ー特別編ーWORLD・THE・Link【前】
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俺はデジタルカメラの画面を見せて、無邪気にウエイターにきいてみる。
「ねえ、さっきならんでるときに撮ったんだけど、この人有名なラーメンプロデューサーの大谷さんじゃないかな」
ウエイターは腰をかがめて画面をのぞくと、にこやかに返事をした。
「違いますよ。この人はうちの店長です」
スツールから飛び上がって踊り出したい気分だったが、俺は笑いをかみ殺した。
「ふーん、そうなんだ。おれも実はラーメン屋やりたいんだよね。」
サービスの時間には秒単位の制限があるようだった。
それ以上おれの相手はせずに、ウエイターは無言でほほえむと前髪をかきあげていってしまった。
アルバイトをあわせればこの店を切り盛りするには二十人近い人手は必要だろう。
店長なら給料だってかなりもらっているはずだ。
それなのにじきじきに見え透いた嫌がらせをする。
おれにはエリートのやることはいつだって不可解だ。
ラーメンはすぐにやってきた。
白木の盆のうえにラーメンドンブリと杏仁豆腐のガラスの器、そしておまけで赤い紙袋にはいったフォーチュンクッキーがついている。
店長は不可解でもヌードルスのラーメンはちゃんとうまかった。
極細の縮れ麺にトリガラのあっさりスープ。
具はエビやイカやホタテの半生のローストだ。
こげたネギとピーナッツ油の香りがなかなか。
俺は最後の一滴までスープを飲み干して思った。
悪い人間がつくるラーメンはまずくて、いい人間がつくったラーメンはうまいなら、世界はどれほどすっきりわかりやすくなることだろう。
作者の人間性と作品のあいだになんの相関関係もないのは、芸術もラーメンも同じだった。
おれは思うのだけど、この皮肉で残酷な世界をつくったどこかの神様だって、もしかしたらすごく善良でいいやつなのかもしれない。
空のうえから哀れなおれたちをみおろして、きっとため息をついていることだろう。
善き意思から生まれた失敗作。
でも大傑作より失敗作のほうが…ロマンチックな感じでいいよな。
おれはそっちのほうが積極的に好きだ。
和龍にもどったのは夜九時すぎだった。
土曜の夜の九時はまだまだラッシュの時間。
おれは紺のTシャツ一枚になると手伝いを始めた。
千夜に報告することがたくさんあったが、今は客の注文以外をさばく余裕などまったくなかった。
おれたちが一息ついたのはのれんを店のなかにしまった十一時すぎだった。
途中、琉翔が来てまだ残っている。
毎日この辺りのラーメン屋を見回っているらしい。
テーブルを拭いてるあずみにおれはいった。
「もうずいぶん遅いぞ。帰らなくていいのか」
千夜の計らいでつかさは六時には上がってるし。
ひとつでも汁の染みなどが残っているのはきにいならいようだった。
あずみは力をいれてていねいにカウンターを拭いている。
「ええ、都電て夜の十二時近くまであるんです。」
おれは携帯の画面を見て、千夜と琉翔に声をかけた。
「ちょっといいかな。店の奥にきてくれ。」
千夜は厨房のパイプ椅子に腰かけて、おれはキャベツの段ボールに腰をおろした琉翔は調理台にもたれて立っている。
「ねえ、さっきならんでるときに撮ったんだけど、この人有名なラーメンプロデューサーの大谷さんじゃないかな」
ウエイターは腰をかがめて画面をのぞくと、にこやかに返事をした。
「違いますよ。この人はうちの店長です」
スツールから飛び上がって踊り出したい気分だったが、俺は笑いをかみ殺した。
「ふーん、そうなんだ。おれも実はラーメン屋やりたいんだよね。」
サービスの時間には秒単位の制限があるようだった。
それ以上おれの相手はせずに、ウエイターは無言でほほえむと前髪をかきあげていってしまった。
アルバイトをあわせればこの店を切り盛りするには二十人近い人手は必要だろう。
店長なら給料だってかなりもらっているはずだ。
それなのにじきじきに見え透いた嫌がらせをする。
おれにはエリートのやることはいつだって不可解だ。
ラーメンはすぐにやってきた。
白木の盆のうえにラーメンドンブリと杏仁豆腐のガラスの器、そしておまけで赤い紙袋にはいったフォーチュンクッキーがついている。
店長は不可解でもヌードルスのラーメンはちゃんとうまかった。
極細の縮れ麺にトリガラのあっさりスープ。
具はエビやイカやホタテの半生のローストだ。
こげたネギとピーナッツ油の香りがなかなか。
俺は最後の一滴までスープを飲み干して思った。
悪い人間がつくるラーメンはまずくて、いい人間がつくったラーメンはうまいなら、世界はどれほどすっきりわかりやすくなることだろう。
作者の人間性と作品のあいだになんの相関関係もないのは、芸術もラーメンも同じだった。
おれは思うのだけど、この皮肉で残酷な世界をつくったどこかの神様だって、もしかしたらすごく善良でいいやつなのかもしれない。
空のうえから哀れなおれたちをみおろして、きっとため息をついていることだろう。
善き意思から生まれた失敗作。
でも大傑作より失敗作のほうが…ロマンチックな感じでいいよな。
おれはそっちのほうが積極的に好きだ。
和龍にもどったのは夜九時すぎだった。
土曜の夜の九時はまだまだラッシュの時間。
おれは紺のTシャツ一枚になると手伝いを始めた。
千夜に報告することがたくさんあったが、今は客の注文以外をさばく余裕などまったくなかった。
おれたちが一息ついたのはのれんを店のなかにしまった十一時すぎだった。
途中、琉翔が来てまだ残っている。
毎日この辺りのラーメン屋を見回っているらしい。
テーブルを拭いてるあずみにおれはいった。
「もうずいぶん遅いぞ。帰らなくていいのか」
千夜の計らいでつかさは六時には上がってるし。
ひとつでも汁の染みなどが残っているのはきにいならいようだった。
あずみは力をいれてていねいにカウンターを拭いている。
「ええ、都電て夜の十二時近くまであるんです。」
おれは携帯の画面を見て、千夜と琉翔に声をかけた。
「ちょっといいかな。店の奥にきてくれ。」
千夜は厨房のパイプ椅子に腰かけて、おれはキャベツの段ボールに腰をおろした琉翔は調理台にもたれて立っている。