をまっすぐ伸ばし、宙を見て笑った。
「買い物から帰ってきた両親はすごく怒った。冬だったけど私を裸にして、クリーニング屋の針金ハンガーで全身を叩いたもの。盗み食いをするなんて卑しいやつだ、お前は最低だって。もう身体中あざだらけ。その日は夜中まで裸でバルコニーにだされた。私は今でも誰かが見てるところでは何も食べられないんだ。それなのに…ラーメン屋で働いているなんて、笑っちゃうよね。ごめんなさい、千夜さん。こんな気持ち悪い女の子なんてもういっしょに働けないよね。」
そのときだった。
千夜が黙って立ち上がり。座っていた椅子を蹴り倒した。
俺たちはビクリとする。
千夜は落としていたガスの火を入れ、ドンブリを調理場においた。
あたりまえのように麺をほぐし、いつも以上に手際よく調理を続け、手を休めずにいった。
「グダグダ、ウジウジ。くそウゼェ。うちに役たたずは要らねぇぞ。……明日からも頑張るなら、今夜はうちのラーメンくってけよ。……おれたちは誰もあずみを見ねえからな。」
カウンターのうえに湯気をあげて和龍ラーメンがのせられた。
七種の具が豪華に入った人気の「和龍すぺしゃる」だった。
白熱電球の明かりがスープに浮いた脂に反射して、透明に光っている。
俺はカウンターに座ったまま、スツールをまわし東通りに向いた。
千夜は厨房の奥を睨んで、琉翔は壁に書かれたメニューを見て、みんながあずみに背をむけている。
おれに聞こえるのはあずみの泣き声と静かに麺をすする音だけだった。
千夜がいった。
今までで一番優しい声だ。
「どうだ、うちのラーメンは…不味いなんて言ったらブッ殺すからな。」
あずみの声は泣きすぎて言葉にならなかった。
「うん…うん……おいしい……」
千夜は続けていった。
「食ったからには、明日からまた来いよ。」
「……うん。」
くそ、なんで俺がもらい泣きしなけりゃならないんだ。
涙をこらえるのにぐったりと疲れた俺は背中越しに厨房にいった。
「なあ、俺にもラーメンひとつ作ってくれよ。大盛の全部のせ…特製の和龍すぺしゃる」
「俺にもな。」
「お前らは金払えよ。閉店後だし…二割増しでな。」
あずみが泣きながら笑っていた。
俺と琉翔は遅れてきたラーメンをすすった。
そのときの和龍ラーメンが、これまでのところ俺の生涯最高のラーメンだ。
その記録は今も破られていない。
涙とともに食べたものを人は忘れないという。
俺はその夜のあずみの涙が、子どもの頃とは違う理由なのがただ嬉しかった。
一杯のラーメンが文字通り人を救うこともあるのだという平凡な事実。
ヌードルスの店長が気づいていれば、つまらない嫌がらせなどするきも無かっただろうに。