突然だけど、不景気もどんづまりのニッポンで最高のヴェンチャービジネスがなにか、アンタはしってるかい？


夢も希望もある若者がいまだに目を輝かせて続々と参入している業界だ。

もちろんそれはITバブル崩壊後のコンピューター関連じゃない。
最先端ソフトウェアやネットワークは必要ないのだ。

それどころか理工系の大学を出ていなくても平気だし、キーボードのブラインドタッチなんかもいらない。

大切なのは舌とセンスと根気だけ(どんな仕事でも続けていくには多少の運は欠かせない。)開業資金だってたかがしれてるし、ごく少人数でもスタートは切れる。

人生逆転の一発勝負が狙える旬の職種だ。

こたえは…なんと、ラーメン屋。

なかなか気の聞いた話だけど、最初にそれに気づいたのは残念ながら俺じゃない。

とあるファッション誌のカメラマンだ。
どこかのストリートブランドの新作をとるときなど、眉をきれいに整えた男性モデルでは格好がつかない。

こぎれい過ぎて生活感が足りないし、本来青春がもっているはずの(ほんとかな？)いちずさやピュアな感じが写真にでないという。

そこでカメラマンはロケハンをかねて、東京の街のあちこちでモデル探しをやるはめになる。

そして、彼はいい穴場を見つけた。歩き疲れてふらりとのれんをくぐった池袋のラーメン屋。

きれいにふき清められたカウンターの向こう側で、アルミニウムの寸銅がグツグツと乳化したゲンコツのうまみを濃縮している。

てきぱきと立ち働いているのは、きりりと締まった顔をした若い男が何人か。

髪は汗に濡れた藍染の日本手ぬぐいでちゃんとまとめられている。

はらの底から響く声と麺のゆで具合を確かめる真剣な目つき。

一杯八百五十円の味玉チャーシュー麺で、いくらでもモデルオーディションができるカメラマン天国ってわけだ。

彼がその店でスカウトした店員ふたりが、流行予定の衣装を着て、早朝のグリーン大通りに立ち、二週間後には雑誌の表紙を飾ることになる。

ファッションなんて表面だけだなんていうけど、俺はちゃんと時代を映す鏡になってると思う。

芸能界で楽して生きようなんてモデルより、荒れた手で毎日百本のネギを刻むラーメン屋の店員のほうがカッコいい時代なんだ。

その証拠に池袋のラーメン屋ではいつだって店の外に長い行列ができている。

有名店の月間売上は天文学的な三千万に迫るそうだ。いい仕事をしてるやつをきちんと評価するシステムが確立している業界なのだ。

十年以上も沈みっぱなしのこの国で、補助金も談合もなしに、そんなことが当たり前にできる産業がほかにいくつある？

同じ店員仲間として、俺の鼻だって高くなるというものだ。

…悠の真似して長くなったかな。



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【東口ラーメンライン】