ー特別編ー哀愁ブルドック
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ハルナがいった。
「大垣のおじさんが来たって事は、うちの父親にも話がいったんだよね。」
男に話しかけるときとは、大垣の声はまるで違っていた。
幼い女の子に語りかけるように丁寧で優しい。ふたりが初めてであったのは、ハルナがそんな年の頃なのかもしれない。
「課長のところにも、あの男が写真を送りつけてきたんです。きっとお嬢さんと課長と両方から金をゆすろうと考えていたんでしょう。」
ハルナがハイヒールのブーツで手すりを蹴った。
意外と澄んだきれいな金属音が鳴る。
「じゃあ、大垣のおじさんもわたしの写真見たんだ。」
「ええ、職務上やむを得なくというやつです」
「そうかあ、がっかりさせたねおじさんもうちの父親も」
大垣は辛抱強かった。
「別にがっかりなんてしないですよ。世の中にはいろいろな趣味がある。ベッドのうえくらい人間は自由でいいと思います。でも、ああいうことをするには相手を選ばなくちゃいけない。」
ハルナは全然こたえていないようだった。
「はいはい、わかりました。うちはお母さんがいなかったから、小さいころからおじさんにはずっと怒られていたもんね。うちの父親じゃなく、おじさんがお父さんだったら、良かった」
ハルナが小山のような肩に頭を預けた。
両手でつかんで、大垣はハルナをまっすぐ立たせた。
「お嬢さん、それは違う。さっきから聞いていると、お嬢さんは課長のことを、ずっとうちの父親と呼んでますよね。そんないい方をしたらいけない。うちの父親じゃなく、わたしのお父さんでしょう。」
ふたりの男を投げ飛ばしても涼しい顔をしていた男が必死になっていた。
「今回の事件だって、そうだ。もし、お嬢さんになにかあったら大変だ。課長は自分の出世を棒に振っても、すべてを明らかにするつもりだった。そのまえにひと仕事させてくれ、といって止めたのは私です。」
ハルナは真っ黒なアイシャドウで、大垣の右腕を見つめていた。じわじわと染みだした血がガーゼからこぼれていく。
「……あの父親が」
黙っているつもりだったが、俺は腕組を解いていった。
「ハルナ、アンタだって、最初にいっていただろう。父親にだけは迷惑をかけたくないって。別にMだから愛情表現までねじ曲げることないんじゃないか。お前、素直じゃないな。」
ハルナの目から、黒い涙がいくつかこぼれた。最初は小さくてよく聞こえない声だった。
「…お父さん……お父さん……わたしの、お父さん」
大垣が涙ぐんでいた。頭をなでていう。
「それでいいんですよ、お嬢さん」
真夜中の陸橋のうえでハルナが大垣の熊のような身体に抱きついた。
秋の夜風は乾いて、とても軽かった。
俺はそのまま数分待ってから、ふたりにそっと声をかけた。
「駐禁を切られる前に、帰ろうぜ。送っていくよ」
カズマの携帯電話とパソコンは、結局禅のところに持っていった。
そのままぶち壊そうかと思ったが、被害の実態調査は必要だろう。
やつがハードディスクにため込んでいた裸の女たちは総勢二十三人。
当然ハルナもその一人だ。
何日かして、プリントアウトの束をハルナに渡してやった。
「この写真とハルナの携帯に残った脅迫メールがあれば、いつでもカズマを豚箱にぶち込んでやれる。あとは好きなように使ってくれ。」
今度はクラブの前でなく、フロアわきのソファ席だった。
たまには俺も遊ぶのだ。
ハルナも酔ってたし、その後連絡は取っていないので、カズマがどうなったのかわからない。
別にあの程度の事件では新聞に載るとも思えないしね。
「大垣のおじさんが来たって事は、うちの父親にも話がいったんだよね。」
男に話しかけるときとは、大垣の声はまるで違っていた。
幼い女の子に語りかけるように丁寧で優しい。ふたりが初めてであったのは、ハルナがそんな年の頃なのかもしれない。
「課長のところにも、あの男が写真を送りつけてきたんです。きっとお嬢さんと課長と両方から金をゆすろうと考えていたんでしょう。」
ハルナがハイヒールのブーツで手すりを蹴った。
意外と澄んだきれいな金属音が鳴る。
「じゃあ、大垣のおじさんもわたしの写真見たんだ。」
「ええ、職務上やむを得なくというやつです」
「そうかあ、がっかりさせたねおじさんもうちの父親も」
大垣は辛抱強かった。
「別にがっかりなんてしないですよ。世の中にはいろいろな趣味がある。ベッドのうえくらい人間は自由でいいと思います。でも、ああいうことをするには相手を選ばなくちゃいけない。」
ハルナは全然こたえていないようだった。
「はいはい、わかりました。うちはお母さんがいなかったから、小さいころからおじさんにはずっと怒られていたもんね。うちの父親じゃなく、おじさんがお父さんだったら、良かった」
ハルナが小山のような肩に頭を預けた。
両手でつかんで、大垣はハルナをまっすぐ立たせた。
「お嬢さん、それは違う。さっきから聞いていると、お嬢さんは課長のことを、ずっとうちの父親と呼んでますよね。そんないい方をしたらいけない。うちの父親じゃなく、わたしのお父さんでしょう。」
ふたりの男を投げ飛ばしても涼しい顔をしていた男が必死になっていた。
「今回の事件だって、そうだ。もし、お嬢さんになにかあったら大変だ。課長は自分の出世を棒に振っても、すべてを明らかにするつもりだった。そのまえにひと仕事させてくれ、といって止めたのは私です。」
ハルナは真っ黒なアイシャドウで、大垣の右腕を見つめていた。じわじわと染みだした血がガーゼからこぼれていく。
「……あの父親が」
黙っているつもりだったが、俺は腕組を解いていった。
「ハルナ、アンタだって、最初にいっていただろう。父親にだけは迷惑をかけたくないって。別にMだから愛情表現までねじ曲げることないんじゃないか。お前、素直じゃないな。」
ハルナの目から、黒い涙がいくつかこぼれた。最初は小さくてよく聞こえない声だった。
「…お父さん……お父さん……わたしの、お父さん」
大垣が涙ぐんでいた。頭をなでていう。
「それでいいんですよ、お嬢さん」
真夜中の陸橋のうえでハルナが大垣の熊のような身体に抱きついた。
秋の夜風は乾いて、とても軽かった。
俺はそのまま数分待ってから、ふたりにそっと声をかけた。
「駐禁を切られる前に、帰ろうぜ。送っていくよ」
カズマの携帯電話とパソコンは、結局禅のところに持っていった。
そのままぶち壊そうかと思ったが、被害の実態調査は必要だろう。
やつがハードディスクにため込んでいた裸の女たちは総勢二十三人。
当然ハルナもその一人だ。
何日かして、プリントアウトの束をハルナに渡してやった。
「この写真とハルナの携帯に残った脅迫メールがあれば、いつでもカズマを豚箱にぶち込んでやれる。あとは好きなように使ってくれ。」
今度はクラブの前でなく、フロアわきのソファ席だった。
たまには俺も遊ぶのだ。
ハルナも酔ってたし、その後連絡は取っていないので、カズマがどうなったのかわからない。
別にあの程度の事件では新聞に載るとも思えないしね。